独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)動物衛生研究所は北海道立畜産試験場と共同で、BSEの精度の高い臨床診断を可能にすることを目指し、牛の脳幹機能検査で新たな知見を獲得しました。
我が国での牛のBSE確定検査は、死後の脳を使って行われています。BSEの原因となる異常プリオン蛋白質(PrPSc)は脳幹などに蓄積することが知られていますが、生きたままの牛の脳を採取して検査することは極めて困難であり、これまでBSEか否かを生前診断する技術は確立されていません。また、牛の外見や症状のみからBSEと診断することは非常に困難です。
本研究ではBSEプリオンを脳内接種して実験的に作出したBSE罹患牛で、音の刺激を与えることによって脳内で非常に短時間内に生じる微細な電気的な変化「聴性脳幹誘発電位(BAEP)」(脳波の一種)を頭部の皮膚につけた針電極で捕捉して波形を解析し、BSEの症状の進行に伴い脳幹の特定の部位におけるBAEP波形に特徴的な変化が起こることを明らかにしました。BSEに罹った牛では、音の刺激を与えてからBAEP波のピークが検出されるまでの時間が遅くなり、BAEP波の電位低下も起こります。また、震え等の神経症状を示す罹患牛ではBAEP波形の出現閾値が上昇する(小さな音に反応しなくなります)など、BAEPの波形に明らかな違いがありました。この結果はBSEに特徴的な脳幹の病変を反映していると考えられます。
今回学会発表する脳幹機能検査法は、まだ研究段階で今後多くの科学的知見の集積が必要となりますが、神経症状を示している牛についてBSEの疑いがあるか否かを絞り込める診断手法の開発につながるものです。なお、BSEの確定診断には現在採用されている延髄を用いた異常プリオン蛋白質の検査が必要です。
なお、本研究は農林水産省の「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」により実施したもので、本成果は「脳幹機能障害検出法、システム、並びにプログラム」として特許申請中です。