プレスリリース
非定型BSEから新規BSEが出現する現象を確認

情報公開日:2016年3月10日 (木曜日)

ポイント

農研機構 動物衛生研究所は、非定型BSEプリオンから新たなBSEプリオンが出現する現象を確認しました。マウスで4代継代した非定型BSEプリオンは、異常プリオンたん白質の生化学的性状が変化し、牛やマウスにおける潜伏期や病態が異なっていました。

概要

  • 牛海綿状脳症(BSE)は、ヒトへ伝播し変異型ヤコブ病の原因となったことから、食の安全の問題を提起しました。肉骨粉などの動物性たん白質飼料の使用規制により、世界中で発生数の減少が認められています。我が国も、BSE対策の実効性が評価され、平成25年に国際獣疫事務局(OIE)1)により「無視できるBSEリスク」の国に認定されました。一方、従来型のBSEとは異なる性状の非定型BSEは全世界で100例ほど確認されていますが、孤発性と考えられる非定型BSE2)に関する科学的知見は乏しく、リスクの推定は困難となっています。
  • 農研機構 動物衛生研究所は、非定型BSEの性状解明に関する研究を進めてきました。カナダで確認されたH型非定型BSEの材料を牛型プリオンたん白質遺伝子改変マウス(牛型マウス)3)で継代培養することによって、新たなBSEプリオンが出現することを明らかにしました。このプリオンは牛への脳内接種実験で従来のBSEに比べて短い潜伏期を経て、BSEを発症させることが確認されました(表)。
  • 新たなBSEプリオンの出現は、非定型BSEが牛群で継代された場合に病性が変化する可能性を示唆するものと考えられます。
  • 本成果は、平成28年3月7日付けの英国科学雑誌『Scientific Reports』(Online)に掲載されました。(doi:10.1038/srep22753)

予算:農林水産省委託プロジェクト研究「海外侵入防止プロジェクト」、厚生労働省科学研究費、NARO交付金

内容・意義

  • カナダで確認されたH型非定型BSEを牛型マウスに脳内接種すると、223日の潜伏期で伝達が成立します。しかしながら、今回の実験においては、マウスの中で4代継代した結果、潜伏期が短くなるとともに、マウス脳内のプリオンの蓄積パターンが異なりました(表)。
  • 新たなBSEプリオンの牛への脳内接種においては、従来型BSE及び非定型BSEよりも短い潜伏期で、脳の海綿状変性及び異常プリオンたん白質の蓄積が確認されました。(従来型BSE及び非定型BSEの潜伏期は16.2~22.5ヶ月で、新たなBSEの潜伏期は14.8ヶ月でした。)
  • 新たなBSEプリオンはたん白質分解酵素に対する反応性が変化していました。ウエスタンブロットというたん白質の検出方法で調べたところ、異常プリオンたん白質のバンド型は従来型BSEプリオンに近くなっていました。一方で、H型非定型BSEで認められる12kDaのさらに小さなたん白質分解酵素抵抗性の断片が検出されるなど、H型非定型BSEプリオンの特徴も同時に有していました (図)。
  • H型非定型BSEが動物で伝達を繰り返されることによって、新たなBSEプリオンが出現する可能性が示唆されました。

今後の予定・期待

本成果は、動物性たん白質の飼料規制などのBSE管理措置について、議論する際に有用な知見となると考えられます。また、非定型BSEから新たなBSEが出現するメカニズムの解明につながることが期待されます。

用語の解説

  • 1) 国際獣疫事務局(OIE)
    • 1924年に発足した世界の動物衛生の向上を目的とする国際機関であり、平成27年5月現在180か国・地域が加盟しています。また、WTO/SPS協定上、動物衛生及び人獣共通感染症に関する国際基準の設定機関とされています。
  • 2) 非定型BSE
    • 主に老齢牛に認められるBSEで、全世界で100例ほど確認されています。これまでのところ、H型及びL型の2種類が知られています。その起源は不明ですが、孤発性と考えらえています。ヒトへの伝達性は明らかではなく、科学的知見が乏しいことから、OIEのリスクステータス認定におけるリスク評価からは除かれています。
  • 3) 牛型プリオンたん白質遺伝子改変マウス
    • 牛型プリオンたん白質を過剰発現するマウスで、BSEに高い感受性を有し、牛の代替となる実験動物です。マウスのプリオンたん白質を欠損しており、BSEに対する種の壁を有しません。