プレスリリース
(研究成果) 日本全国の土壌有機態炭素地図を作成

- FAO作成の全世界地図の日本部分、気候変動対策の立案などに利用 -

情報公開日:2017年12月26日 (火曜日)

農研機構
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所

ポイント

国連食糧農業機関(FAO)1)が全世界を対象に作成する地球土壌有機態炭素2)地図について、その日本部分を農研機構農業環境変動研究センターと森林研究・整備機構森林総合研究所が作成しました。本成果は、気候変動対策の立案や、持続可能な土壌資源の管理・利用を行うための、土壌有機態炭素に関する国際的な基盤データとして利用できます。

概要

土壌は気候変動、食料安全保障、持続可能な農林業開発、生物多様性の保全といった地球規模の問題に直接・間接的に関わっています。FAOに事務局を置く地球土壌パートナーシップ(FAO-GSP)3)は、これら問題解決に貢献する活動の一環として、FAO加盟国に協力を呼びかけて地球土壌情報システム(Global Soil Information System, GLOSIS)の構築を進めています。
この活動の具体的な成果の一つとして、陸域最大の炭素プールであり、気候変動に関与する二酸化炭素の吸収源として注目されている土壌有機態炭素について、1kmメッシュ(約1km×1km)単位で、深さ0-30cmの面積あたりの炭素量(ヘクタール当たりの炭素トン数)を示す地図を作成しました。
この度、全世界を対象に作成する地球土壌有機態炭素地図の日本部分を農研機構農業環境変動研究センターと森林研究・整備機構森林総合研究所が日本国内で実施されてきた土壌調査のデータを基に作成しました。
地球土壌有機態炭素地図は、地球規模、国別の吸収源対策等、気候変動対策の立案や、土壌肥沃度の一つの指標としての有機態炭素のベースラインを把握することにより、持続可能な土壌資源の管理と利用を行うための国際的な基盤データとして利用できます。
なお本成果は、FAO-GSPより世界土壌デー(12月5日)に公開されました。

関連URL

地球土壌有機態炭素地図(Global Soil Organic Carbon Map, GSOCmap;英語)
http://www.fao.org/news/story/en/item/1071012/icode/ (FAOのプレスリリース)

関連情報

予算:運営費交付金

開発の社会的背景

土壌は気候変動、食料安全保障、持続可能な農業開発、生物多様性の保全といった地球規模の問題に直接・間接的に関わっています。特に、土壌有機態炭素は陸域最大の炭素プールであり、その分解や蓄積が気候変動の主要な原因である大気の二酸化炭素の収支に影響を与えることが知られています。また、土壌から有機態炭素が失われると土壌の健全性が損なわれ、持続的な農林業生産が困難になることから、注目されています。

研究の経緯

FAO-GSPは地球全体の各種土壌情報を統一的に提供する「地球土壌情報システム(GLOSIS)」の構築を目指しており、その具体的な一歩として、気候変動、砂漠化防止、生物多様性保全といった地球規模の問題に対応するための基盤データとして求められている地球土壌有機態炭素地図(GSOCmap)の作成を行うこととし、加盟国に協力を呼びかけました。
これを受けて日本は、農林水産省等関係機関における調整の結果、農地部分は農研機構、森林部分は国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所が分担してデータ整理を行い、日本全国をカバーする日本土壌有機態炭素地図の作成を行いました。

研究の内容・意義

これまで実施されてきた土壌調査のデータを整理し、我が国では初めて、農地、森林などの土地利用方法によらず、同一規格により全国土の土壌有機態炭素地図を作成しました(図1)。

本地図の特徴

  • 1kmメッシュ(約1km×1km)単位で、深さ0-30cmの面積あたりの炭素量(ヘクタール当たりの炭素トン数)を示しています。
  • 農地、森林などの土地利用方法によらず、全国を同一の規格で地図化しています。
  • FAOが全世界を対象に作成する「地球土壌有機態炭素地図」の日本部分を構成しています。地球土壌有機態炭素地図はFAOより以下URLで公開されています。

地球土壌有機態炭素地図(GSOCmap;英語)

本地図作成に利用したデータ>

  • 農地土壌炭素貯留等基礎調査事業(2008年~)及び森林吸収源インベントリ情報整備事業(2006年~)で得られたデータ。
  • 自然湿地に分布する泥炭土に関する過去の土壌調査データ。

今後の予定・期待

FAO-GSPが公表する地球土壌有機態炭素地図により、世界中の土壌有機態炭素の状態を概観することが可能となりました。この地図は、土壌有機態炭素量に応じた二酸化炭素吸収源対策の策定、あるいは土壌有機態炭素量を指標として把握できる表土流亡など土壌劣化の状態に応じた地域毎に有効な土壌劣化対策の策定など、気候変動、食料安全保障、持続可能な農業開発、生物多様性の保全などの地球規模の問題に対処する際の共通基盤データとして利用が期待されています。
また、我が国においても二酸化炭素吸収源としての土壌有機態炭素蓄積量の評価や、「土づくり」をはじめとする持続的な農林業を可能とする土壌管理の実現等に対する基盤データとして利用が期待されます。

用語の解説

1)国連食糧農業機関(FAO)
世界の農林水産業の発展と農村開発に取り組む国連の専門機関。世界の人々の栄養と生活水準および農業生産性を向上し、農村に生活する人々の生活条件を改善して、世界経済成長へ寄与することを使命とします。

2)土壌有機態炭素
土壌中に含まれる有機物を構成する炭素。土壌有機物は、土壌の柔らかさ、粒状構造の発達等の物理性、養分保持能力、土壌の化学的緩衝能力等の化学性、生物性に影響するため、その量の目安である土壌有機態炭素量は土壌の性質を左右する重要な指標値です。

3)地球土壌パートナーシップ(FAO-GSP)
国連食糧農業機関(FAO)主導の取り組みで、地球の土壌資源を保障するための新たな国際協力の枠組み。英語での名称は 「Global Soil Partnership」で、食料安全保障と気候変化への対応を視野に入れ、地球の限られた資源である土壌の健康的かつ生産的な維持管理を保障するために、世界各国の関係者による国際協力の促進をめざす国際ネットワークです。

参考図

図1_土壌有機態炭素地図

図1 土壌有機態炭素地図
全国を1kmメッシュに分けて、深さ0-30cmの土壌中の有機態炭素量(炭素トン/ヘクタール)を表示している。図中の凡例どおり、色が濃い地点では有機態炭素量が多いことを示す。

お問い合わせ

農研機構農業環境変動研究センター

研究推進責任者:所長 渡邊 朋也
研究代表者:環境情報基盤研究領域 小原 洋
広報担当者:広報プランナー 大浦 典子
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国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所

研究推進責任者:所長 沢田 治雄
研究代表者:立地環境研究領域 石塚 成宏
広報担当者:企画部広報普及科広報係