プレスリリース
(研究成果) 大豆の生育障害を予測するAIモデルを開発

- 「青立(あおだ)ち」と「裂皮粒(れっぴりゅう)」の発生リスクを予測 -

情報公開日:2026年3月 3日 (火曜日)

ポイント

農研機構は、大豆の収穫作業を困難にする生育障害である青立(あおだ)1)、品質低下を引き起こす裂皮粒(れっぴりゅう)2)について、その発生リスクを生育中の環境条件から予測するAIモデルを開発しました。このモデルでは、大豆の品種と気温・土壌水分のデータから発生リスクを示すことができ、開花後の高温が障害の発生リスクを高めることを明らかにしました。この研究成果は、気候変動下でも安定した大豆を生産するための技術開発につながることが期待されます。

概要

近年、気候変動に伴う高温や干ばつなどの影響により、大豆の収穫期に見られる「青立ち」や「裂皮粒」といった障害が日本各地で多く報告されています。これらの障害は、気候変動に加えて、気象や土壌、播種時期や品種の違いなど、様々な条件が重なって発生すると考えられています。青立ちにより収穫作業の効率低下や汚粒が発生し、裂皮粒により品質が低下するなど、生産現場で様々な問題が生じます。

そこで、農研機構は、寒冷地から暖地の4か所での16年分の約500事例の大豆の栽培データと気温や土壌水分のデータを用いて、これらの障害の発生を生育中の環境条件から予測できるAIモデルを開発しました。

このモデルにより、大豆の開花が夏から初秋であった場合、青立ちの発生は開花後51~60日目、裂皮粒の発生は主に開花後21~30日目の10日間の平均気温に大きく影響を受け、どちらも開花後の該当期間の気温が高いほど障害の発生リスクが高まることが分かりました。

本研究は、これまで把握が難しかった「大豆の障害がいつ・どのような条件で起きやすいのか」という点について、科学的に示した初めての事例です。この成果は、将来の気候変動や環境変化に備え、大豆の栽培計画(播種時期・品種・管理)の検討や技術開発に大きく役立つことが期待されます。

青立ち株(左)と正常な株(右)
裂皮粒

関連情報

環境研究総合推進費「S-18」JPMEERF20S11806、環境研究総合推進費「S-24」JPMEERF25S12421

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 農業環境研究部門 所長山本 勝利
同 作物研究部門 所長石本 政男
研究担当者 :
同 農業環境研究部門 気候変動適応策研究領域
上級研究員熊谷 悦史
同 作物研究部門 畑作物先端育種研究領域
主任研究員山崎 諒
広報担当者 :
同 農業環境研究部門 広報担当小路 敦

詳細情報

開発の社会的背景

近年、日本各地で大豆の品質低下が起きており、生産者にとって大きな問題となっています。その主な背景には、気候変動の進行に伴う気温上昇や干ばつ、集中豪雨などの極端な気象の発生頻度の増加があります。これまでに経験の無い高温や干ばつなどの気象条件が、大豆の生育や品質に影響を与えていると考えられます。特に「青立ち」と「裂皮粒」という2つの障害が大きな問題となっています。

青立ちは、大豆の莢(さや)が茶色く熟しているにもかかわらず、茎や葉が緑色のまま枯れない状態です。この状態では、農業機械による収穫作業がしにくくなり、手間や時間が多くかかります。また、収穫時に茎や葉の汁が付着して粒が汚れたり変色したりすることで品質面でも大きな問題となります。裂皮粒は、種皮が部分的に裂ける現象で、見た目が悪くなり、加工もしづらくなるなど、商品価値の低下につながります。

これらの障害は、気温や土壌水分、播種時期、品種の特性など、複数の要因が影響して発生すると考えられています。しかし、従来の研究は限られた年や地域、品種を対象としたものが多く、全国的な傾向や発生の仕組みは十分に解明されていませんでした。そのため、生産現場では「いつ・どこで・どのような条件で障害が起こりやすいのか」を正確に予測することが求められています。

研究の経緯

青立ちや裂皮粒といった障害の発生要因を明らかにし、今後の対策につなげるため、農研機構は全国の研究拠点で長年にわたり蓄積されてきた大豆栽培試験データを活用しました。対象としたのは、寒冷地から暖地まで日本の主要な気候帯を幅広くカバーする4つの試験ほ場(秋田県大仙市、茨城県つくばみらい市、香川県善通寺市、熊本県合志市)から得られたデータです。これらの試験ほ場では、複数の大豆品種を育成・栽培し、生育の様子や障害の発生状況を継続的に記録しています。

