プレスリリース
(研究成果) 2種類の新規ヨーネ病遺伝子検査キットを製品化

- 感染牛の早期発見と診断精度の向上でヨーネ病清浄化へ貢献 -

情報公開日:2023年11月28日 (火曜日)

農研機
株式会社ニッポンジーン

ポイント

農研機構と株式会社ニッポンジーンは、主に牛の病気であるヨーネ病1)の新しい診断薬として、2種類の遺伝子検査キット「ヨーネ・ファインド」及び「ヨーネ・ファインドプロ」を製品化しました。スクリーニング検査に用いる「ヨーネ・ファインド」は、現行検査法より半年以上早く感染牛を発見でき、確定検査に用いる「ヨーネ・ファインドプロ」は、特異性が高く正確な診断が可能です。2つの検査を組み合わせることにより、感染牛の早期発見と診断精度の向上が見込まれ、国内のヨーネ病清浄化の推進が期待されます。

概要

ヨーネ病は、牛などの反すう動物が慢性下痢を示す細菌感染症で、家畜伝染病予防法において家畜伝染病2)に指定されています。有効なワクチンや治療法がないため、定期的な検査によって感染牛を見つけ、農場から排除することで清浄化を進めていますが、依然として全国的に発生が確認されており、国内では年間1,000頭程度が患畜と診断され殺処分されています。ヨーネ病の清浄化には感染牛の早期発見が重要ですが、感染牛の多くは数年間にわたり全く症状を示さないために発見が困難である一方、無症状でも長期間、糞便中に菌を排出していることがあります。現行の検査法の課題として、このような無症状排菌牛が発見されずに農場の汚染を拡大し、対策が長期化することが挙げられています。

農研機構と株式会社ニッポンジーンでは、感染牛の早期発見と診断精度の向上を目指して、リアルタイムPCR3)を用いた2種類の新しいヨーネ病遺伝子検査法を開発し、検査キットとして製品化しました。そのうち、「ヨーネ・ファインド」は、糞便中のヨーネ菌遺伝子を検出するキットであり、感染疑いの牛をふるい分けるスクリーニング検査に用います。本キットを用いることで、現行のスクリーニング検査法である抗体検査4)より半年以上早く感染牛を発見することが可能となります。一方、「ヨーネ・ファインドプロ」は、スクリーニング検査で陽性になった牛が真の感染牛であるか診断するための確定検査に用います。蛍光標識プローブ5)を用いた特異性の高いリアルタイムPCR法へ改良されており、正確に感染牛を特定することができます。

「ヨーネ・ファインド」及び「ヨーネ・ファインドプロ」は、動物用体外診断用医薬品として承認されており、今後、国が定める家畜伝染病予防法施行規則別表第1に記載され、全国のヨーネ病検査に活用されることが期待されます。なお、両キットは11月28日に株式会社ニッポンジーンより発売されます。

関連情報

予算 : 運営費交付金、農林水産省「安全な農林水産物安定供給のためのレギュラトリーサイエンス研究委託事業:ヨーネ病の感度・特異度の高い遺伝子検査手法の確立」、生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト):牛慢性消耗性疾病の早期発見および防除技術の開発」

特許 : 特許第6156824号「ヨーネ菌検出用プライマー及びそれを用いたヨーネ菌の検出方法」、特許第6671620号「ヨーネ菌検出用プローブ、それを用いたヨーネ菌の検出方法並びにヨーネ菌検出用キット」

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構動物衛生研究部門 所長勝田 賢
研究担当者 :
同 動物感染症研究領域 上級研究員川治 聡子
同 生物学的製剤製造室 製造科長永田 礼子
株式会社ニッポンジーン峯岸 恭孝、西川 知香
広報担当者 :
農研機構動物衛生研究部門 研究推進部吉岡 都

詳細情報

開発の社会的背景

ヨーネ病は、ヨーネ菌の感染による慢性感染症で、発症すると慢性の頑固な下痢を起こして痩せていき、発育不良や乳量低下など大きな経済的被害をもたらします(図1)。本病に対する有効なワクチンや治療法がないため、家畜伝染病予防法で家畜伝染病に指定され、患畜を殺処分して清浄化を目指している病気です。1998年から全国的なサーベイランスを実施し、定期的な検査が行われていますが、発生はやや増加傾向にあり、令和4年には1,147頭の牛がヨーネ病の患畜と診断され、殺処分されています。

ヨーネ病が発生すると、感染牛の生産性低下や処分に起因する直接的な損失だけでなく、発生農場から牛を移動させる際には検査が求められるなど、まん延防止を目的とした様々な制約を受けるため、早期の清浄化が望まれます。ヨーネ病の清浄化には、感染牛を早期に見つけ、農場から排除することが重要ですが、感染牛の多くは数年間にわたり全く症状を示しません。さらに、無症状でも糞便中にヨーネ菌を排出することがあるため、発見が遅れるうちに感染が拡大し、対策が長期化することが課題です(図2)。

