プレスリリース
牛のアカバネ病の診断が迅速、簡便になる

- ELISAキットを共同開発 -

情報公開日:2006年2月22日 (水曜日)

独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 動物衛生研究所 九州支所とチッソ株式会社(本社:東京都中央区、社長:岡田俊一)は、牛のアカバネ病の原因であるアカバネウイルス抗体を簡便に検出するELISAキットを共同開発し、発売することになりました。アカバネ病は牛に先天異常を起こす病気で、ヌカカなどの吸血昆虫によって伝染します。わが国で初めて確認された1972年から1975年までの間におけるアカバネ病による被害額は50億円以上と推定されております。現在、アカバネ病の予防には、過去の発生地域を調査してウイルスの流行前にワクチン接種を行うことが最も効果的であるとされています。

これまでウイルスの流行状況を調べるには、牛から定期的に採血して、中和試験という方法によりウイルスに対する抗体の有無を測定してきました。しかし、中和試験を行うには無菌室や生きたウイルスを使用する施設が必要になるという制約と判定に7日以上の時間がかかるなどの欠点がありました。
今回開発したキットは酵素免疫測定法(ELISA法)を用いたもので、特別な設備のない検査室でも使うことができ、特異性にも優れています。また、大量のサンプルを診断する場合でも検査開始から4時間で結果判定ができることから迅速性にも優れています。

酵素免疫測定法(ELISA法)

アカバネELISAキット

本キットは中和モノクローナル抗体と牛抗体との競合結合を利用した、酵素免疫測定法(ELISA法)による抗体検出キットです。中和モノクローナル抗体はアカバネウイルスとのみ反応し結合する抗体を酵素で標識したもので、これを検査する牛の血清と混ぜてからアカバネウイルス抗原に反応させたとき、牛の血清中にアカバネウイルスに対する抗体があれば、中和モノクローナル抗体はウイルスに結合できません。こうした中和モノクローナル抗体の結合の程度を、標識した酵素の活性として測定するのが酵素免疫測定法(ELISA法)です。
本キットは中和モノクローナル抗体を使っているため、中和試験と同様の抗体測定が可能であり、特異性も高く、牛以外の動物の血清にも使えるという利点があります。本キットは以下の検査用試薬がセットになっており、面倒な試薬調整が必要ありません。

(キットの内容)

  • 抗原液
  • モノクローナル抗体固相化マイクロストリップ
  • 抗原希釈用液
  • 標識抗体希釈用液
  • 指示陰性血清
  • 指示陽性血清
  • 標識抗体溶液
  • 発色基質液
  • 反応停止液

測定原理

アカバネELISAキットの実用化の効果

アカバネウイルス抗体の検査は、これまで都道府県の家畜保健衛生所や研究所などの検査設備を備えた検査室で実施されてきましたが、一度に多検体を検査することができないなどの制約があり、広範囲なウイルス流行調査等は困難でした。本キットが市販されることで、特別な施設や技術的制約なしで検査が可能になり、牛群単位の免疫状態も測定することができ、アカバネ病の診断が迅速かつ簡便に出来、しかも精度も向上します。


詳細情報

用語説明

アカバネ病と先天異常
アカバネウイルスによって起こる牛やヤギ、ヒツジの流産、死産、早産と新生児の奇形をアカバネ病と呼ぶ。アカバネウイルスが妊娠した母獣に感染したとき、ウイルスは血液によって子宮に到達し子宮内の胎児に感染する。胎児はウイルスによって様々な異常を起こし死亡することもある、死亡しない場合でも出生時には大脳欠損や四肢の関節彎曲などの異常を持って生まれる。こうした生まれつきの異常を先天異常という。

中和試験と特異性
ウイルスや毒素など、生体に対する感染性や毒素、酵素活性などの生物学的活性を有する抗原に対して、抗体を反応させてそれらの活性が阻害されるかどうか確認する試験である。抗原に特異的に結合して生物学的活性を消失または減退させるものを中和抗体という。ウイルスは培養細胞に感染してこれを死滅させるが、中和抗体を含む血清を反応させるとこれは阻止される。こうした反応を試験管内で行い、ウイルス感染を阻止した抗体の程度を調べる方法をウイルス中和試験という。中和抗体はウイルスが細胞に感染するために必要な極めて限られた場所に結合することで感染を抑える。中和抗体は特定のウイルスのみに反応し、他のウイルスには全く反応しないという特異性を持っている。

ELISA法および標識
Enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)で酵素免疫測定法と訳す。酵素を化学的に抗体に結合させ(これを標識という)、その抗体を使って抗体や抗原の量を酵素活性の程度として測定する方法である。抗原や抗体をプラスチックプレートに貼り付けて、操作をやりやすくしたものがELISA法である。

中和モノクローナル抗体
1個のリンパ球を元にして、大量の増殖型リンパ球を培養して得た均一な抗体をモノクローナル抗体という。リンパ球が違えば抗体の性質も異なるが、このうち中和活性を持つものを中和モノクローナル抗体という。

競合結合
抗体は特異的に抗原と結合するが、2種類の性質の似た抗体を混ぜて抗原と反応させたとき、2種の抗体は競争して抗原と結合しようとする。これを競合結合という。