研究の背景
異常プリオン蛋白質は熱処理や酵素処理に対して安定であるため、これを効率よく不活性化する方法の開発が必要である。そのため、現在、我国では牛海綿状脳症(BSE)の原因物質である異常プリオン蛋白質の高感度検出方法ならびに当該蛋白質の不活化技術の開発が急務とされており、動物衛生研究所を中心に種々の取り組みがなされている。本研究は、独立行政法人農業技術研究機構動物衛生研究所と明治製菓株式会社との共同研究「異常プリオン蛋白質分解活性を有する酵素生産菌株の探索」ならびに明治製菓株式会社における新規酵素の開発の一貫として実施されたものである。
研究成果
異常プリオン蛋白質(マウス脳の抽出物)を分解する酵素生産菌につき、明治製菓株式会社が長年にわたって収集して選抜した所持菌株を中心に、動物衛生研究所にてウエスタンブロッティング法を用いて広く検索した。 その結果、当該蛋白質を強力に分解するバチルス(Bacillus)属の菌株を1株見出した。次いで、本菌株が生産する酵素(ケラチナーゼ、プロテアーゼの一種)の酵素化学的特性を明らかにした。現在、本酵素の遺伝子をコードするDNA配列を解読中である。なお、本成果については、特許出願済みである。
期待される効果
異常プリオン蛋白質は、熱に極めて安定であり通常の殺菌処理(120°C前後の蒸気を使用)では不活化されず、かつ通常の蛋白質分解酵素に対しても極めて安定である。しかしながら、本研究成果により、異常プリオン蛋白質に汚染された可能性のある器具(例えば畜産分野における屠殺用器具、医療分野における手術用器具など)を容易に洗浄して感染を防止することができ、我が国におけるBSEの清浄化に資することができる。
また本研究成果は、異常プリオン蛋白質以外にも適応可能である。現在、難分解性であるが故にその処理が課題となっている羽毛等につき、それらを効率的に分解することにより、家畜飼料への応用および有価物回収などの多目的利用の実現が可能となる。
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