研究の経緯

現行のヨーネ病検査では、まずスクリーニング検査として抗体検査を行い、陽性の場合は、確定検査として糞便中のヨーネ菌遺伝子を検出・定量する遺伝子検査(リアルタイムPCR検査)を行って診断します()。しかしながら、抗体検査で陽性と判定されるのは病気が進行して発症する時期であり、感染牛をより早期に発見できる検査方法が必要です。また、確定検査である現行の遺伝子検査は、より特異的にヨーネ菌遺伝子を検出・定量できる方法へと改良し、診断精度を高めることが求められています。

研究の内容・意義

  • スクリーニング検査用遺伝子検査キット : 「ヨーネ・ファインド」(図3a)
    糞便中のヨーネ菌遺伝子をリアルタイムPCRにより検出するためのキットです。現行の抗体検査より半年以上早く感染牛を発見することができ(図2)、検出感度は数倍~10倍程度になります。感染牛の早期発見によって農場内で感染が広がるのを防ぎ、早期清浄化につながります。
  • 確定検査用遺伝子検査キット : 「ヨーネ・ファインドプロ」(図3b)
    リアルタイムPCRにより、ヨーネ菌遺伝子の特異的な検出と正確な定量を行うためのキットです。蛍光標識プローブを用いてヨーネ菌遺伝子の増幅を検出するため、現行法よりも特異性が向上しました。さらに、PCR反応の阻害の有無を確認することで、検査結果が偽陰性6)でないことも判別できるようになり、診断精度の高い確定検査が可能となります。

今後の予定・期待

「ヨーネ・ファインド」及び「ヨーネ・ファインドプロ」は、動物用体外診断用医薬品として承認されています。今後、法律に即したヨーネ病検査法として、農場の清浄性確認のための定期検査、発生農場における牛群検査、移動牛の陰性確認などに活用される予定です。「ヨーネ・ファインド」によるスクリーニング検査と「ヨーネ・ファインドプロ」による確定検査を組み合わせることにより、感染牛の早期発見と診断精度の向上が見込まれ、国内のヨーネ病清浄化を推進することが期待されます。

用語の解説

ヨーネ病
牛、羊、山羊などの反すう動物が、結核菌と同じ抗酸菌に分類されるヨーネ菌に感染して起こる病気です。数年にわたる長い潜伏期間を経て発症すると、慢性の頑固な下痢を起こして痩せていき、最終的には死に至ります。ただし、感染すると必ず発症するような病気ではなく、多くは治癒あるいは無症状のまま経過します。[ポイントへ戻る]
家畜伝染病
家畜の伝染性疾病のうち、経済的被害が大きいなどの理由で、特に発生によるまん延を防止するため、殺処分等の強力な措置を講ずる必要がある病気として家畜伝染病予防法で指定されている感染症です。ヨーネ病を含め、現在28疾病が指定されています。[概要へ戻る]
リアルタイムPCR
PCRにより遺伝子が増幅される過程を経時的(リアルタイム)にモニターし解析する方法です。検査試料中に含まれる標的遺伝子量を定量するのにも適しています。[概要へ戻る]
抗体検査
病原体に感染した後や、ワクチン接種後などにより、体内に生じる病原体(抗原)に特異的な抗体を検出するための検査です。ヨーネ菌に対する抗体が検出された場合は、ヨーネ菌に感染した、あるいは感染していることを意味します。[概要へ戻る]
蛍光標識プローブ
PCRで増幅された標的遺伝子だけに特異的に結合します。蛍光色素で標識されており、標的遺伝子への結合により発する蛍光をリアルタイムPCR装置で検出します。[概要へ戻る]
偽陰性
陽性であるものが陰性と判定されることを偽陰性と言います。PCR反応を阻害するような物質が含まれる検体では、ヨーネ菌遺伝子が増幅されず、検査結果が陰性になってしまうことがあります。[研究の内容・意義へ戻る]

発表論文

Journal of Clinical Microbiology 58(12):e01761-20 (2020) doi: 10.1128/JCM.01761-20

参考図

図1慢性の下痢で極度に痩せたヨーネ病発症牛

図2ヨーネ病発症までの経過と各種検査における感染発見時期(イメージ)
感染牛の多くは、数年間、無症状で経過しますが、その間も糞便中にヨーネ菌を排出することがあります。製品化したキットを用いて遺伝子検査を行うことにより、現行法の抗体検査より半年以上早く感染牛を発見することができます。

現行のヨーネ病検査法の課題と新規ヨーネ病遺伝子検査キットによる改善点

図3製品化したヨーネ病遺伝子検査キット
(a) : ヨーネ・ファインド(スクリーニング検査用)、
(b) : ヨーネ・ファインドプロ(確定検査用)