この4試験ほ場のデータは、地域の気候特性の違いを反映しており、特定の産地や地域に偏らない全国的な傾向を把握することができます。対象品種は、日本各地で広く栽培されている「エンレイ」、「フクユタカ」、「リュウホウ」、「サチユタカ」、「里のほほえみ」の5品種です。さらに、大豆の生育データに加え、気温や降水量、日射量などの気象データ、土壌水分データもあわせて分析しました。気象データは農研機構が開発した農研機構メッシュ農業気象データ」3)、土壌水分は同じ気象データをもとに「大豆灌(かん)水支援システム」4)で予測された値を利用しています。

これらの多様なデータを組み合わせ、AI(人工知能)の一種である機械学習5)を使って、大豆の収穫期に見られる障害を品種や生育中の環境条件から予測するAIモデルを開発しました。さらに、このモデルを用いて、青立ちや裂皮粒が起きやすい主な要因や条件を詳細に解析しました。

研究の内容・意義

  • AIモデルで青立ち・裂皮粒の発生を予測

    この研究では、大豆の品種名に加えて、夏から初秋の開花の少し前から開花後の約2か月間までの気温と土壌水分の情報を用い、機械学習で青立ちや裂皮粒の起こりやすさを0から5のスコア(数値が大きいほど被害が大きい)で予測するモデルを開発しました。学習・検証には、農研機構が2008年から2023年までに全国4ほ場で集めた約500事例の大豆の生育や障害の記録を使いました。その結果、青立ちや裂皮粒の予測スコアは、決定係数と相対誤差で評価したところ、実測スコアとの対応が評価できました(図1)。このモデルは、過去の気象データや天気予報、将来の気候の見通しなどと組み合わせることで、栽培前の段階から青立ちや裂皮粒の発生リスクの高低を見通すための手がかりとなり、今後の栽培管理や品種選びに役立つことが期待されます。

    図1. 青立ちスコアと裂皮粒スコアを予測するモデルの評価 実測スコアは、各試験区の0~5評価の平均値(小数点を含む連続値)です。左は「青立ちスコア」、右は「裂皮粒スコア」の予測結果です。データの一部(約3分の2)を学習、残り(約3分の1)を検証に用いて評価しました。点線は予測と実測が一致するラインで、点がこの線に近いほど予測が正確です。予測精度は、決定係数(大きいほど一致)と相対誤差(小さいほど誤差が小さい)で評価しました。青立ちでは決定係数=0.55、相対誤差=15.3%、裂皮粒では決定係数=0.60、相対誤差=15.6%となり、実測スコアとの対応が確認できました。
  • AIモデルを解釈して示す「障害が起きやすい時期と気温の関係」

    本研究では、青立ちや裂皮粒が「いつ・どのような環境条件で起きやすいのか」を調べるため、AIの判断を解釈する手法6)を使いました。まず、モデルがどの要因をどの程度重視しているかを示したのが変数重要度です(図2)。図2の★印は、各障害で特に重要度が高かった期間の平均気温(青立ち : 開花後51~60日、裂皮粒 : 開花後21~30日)を示しています。これらの結果から、特に開花後の特定の時期の気温が障害発生に強く関係していることが分かりました。また、土壌水分については、一部の時期(例 : 青立ちでは開花後21~30日目)が影響しており、気温とあわせて障害の発生に関係していると考えられました。さらに品種によって傾向が異なり、青立ちの予測では、品種要因の中で「エンレイ」が相対的に重要でした。

    これらのうち、特に影響が大きかった時期の気温について、注目した期間の平均気温だけを変えたときに予測スコアがどう変わるかを示したのが図3です。青立ちでは、開花後51~60日目の10日間の平均気温がおおむね23°Cを超えると発生しやすくなる傾向が見られました。裂皮粒では、開花後21~30日目の10日間の平均気温がおおむね26°Cをこえると、発生しやすくなる傾向が見られました。また、気温と障害の発生リスクの関係は直線的ではなく、緩やかに変化した後に、ある温度を境に増え方が大きくなるなどの関係が確認されました。このように、AIを活用することで、全国の多様な環境条件から、障害が起きやすい条件の傾向を整理して示すことが可能となりました。

    また、青立ちは子実肥大期後半の高温で茎や葉が枯れにくくなることが原因の1つとされてきましたが、本研究では多くの年や地域、品種のデータを用いて解析することにより、過去の知見を科学的に裏付けることができました。

