プレスリリース
トマトの青枯病にアミノ酸が効くことを発見

- 作物の病害抵抗力を利用した青枯病防除剤の開発へ -

情報公開日:2016年10月26日 (水曜日)

ポイント

  • アミノ酸の一種であるヒスチジン1)等をトマトに与えると、難防除病害である青枯病2)の発病が抑えられることを発見しました。
  • ヒスチジンには青枯病菌を直接殺菌する効果はなく、植物が本来持つ病害抵抗性を高めることで発病を抑えます。
  • 作物の病害抵抗力を利用した青枯病防除剤の素材として有望です。

概要

  1. 農研機構の生物機能利用研究部門及び中央農業研究センターは、トマトの重要病害である青枯病の防除にヒスチジンやアルギニン、リシン等のアミノ酸が有効であることを発見しました。
  2. 青枯病を防除するために土壌消毒や抵抗性品種が利用されていますが、完全に防ぐことは困難です。
  3. ヒスチジン等のアミノ酸に青枯病の原因である青枯病菌を直接殺菌する効果はなく、植物の病害抵抗性を高めることで発病を抑えます。
  4. 病害防除剤の素材として有望なアミノ酸が見つかりましたので、現在、研究コンソーシアムに参画している民間企業と一緒に実用化を進めています。

関連情報

予算:戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)次世代農林水産業創造技術
特許:特許第6007360号

背景と経緯

土壌中の病原菌によって起こる土壌病害は、根が常に土壌に触れていること、消毒剤や薬剤の及ばない土壌深層にも病原菌は生存することから防除が困難です。土壌病害である青枯病は、トマトやナス、ピーマン、ジャガイモ、ショウガなど多くの作物に発生する作物の重要病害のひとつです(図1)。特にトマト栽培では近年、施設の大規模化や産地ブランドの拡大により連作を余儀なくされ、本病の発生が増加しています。
トマトの青枯病防除では、化学くん蒸剤による土壌消毒や抵抗性品種を台木にした接ぎ木苗の利用が広く普及しています。しかし、くん蒸剤の不十分な浸透や汚染した剪定鋏の連続使用、苗の深植えなどの栽培管理上の不注意による穂木への直接感染で被害が発生することがあり、完全に防ぎきれていません。このような場合に備え、新しい防除技術の開発が望まれていました。
そこで農研機構では、青枯病に有効な新たな薬剤を探索するため、農薬から植物ホルモン、農業資材まで様々な物質について青枯病の発病抑制効果を調べました。

内容・意義

  1. ある酵母抽出液に強い青枯病の発病抑制効果があることを見出し、その有効成分がアミノ酸のヒスチジン(図2)であることを突き止めました。
  2. トマトを植えたポットをヒスチジン溶液に浸漬し、培養した後に青枯病菌を感染させると、対照区である水だけを与えた場合と比較して発病が抑えられることが実験室内の実験で確認されました(図3)。さらにアルギニンやリシンなどのアミノ酸も、ヒスチジン同様、青枯病発病抑制効果を示しました。同じナス科のタバコやアブラナ科の一種であるシロイヌナズナの青枯病に対しても、これらのアミノ酸は発病抑制効果を示すことが確認できました。
  3. ヒスチジンは青枯病菌に対する抗菌(殺菌)活性は持たず、ヒスチジンを与えたことによってトマトの生体防御反応が高まる"プラントアクティベーター3)"として働くことがわかりました。

今後の予定・期待

プラントアクティベーターの有望素材が見つかったことから、現在、民間企業と一緒に病害防除剤の開発を進めています。アミノ酸を植物根から吸わせた場合に顕著な病害発病抑制効果が認められましたので、栽培現場で実践できる灌注処理(土壌に薬剤を注入する方法)を想定した剤を開発しています。また、トマト栽培では青枯病抵抗性品種を台木にした接ぎ木苗が用いられていますので、台木の抵抗性とアミノ酸による防除の相乗効果の発現を目指し、農研機構が普及を進めている「高接ぎ木法」4)との最適な組み合わせ技術についても検討をしています。

用語の解説

1)ヒスチジン
アミノ酸の一種であり、ヒトにとっては必須アミノ酸です。

2)青枯病
植物病原細菌の一種である青枯病菌(Ralstonia solanacearum)の感染により起こる病気です。主に根から侵入した青枯病菌に感染した植物では、導管(水分などが通る組織)のなかで菌が増殖し、水分の吸い上げができなくなることなどによって葉や茎の地上部が萎れてしまい、最終的に枯死します。トマト青枯病は日本全国で発生し、特に青枯病菌の増殖が活発になる夏は感染して数日以内に枯れてしまいます。

3)プラントアクティベーター
直接的な抗菌活性は示さずに、植物が本来有する病害抵抗性を高めることで病害を防ぐ薬剤のことです。防除効果の持続期間が長く、広範な病害に対して有効といった特徴があります。国内ではイネいもち病用のオリゼメートなど、数種類のプラントアクティベーターが販売・利用されています。

4)高接ぎ木法
従来の慣行接ぎ木よりも高い位置(地際から10cm以上)で接いだ苗を利用したトマト青枯病防除技術です。台木の抵抗性を強化することにより青枯病菌による穂木への感染・発病を抑制することができます。

発表論文

Shigemi Seo, Kazuhiro Nakaho, Si Won Hong, Hideki Takahashi, Hideyuki Shigemori, and Ichiro Mitsuhara. L-Histidine Induces Resistance in Plants to the Bacterial Pathogen Ralstonia solanacearum Partially Through the Activation of Ethylene Signaling. Plant Cell Physiol. (2016) 57 (9): 1932-1942 doi:10.1093/pcp/pcw114

参考図

図1.トマトに発生した青枯病  図2.ヒスチジンの化学構造

図3.ヒスチジンの青枯病発病抑制効果