プレスリリース
(研究成果)日本には毎年何種の外来植物が侵入していたか 開国以降約150年間の推移を解明

- 今後の侵入削減目標を決める際の指標に -

情報公開日:2023年11月 8日 (水曜日)

農研機
森林総合研究所

ポイント

農研機構は、日本には毎年何種の外来植物が新規に侵入していたかを初めて定量化し、1845-2000年の推移を明らかにしました。日本に新規に侵入した外来植物の種数は、1900年までは年間5種以下でしたが、1950年代後半に年間16種に達しました。直近の1991-2000年の平均は年間13種でした。本研究で明らかとなったこれまでの侵入種数の値は、生物多様性や農林水産業にとって問題となりうる外来植物の侵入低減に向けて具体的な削減目標種数を決める際に指標として活用できます。

概要

人や物の国際的な移動の増加に伴い、日本を含む世界各地で外来種の導入と定着(これらを包括して「侵入」とよびます1))が進んでいます。外来種の中には、生物多様性2)や農林水産業、人の健康などに大きな被害をもたらすもの(侵略的外来種)があり、こうした種がさらに侵入することを防止するための対策が進められています。今後侵略的外来種の侵入数をどれだけ削減するか、具体的な目標を定める上で、現在までに、いつ、どれ位の種が侵入したのかを把握することは重要です。しかし、日本では、鎖国が終わった江戸末期以来外来植物が増え続けているものの、何年頃何種の外来植物が侵入したのか、また近年は何種が侵入しているのかなど、削減目標を設定する際指標にできる情報が整理されていませんでした。

日本における外来植物の年間新規侵入種数の推移

今回、農研機構は、森林総合研究所と共同で、日本に侵入した外来植物種をリスト化し、複数の外来植物図鑑と標本記録から各種の国内初確認年3)のデータを収集して、日本には毎年何種の外来植物が新規に侵入していたのか、江戸末期以降約150年間の長期推移を初めて明らかにしました。1年間に日本に新規に侵入した外来植物の種数(年間新規侵入種数4))は、1950年代後半に16種で最大となりました。1991-2000年の平均値は13種で、近年になっても毎年多くの種が新たに侵入していたことがわかりました。

2030年までの世界の生物多様性保全目標を定めた「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(2022年12月COP15で採択 https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/gbf/kmgbf.html)では、「侵略的外来種の導入率及び定着率を50%以上削減する」という数値目標が掲げられています。本研究で明らかになった外来植物の年間新規侵入種数の値は、上記の目標の達成に向けて、具体的な削減目標種数を決める際に指標として活用できます。

関連情報

予算:運営費交付金、科学研究費助成事業 基盤研究C「在来の草花の減少は外来園芸植物の栽培と野生化を促進するか?」22K12468

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構農業環境研究部門 所長山本 勝利
(国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所 所長浅野(中静)透
研究担当者 :
農研機構農業環境研究部門 農業生態系管理研究領域
主任研究員江川 知花
(国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所 生物多様性・気候変動研究拠点
主任研究員小山 明日香
広報担当者 :
農研機構農業環境研究部門 研究推進室杉山 恵
(国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所 企画部広報普及科広報係 日口 邦洋

詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

人間によって本来の生息地から別の地域に持ち込まれた外来種の中には、その地域の生物多様性や農林水産業、人の健康などに対して悪影響を与えるものがあります。外来種のうち、こうした問題を引き起こすものは「侵略的外来種」と呼ばれます。侵略的外来種による悪影響を軽減するため、2030年までの世界の生物多様性保全目標を定めた「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、「侵略的外来種の導入率及び定着率を50%以上削減する」という数値目標が掲げられ、各国はその達成に向け取り組むことになりました。

侵略的外来種は、導入や定着(これらを包括して侵入と称します)が確認された時点では、問題を起こすものかどうかわからないことがほとんどです。このため、侵略的外来種の侵入削減に関する検討は、問題を起こさない種を含む、外来種全体の侵入傾向の情報に基づいて行われてきました。これまでに欧米や中国では、種数の多い維管束植物5)について、年間新規侵入種数の推移が研究され、侵入傾向の定量把握が進んできました。一方、日本では、1854年に日米和親条約が結ばれ正式に開国して以来、外来維管束植物の種数は増え続けているものの、何年に何種が侵入したのか、また現在は毎年何種が侵入しているのか、定量的な把握は進んでいませんでした。すなわち、2030年までに侵略的外来種の導入率・定着率を50%以上削減するにあたり、指標にできる情報がない状況でした。

