プレスリリース
(研究成果) ウェブで使える「デジタル土壌図」に土づくりの実践に役立つ新機能と新データベースを追加

情報公開日:2020年8月 7日 (金曜日)

ポイント

ウェブ公開中の「デジタル土壌図」に、データ活用型の土づくりの実践に役立つ機能やデータを新たに追加しました。新機能の「土壌有機物管理ツール」を使うと、土づくりの指標となる土壌有機物の増減を、各地点のたい肥等の有機質資材の投入量等から簡単に計算することができます。また、全国約200地点の土壌温度・水分の日々の推定値や、全国約3,500地点の土壌断面調査データ等を追加しました。

概要

農研機構は、日本全国の土壌の種類や分布がわかる「デジタル土壌図」を作成し、2017年4月より 日本土壌インベントリー1)を通じてウェブ配信を行ってきました(無料)。この土壌図にはこれまでに15万件を超えるアクセスがあり、営農指導などの現場で広く利用されています。より利便性を高めるために、新たに1つの機能と3つのデータベースを追加し、本日公開しました。

【新機能】土壌有機物管理ツール:土づくりの指標となる土壌有機物について、堆肥等の施用による増減量を計算できます。

【新データベース】
  • 全国約200地点の土壌温度・水分の日々推定値
  • 全国約3,500地点の土壌断面調査データベース
  • 国際土壌分類方法に準拠した全国デジタル土壌図

また併せて、活用事例をまとめた「デジタル土壌図活用マニュアル」を作成し、公開しました。

関連情報

予算:運営費交付金

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構農業環境変動研究センター 所長 渡邊朋也
研究担当者 :
同 環境情報基盤研究領域 高田裕介
広報担当者 :
同 研究推進室(兼本部広報部広報専門役) 大浦 典子

詳細情報

社会的背景と経緯

農研機構は、日本全国の土壌の種類や分布がわかる「デジタル土壌図」を作成し、2017年4月よりウェブサイト「日本土壌インベントリー」を通じてウェブ配信を行ってきました。この土壌図にはこれまでに15万件を超えるアクセスがあり、営農指導や土づくりなどの現場でも土壌データの利活用が広がっています。
一方、生産現場ではデータをフル活用して、有機肥料の投入量を適切にコントロールすることで、コスト削減を図りながら、余剰養分の放出による環境への悪影響を防ぐことができる土づくりの実践が望まれています。土づくりの現場では、一般的にたい肥等の有機物を施用して、土壌中の有機物の量を維持する管理が行われており、農林水産省の地力増進基本指針の中でも、土壌中の有機物含量についてその維持すべき目標値、およびたい肥の種類や地目・土壌分類ごとの標準的なたい肥施用量が定められています。これまで農研機構では、「土壌のCO2吸収量見える化サイト」 2)で農耕地への有機物施用量から土壌中の炭素量の増減を計算し、土壌の二酸化炭素 (CO2) 吸収量として示すウェブサイトを公開してきました。しかし、土壌の物理性改善や養分保持などと密接に関係する土壌有機物含量の増減量は示していませんでした。また、これまで日々刻々と変化する土壌温度・水分量のデータは全国的に整備されておらず、このような環境データを活用した施肥管理技術(緩効性肥料の肥料成分溶出パターン把握等)や潅水支援技術の普及には至っていませんでした。
このような社会的背景を基に、今回、データ活用型の土づくりや施肥管理に役立つ新機能やデータベースを「デジタル土壌図」に追加しました。

