プレスリリース
特定外来生物カワヒバリガイが、水利施設を経由して他水系に侵入

- 茨城県内の那珂川水系で新たに発見 -

情報公開日:2016年11月21日 (月曜日)

ポイント

  • 農業用水路等に被害を与える特定外来生物1)「カワヒバリガイ」が、これまで生息が確認されていた利根川水系内から、隣接する那珂川水系に侵入していることを確認しました。
  • 那珂川水系と利根川水系は河川による繋がりはなく、カワヒバリガイは両水系を接続する水利施設を経由して侵入したと推定されました。
  • カワヒバリガイの発生地から取水している地域の水利施設やその周辺では、重点的に対応を行う必要があります。

概要

  1. 「カワヒバリガイ」は農業用通水パイプを詰まらせるなど、水利施設の運用に被害をもたらす特定外来生物です。関東地方では2005年に初めて生息が報告され、それ以降、主に利根川水系内の広い範囲で生息が確認されています。一方、利根川水系に隣接する那珂川水系では、2009年から2014年5月までの調査においてはカワヒバリガイの生息が確認されていませんでした。
  2. 農研機構農業環境変動研究センターは、2014年~2015年に行った調査において、利根川水系から取水している、那珂川水系内の水利施設(貯水池と水路)でカワヒバリガイが生息していることを確認しました。那珂川水系は利根川水系とは河川による繋がりがないことから、カワヒバリガイの侵入は水利施設を経由して起こったと推定されました。
  3. 那珂川水系へのカワヒバリガイの侵入は、ごく初期の段階にあると考えられ、現在、農研機構は関係する水利施設管理組織と連携し、貯水池や水路、河川を対象とする生息分布の把握や、冬季に貯水施設の水を抜くなどの駆除対策を進めています。
  4. 今後、カワヒバリガイの発生地から取水している地域の水利施設やその周辺では、侵入状況のモニタリングや施設管理スケジュールに合わせた駆除の実施など、重点的な対応が必要となります。

関連情報

予算:運営費交付金

背景と経緯

特定外来生物カワヒバリガイは中国・朝鮮半島原産の、淡水に生息する付着性二枚貝です(図1)。水利施設などに定着・増殖して通水パイプを閉塞させるなど人間の生活に悪影響を与えるとともに、侵入先の生態系に大きな変化をもたらすことが知られています。カワヒバリガイは、関東地方では2005年に初めて生息が報告され、それ以降、主に利根川水系内の広い範囲で生息が確認されています。一方、利根川水系に隣接する那珂川水系では、2009年から2014年5月までの調査においてカワヒバリガイの生息は確認されませんでした。

我が国には農業等による水利用を支えるために、水路や貯水池などの水利施設が古くから発達しています。これらの施設は、時として本来接続することのない河川や湖沼を接続してしまうため、それを経由した外来種の分布拡大が懸念されています(図2)。那珂川水系内の一部の地域には、利根川水系の霞ヶ浦から取水している水路や貯水池等の水利施設があるため(図3下)、これらの施設を経由したカワヒバリガイの同水系への侵入が懸念されていました。

そこで農研機構では2013年以降、水利施設を管理する各組織と連携し、利根川水系から取水している水利施設でのカワヒバリガイの侵入モニタリングを実施してきました。

内容・意義

  1. 2014年11月の調査において、那珂川水系内の、利根川水系から取水している貯水池(以下、貯水池A)でカワヒバリガイの生息を確認しました。
  2. この結果を受け、2014年~2015年に那珂川水系内にある貯水池Aとその流出水路・河川、貯水池Aから取水している貯水池Bにおいてカワヒバリガイの生息状況調査を行いました。その結果、カワヒバリガイが貯水池Aの岸の約半周にわたって生息していること(調査員1人10分間の調査で最大124個体)、遅くとも2013年には侵入していたことが明らかになりました(図4-i, ii)。また、貯水池Aから約1km離れた水路でも1個体を確認しましたが(調査員1人20分間の目視調査)、それ以外の調査地からは確認されませんでした(図3上)。生息の確認された範囲は狭く密度も低いため、那珂川水系へのカワヒバリガイの侵入はまだ初期の段階にあると考えられます。
  3. 現在、貯水池Aではカワヒバリガイの駆除を目的とする水抜きや侵入モニタリングが、農研機構と水利施設管理組織によって定期的に実施されています。これらの取り組みは、霞ヶ浦から取水する他の水利施設でも行われています。
  4. 本事例により、カワヒバリガイが水利施設を経由して他水系にも侵入し得ることが確認されました。カワヒバリガイの発生地から取水している地域の水利施設やその周辺では重点的に、侵入状況のモニタリングや施設管理スケジュールに合わせた駆除の実施などの対応を行う必要があります。

今後の予定・期待

農研機構は現在、霞ヶ浦から取水している水利施設を管理する組織と連携して、カワヒバリガイの生息状況の把握と駆除対策を進めています。今後はより効果的な密度管理手法と侵入防止策の確立に向け、水管理の現場と共に研究を進めていく予定です。

発表論文

伊藤健二 (2016) 那珂川水系における特定外来生物カワヒバリガイの侵入状況. 保全生態学研究 21巻1号 67-76

用語の解説

1)特定外来生物
『特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律 (外来生物法)』で指定され、規制・防除の対象となっている侵略的外来種。侵略的外来種とは、生態系、人の生命・身体、農林水産業に被害を及ぼすおそれのある外来生物。

参考図

図1
図1 貯水池Aの流入口に付着したカワヒバリガイ(左)とカワヒバリガイの生活史(右)
カワヒバリガイは生まれて10-20日の間、体長0.1mm程度のプランクトン幼生として水中を漂い、その後コンクリートや岩などに付着して成長します。増殖し密集して付着することで通水パイプを詰まらせたり、在来生物の生態系に悪影響を及ぼします。

図2
図2 元々相互に接続していない水系を水利施設(例:水路)が接続することによって生じる、外来生物の分布拡大の模式図
水系Yに水系Xの水を取水(黒矢印)したことによって、水系Xに生息している外来生物が新たに水系Yに侵入・拡大する可能性が生じます。

図3
図3
(上:拡大図)2015年5月までに明らかになった、カワヒバリガイの生息域
(下)那珂川水系(赤網掛け部分)と、利根川水系(黄色網掛け部分)の霞ヶ浦から取水している水路の位置関係
那珂川水系の一部の地域では、管水路などを経由して霞ヶ浦の水を利用しています。霞ヶ浦ではカワヒバリガイの生息が2005年から確認されていますが、那珂川水系内では2009年から2014年5月までの調査では確認されていませんでした。

図4
図4 貯水池Aにおけるカワヒバリガイの生息域・個体密度(i)と殻長頻度分布(ii)。
殻長頻度分布(ii)に示された曲線は、殻長頻度分布から識別されたサイズ群を表しており、この集団に複数回の加入(外部からの新たな侵入や貯水地内での繁殖による)があったことが示唆されます。成長に1年以上を要すると考えられるサイズ群(ii;矢印)が2014年に採集されたことから、カワヒバリガイは貯水池Aに遅くとも2013年には侵入していたと推測されます。