研究の経緯

そこで、農研機構と森林総合研究所は、開国直前の1845年から2000年までの日本における外来維管束植物の年間新規侵入種数の推移を明らかにし、その侵入傾向を定量的に示しました。

外来植物は、産業利用などの用途で意図的に持ち込まれる場合もあれば、輸入物などに付着あるいは混入して気づかないうちに(非意図的に)入り込む場合もあります。そこで、年間新規侵入種数の推移を、全ての種(外来植物全体)、意図的に持ち込まれた種、非意図的に入り込んだ種のそれぞれについて明らかにしました。

研究の内容・意義

外来植物の国内初確認年と導入経路のデータ収集と解析

日本列島で確認された維管束植物の種名を網羅的にとりまとめた「日本維管束植物目録」6)から、日本に自生しない帰化・逸出植物として記載されている種をすべて抽出し、日本に侵入した外来植物種としてリスト化しました。次に、複数の外来植物図鑑と、日本全国の博物館などが所有する生物標本情報を検索できるデータベースから、それぞれの種の国内初確認年のデータを収集しました。さらに、各種の導入経路を図鑑や文献などから調べて、最終的に1,300種以上の外来植物の国内初確認年と導入経路をまとめたデータセットを作成しました。このデータセットを用いて、1845年から2000年までの累積侵入種数を算出するとともに、年間新規侵入種数の推移を、全ての種(外来植物全体)、意図的経路で持ち込まれた種、非意図的経路で入り込んだ種、導入経路が不明な種のそれぞれについて解析しました。

日本における外来植物の年間新規侵入種数の推移

  • 国際貿易の発展や戦後の飛躍的な経済成長を経験した1900年から2000年までの100年間で、日本における外来植物全体の累積侵入種数は64種から1,353種へ劇的に増加しました(図1左)。年間新規侵入種数は、1900年まで5種以下でしたが、1950年代後半には16種に達しました(図1右)。イギリスにおける年間新規侵入種数は最大でも12種、中国では最大9種であったことと比べると、日本における外来植物の新規侵入種数は相対的に大きいものだったことがわかります。国内初確認年が不明の種が240種以上あったことをふまえると、実際に日本に侵入した外来植物種数はさらに多かったと考えられます。
  • 1961年以降、年間新規侵入種数は微減傾向でした。この理由としては、外来種の導入元である輸入相手国がある程度固定化したことや、国内で外来植物の定着しやすい環境が減ったこと、国際的に外来種対策が進んだことなどが考えられます。しかし、1991年から2000年までの10年間の平均値は13種と依然高い値に留まりました(図1右)。
    図1 外来植物全体の累積侵入種数(左)と年間新規侵入種数の推移(右)の推定
    左の図は、日本における外来植物の累積侵入種数を示しています。なお、ここで示しているのは国内初確認年のデータが得られた種のみの数です。
    右の図は、日本における外来植物全体の年間新規侵入種数の推移を示しています。ピンク色の曲線は、統計モデルによる推定結果です。累積種数と同様、年間新規侵入種数も実際にはこの数字よりも多かったと考えられます。

導入経路ごとの年間新規侵入種数

導入経路別にみると、経路が不明な種の侵入が最も多く、1991年から2000年までの平均値は年間9種でした(図2)。導入経路がわかるもので比較すると、意図的な持ち込みによる年あたりの新規侵入種数は、調査対象期間を通じて非意図的な入り込みによるものよりも多いことがわかりました(図2)。

図2 意図的経路で持ち込まれた種、非意図的経路で入り込んだ種、導入経路が不明の種の年間新規侵入数の推移の推定
図1の右の図と同様の見方をします。青色の曲線は、統計モデルによる推定結果を表しています。