追加された機能とデータ

  • 新機能「土壌有機物管理ツール」は、土づくりの指標となる土壌中の有機物含量が、たい肥の施用によってどの程度変化するか計算できるツールです(図1)。土壌図上で地点を選択して、栽培する作物、たい肥等の施用量、緑肥作物などの情報を入力すると、土壌有機物含量の年間増減量を計算することができます。
    土壌中の有機物を増やすことは、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)を土壌中に貯留することにつながり、地球温暖化の緩和に貢献できます。このツールでは、土づくりの副次的な効果としての土壌中へのCO2吸収量も計算できます。
  • 全国約200地点における深さごと(深さ1cm、5cm、10cm、20cmの4深度)、1日ごとの土壌温度と土壌水分の平年推定値 3)を公開しました(図2)。約200地点の位置は気象庁による気象観測地点に対応しています。本データは、緩効性肥料や施用有機物の肥料成分の溶出パターン把握などへの活用が期待できます。
  • 全国約3,500地点の土壌断面調査データを公開しました(図3)。深さ約1mまでの土壌層位ごとの土壌特性値等を閲覧できます。これらの情報は施肥設計や栽培管理等に活用できます。各データは断面調査を行った時点(約25~60年前)の分析値であり、その後の土壌管理により多少の変化が見込まれます。しかし、礫含量、粒径組成、塩基置換容量(CEC)、リン酸吸収係数などの土壌特性値は土壌管理による変化は比較的少ない数値ですので、現状の近似値として参照できます。
  • 国連食糧農業機関が作成した世界土壌資源照合基準(国際的な土壌分類方法)に準拠したデジタル土壌図(縮尺20万分の1相当)を公開しました(図4)。日本で広く用いられている包括的土壌分類体系第1次試案によるデジタル土壌図と並べて表示させることで、土壌分類名の国際対比を行うことができます。
  • 日本土壌インベントリーおよびそのスマホアプリe-土壌図II4)の使用方法やデジタル土壌図の活用事例をまとめて、デジタル土壌図活用マニュアルを作成して日本土壌インベントリー上に公開しました。

今後の予定・期待

今後は、デジタル土壌図の更新体制の構築を行うとともに、広域での土壌温度・水分量のリアル・タイム予測システムの開発などを行っていく予定です。
今後も、様々な機能や土壌特性値マップを開発し順次公開していく予定です。これらをオープンデータ・汎用形式で提供することにより、土壌情報の2次利用やユーザー独自のシステムでの利用が容易になり、各方面での土壌情報の利用が更に進むと期待されます。

用語の解説

日本土壌インベントリー
全国デジタル土壌図と農耕地土壌図の閲覧およびデータ提供の機能をもち、また土壌分類の解説や土壌温度などの情報を提供するウェブサイト
(https://soil-inventory.rad.naro.go.jp/)。
土壌のCO2吸収量見える化サイト
農耕地土壌に蓄積する炭素量の増減を計算し、土壌の二酸化炭素 (CO2) 吸収量として示すウェブサイト
(http://soilco2.dc.affrc.go.jp/)
土壌温度と土壌水分の平年推定値
日々の土壌温度と土壌水分の推定値は、日本土壌インベントリーで公開している土壌データと裸地面を想定とした予測モデルを用い、気象庁による気象観測データ(気温、降水量、日射量、相対湿度など)を使い計算しています。
e-土壌図II:iOS版アプリ(無料)
iOS搭載端末にインストールすることで、GPS機能を使い利用者の位置情報をもとに「日本土壌インベントリー」が配信する土壌図を検索、表示することができます。

参考図

図1 土壌有機物管理ツール
土壌図(左図)上をクリックすると、その地点に分布する土壌の分類名が表示されます。同時に、その地点の気象情報と土壌情報が土壌有機物の分解量を予測する数理モデルに自動的に入力されます。利用者は作物、緑肥の利用の有無、たい肥投入量、その他の有機質資材投入量を入力すると、その管理方法による土壌有機物の増減量を計算できます。例えば、農研機構が位置する茨城県つくば市の「腐植質普通アロフェン質黒ボク土」でコムギを栽培する場合、たい肥0.5t/10aを施用すると土壌有機物の量は維持できるという計算結果となります。
図2 日別土壌温度・水分推定値閲覧ページ
10の土壌種類ごとに全国200地点の土壌温度・水分の一日ごとの推定値(30年平年値と5年毎の平均値)を閲覧できます。
図3 土壌断面調査データベース閲覧ページ
深さ1mまでの土壌層位毎の土色や土壌構造、理化学性分析値(粒径組成、三相分布、pH、全炭素・窒素含量、交換性陽イオン、塩基置換容量、リン酸吸収係数)の情報を閲覧できます。
図4 国際土壌分類方法に準拠した全国デジタル土壌図の閲覧画面
右:国際土壌分類に準拠した土壌図、左:包括的土壌分類第1次試案による土壌図。