独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 動物衛生研究所 九州支所とチッソ株式会社(本社:東京都中央区、社長:岡田俊一)は、牛のアカバネ病の原因であるアカバネウイルス抗体を簡便に検出するELISAキットを共同開発し、発売することになりました。アカバネ病は牛に先天異常を起こす病気で、ヌカカなどの吸血昆虫によって伝染します。わが国で初めて確認された1972年から1975年までの間におけるアカバネ病による被害額は50億円以上と推定されております。現在、アカバネ病の予防には、過去の発生地域を調査してウイルスの流行前にワクチン接種を行うことが最も効果的であるとされています。
これまでウイルスの流行状況を調べるには、牛から定期的に採血して、中和試験という方法によりウイルスに対する抗体の有無を測定してきました。しかし、中和試験を行うには無菌室や生きたウイルスを使用する施設が必要になるという制約と判定に7日以上の時間がかかるなどの欠点がありました。
今回開発したキットは酵素免疫測定法(ELISA法)を用いたもので、特別な設備のない検査室でも使うことができ、特異性にも優れています。また、大量のサンプルを診断する場合でも検査開始から4時間で結果判定ができることから迅速性にも優れています。
アカバネELISAキット
本キットは中和モノクローナル抗体と牛抗体との競合結合を利用した、酵素免疫測定法(ELISA法)による抗体検出キットです。中和モノクローナル抗体はアカバネウイルスとのみ反応し結合する抗体を酵素で標識したもので、これを検査する牛の血清と混ぜてからアカバネウイルス抗原に反応させたとき、牛の血清中にアカバネウイルスに対する抗体があれば、中和モノクローナル抗体はウイルスに結合できません。こうした中和モノクローナル抗体の結合の程度を、標識した酵素の活性として測定するのが酵素免疫測定法(ELISA法)です。
本キットは中和モノクローナル抗体を使っているため、中和試験と同様の抗体測定が可能であり、特異性も高く、牛以外の動物の血清にも使えるという利点があります。本キットは以下の検査用試薬がセットになっており、面倒な試薬調整が必要ありません。
(キットの内容)
- 抗原液
- モノクローナル抗体固相化マイクロストリップ
- 抗原希釈用液
- 標識抗体希釈用液
- 指示陰性血清
- 指示陽性血清
- 標識抗体溶液
- 発色基質液
- 反応停止液
アカバネELISAキットの実用化の効果
アカバネウイルス抗体の検査は、これまで都道府県の家畜保健衛生所や研究所などの検査設備を備えた検査室で実施されてきましたが、一度に多検体を検査することができないなどの制約があり、広範囲なウイルス流行調査等は困難でした。本キットが市販されることで、特別な施設や技術的制約なしで検査が可能になり、牛群単位の免疫状態も測定することができ、アカバネ病の診断が迅速かつ簡便に出来、しかも精度も向上します。