今後の予定・期待

今回の研究により、日本には毎年何種の外来植物が新規に侵入していたのか、過去から現代までの長期的なトレンドが初めて明らかになりました。また、意図的な持ち込みによる新たな種の侵入数は、非意図的な入り込みによる侵入数より多かったこともわかりました。以上の成果は、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の達成に向けて、問題となりうる外来植物の新規侵入種数を向こう数年間で何種減らすか、具体的な削減目標を設定する際に指標として活用できます。また、どの導入経路から管理を行うかを検討する際の判断材料として役立ちます。ただし、初確認年や導入経路が不明の種が数多くあることから、実際には本研究で示されたより多くの種が侵入していたこと、経路間の違いは暫定的なものであることに留意が必要です。

日本における外来植物の侵入種数の長期推移が明らかになったことにより、今後、経済成長や気候変動などの長い期間をかけて進行する事象と外来種侵入との関係の理解がより進むことも期待されます。本研究では2000年までの推移を調べましたが、データの蓄積を待って2000年以降の推移が解析されれば、近年の外来種政策の有効性を評価することも可能になります。

用語の解説

外来種の侵入
外来種は、人間の活動にともなって本来自生しない地域に持ち込まれた生物です。「外来種の侵入 (Biological invasion, 生物学的侵入と訳されることもあります)」は、外来種が人間により本来生育しない地域に持ち込まれるプロセスである「導入」と、その地域で人間の援助なしに世代更新し個体群を維持するプロセスである「定着」を含む一連のプロセスです。「導入」には、意図的なものと非意図的なものがあります。
なお、侵入した外来種すべてが生物多様性等に悪影響を与えるわけではなく、問題となるもの(侵略的外来種)はそのうちの一部です。このため、ここで用いる「侵入」に問題の発生という意味は含まれません。
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生物多様性
様々な環境に適応して進化してきた生物の豊かさや、生物間の直接・間接的なつながりのことです。生物の豊かさとは、多様な種がいること(種の多様性)だけでなく、ひとつの種の中にも多様な遺伝子型があることも意味し(遺伝子の多様性)、これらは森林や河川など色々な環境があること(生態系の多様性)によって成り立っています。生物多様性は、人間が衣食住、社会経済活動、文化等を維持する上で不可欠なものです。[概要へ戻る]
国内初確認年
対象とする外来種が日本にいることが初めて確認された年のことです。外来種の初確認は、導入直後に行われることもありますが、多くの場合は定着した後に行われます。なお、本研究で収集した意図的導入種の初確認年は、栽培からの逸出個体の確認年とは限らず、栽培中の(逸出していない)個体の確認年である可能性もあります。これは、初確認年のデータソースとして用いた標本情報に、標本の個体が栽培下で採取されたものか逸出したものかについての記載がなかったためです。しかし、本研究では便宜上、逸出個体が初めて確認された年と見なして議論を行いました。[概要へ戻る]
年間新規侵入種数
1年間にある地域に侵入していることが新たに確認された外来植物の数です。過去に当該地域で確認されたことのある種は含まず、初めて侵入が確認された種のみを対象として算出します。[概要へ戻る]
維管束植物
シダ植物、裸子植物、被子植物からなる高等植物のことを指します。水や養分の通道や植物体の機械的支持のための組織(維管束)をもちます。維管束をもたないコケ植物は含まれません。[開発の社会的背景と研究の経緯へ戻る]
「日本維管束植物目録」
日本で見られる全ての野生維管束植物のほか、帰化植物や野生化している栽培植物をAPG分類体系に従って配列し、学名と標準的な和名を示した植物目録。米倉浩司著、邑田仁監修。2012年、北隆館発行。[研究の内容・意義へ戻る]

発表論文等

Egawa C, Koyama A (2023) Temporal trends in the accumulation of alien vascular plant species through intentional and unintentional introductions in Japan. NeoBiota, 83, 179-196.
https://doi.org/10.3897/neobiota.83.101416

研究担当者の声

農業環境研究部門 農業生態系管理研究領域 主任研究員 江川知花

本研究は、数年前に「新しい生物多様性保全目標(現在の昆明・モントリオール生物多様性枠組。当時はポスト愛知目標と呼ばれていました)には、外来種侵入防止の数値目標が入るようだ」と耳にしたことをきっかけにスタートしました。多くの資料を参照しながらのデータセット作成は根気のいる作業で、 同じ研究グループの富岡秋子さんのご協力が大きな助けとなりました。