    以上のように、モデルの解釈を通して、「いつ・どのような環境条件のときに障害が起きやすいのか」を科学的に示すことができました。

    図2. 青立ちスコア・裂皮粒スコアに対する要因ごとの重要度 モデルが青立ち・裂皮粒の予測において、どの要因をどの程度重視して判断しているかを示した図です。品種(左側)と、開花前後の各10日間の平均気温・平均土壌水分(右側)について、それぞれの重要度を示しています。縦棒の高さは、各要因が予測にどの程度寄与しているか(重要度)を表します。図中の★印は、特に重要度が高かった要因を示しています。
    図3. 青立ちスコア・裂皮粒スコアと気温の関係 学習データをもとにモデルで予測した「青立ちスコア(左)」と「裂皮粒スコア(右)」の気温との関係を示しています。グラフの線は、対象とする要因以外は一定とし、注目した要因(青立ちは開花後51~60日目、裂皮粒は開花後21~30日目の平均気温)だけを変化させた場合の全学習データの平均的な予測スコアの変化を表しています。

今後の予定・期待

今後は、「そらシリーズ」(農研機構が育成した多収品種群)など対象とする大豆の品種を増やし、より多くの地点で今回の予測手法が使えるかどうかを検証していく予定です。これにより、モデルの使いやすさや信頼性をさらに高めていきます。また、青立ちや裂皮粒だけでなく、「収量」や「百粒重(種の大きさ)」、「タンパク質の量」といった他の重要な特性にもこの方法が使えるかどうかも検討し、将来的には、できるだけ少ない情報から高い精度で予測できるモデルの開発を目指しています。

さらに、モデルの予測精度を高めるための改良も進めており、モデルの結果とこれまでの研究の知見を組み合わせることで、青立ちや裂皮粒が起こりやすくなる仕組みの理解も深めていきたいと考えています。今後想定される気温上昇などの将来の気候条件にもこのモデルを応用し、障害発生リスクの予測や有効な対応策の検討も進めています。

このような仕組みが整えば、生産者や営農を支援する人たちが、その年の環境条件に合わせて「いつ播種するか」「どの品種を育てるか」を柔軟に決められるようになり、気候変動の影響を受けにくい安定した大豆生産の実現に寄与すると考えています。

用語の解説

青立ち
収穫時に茎や葉が緑のまま残る生育障害。青立ちの程度は、育種分野で一般的に用いられている0~5の6段階のスコアで評価されます。スコア0は「青立ちなし」、スコア1は「茎にわずかに緑色が残る」、スコア2は「茎の緑色が強く残る」、スコア3は「葉柄まで残る」、スコア4は「葉まで残る」、スコア5は「ほとんど落葉しない」状態を表します。解析では複数区の平均値(小数を含む連続値)を用いました。 [ポイントへ戻る]
裂皮粒
大豆の種皮が裂ける品質障害。裂皮粒の程度も育種分野で広く用いられている0~5の6段階のスコアで評価されます。スコア0は「調査した粒のうち障害粒率0%」、スコア1は「1~4%に裂けがある」、スコア2は「5~14%」、スコア3は「15~29%」、スコア4は「30~49%」、スコア5は「50%以上に裂けがある」状態を示します。解析では複数区の平均値(小数を含む連続値)を用いました。 [ポイントへ戻る]
農研機構メッシュ農業気象データ
農業に役立つ気象情報を、約1km四方の細かな範囲ごとに提供するWebサービスです。気温や日射量、降水量など、全部で14種類の気象データが利用でき、農業現場や研究に広く活用されています。
https://amu.rd.naro.go.jp/wiki_open/doku.php?id=start [研究の経緯へ戻る]
大豆灌水支援システム
大豆の栽培中に、灌水(水やり)のタイミングを知らせてくれるWebシステムです。FAO(国連食糧農業機関)の灌水ガイドラインに基づき、大豆が水不足になりやすい時期を予測し、土壌水分が足りているかを教えてくれます。気象データや土の性質などをもとに、畑の土壌水分を推定する仕組みです。
https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/tarc/154332.html [研究の経緯へ戻る]
機械学習
AIの技術の1つで、データからパターンやルールを見つけ、それに基づいて事物の分類や予測を行う技術です。本研究では、多くの条件を組み合わせて判断する「ランダムフォレスト」という手法を使いました。 [研究の経緯へ戻る]
AIの判断を解釈する手法
AIがどのような情報を重視して判断しているのかを、グラフで分かりやすく示す方法です。まず、変数重要度によって、モデルがどの要因をどれだけ重視しているかを確認します。また、ある要因を変えたときに予測結果がどのように変化するかを描くことで、AIが見つけた関係の傾向を読み解くことができます。本研究では、「部分依存プロット」という手法を使いました。この方法では、注目する要因だけを動かし、他の条件は同じとしたときに、予測スコアが平均的にどう変わるかを示します。 [研究の内容・意義2.へ戻る]

発表論文

Kumagai, E., Takimoto, T., Hishinuma, A., Takada, Y., Oki, N., Yamazaki, R., 2025. Machine learning approaches for predicting soybean disorders under climate change and assessing adaptation measures. European Journal of Agronomy. 170, 127770.
https://doi.org/10.1016/j.eja.2025.127770