独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所
国立大学法人 鹿児島大学
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究センター
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)動物衛生研究所は鹿児島大学と共同で、マダニの腸で作られる蛋白分解酵素の一種「ロンギパイン」が、マダニが媒介する病原体の増殖を抑制していることを明らかにしました。マダニは、ウシ、ウマやイヌなどの動物にバベシア症(ヒトのマラリアに似た疾患)の病原体を媒介します。マダニの体内における病原体媒介の仕組みを、分子レベルで解明したのは世界で初めてです。マダニが持っている病原体制御機構を利用して、マダニが媒介する感染症に対する新たな防除法の確立が期待できます。
本研究では、「ロンギパイン」が蛋白分解酵素の役割を果たしていることを突き止め、実験により「ロンギパイン」が病気の原因となるバベシア原虫を死滅させることを確認しました。さらに「ロンギパイン」を作り出せないマダニを遺伝子操作で作出し、感染したイヌに付着、吸血させ、バベシア原虫がこのマダニ内で増加していることを確認しました。
バベシア症のような人類を脅かす感染症の多くは、ダニや昆虫などの吸血性の節足動物が病気の原因となる生物を媒介することで広がっていきます。本成果により、長い間謎とされてきたマダニの媒介する病原体による動物の感染症の伝搬の一つを明らかにしました。
今回の研究は、農研機構生物系特定産業技術研究支援センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」のうち、「マダニの生存戦略と原虫媒介のInterfaceに関する分子基盤の解明」で実施されたもので、成果は2008年5月16日にオープンアクセス誌「PLoS Pathogens」に発表されました。
Naotoshi Tsuji, Takeharu Miyoshi, Kozo Fujisaki et al. A Cysteine Protease Is Critical for Babesia spp. Transmission in Haemaphysalis Ticks. PLoS Pathog. 2008 May; 4(5): e1000062. Published online 2008 May 16. doi: 10.1371/journal.ppat.1000062.