ポイント
農研機構は、干ばつによってイネの根の張りが悪くなる仕組みの一端を解明しました。干ばつによる農業被害は世界的に大きな問題になっています。世界の代表的なイネ品種について、断続的な干ばつ下における根の形態と、全遺伝子の働きを比較し、干ばつによって根が細くなる原因と考えられる複数の遺伝子を発見しました。本成果は、干ばつに対して頑健なイネ品種開発への活用が期待されます。
概要
イネは世界で年間8億トン生産される重要な穀物の一つです。日本では主に水田で稲作が行われますが、大渇水が発生すると農業用水の取水制限を受けることがあります。世界では天水田1)や畑でも稲作が行われており、世界の稲作地域の62%(約1億ヘクタール)において、干ばつによる減収が食料安全保障上の大きな問題になっています。このような地域で米の安定生産を行うためには、干ばつに強いイネの開発が不可欠となります。
干ばつに強い畑作物には、根が太く、根を土中の深くまで伸ばす特徴があります。当研究グループはこれまでに世界で初めて深根化に関与する遺伝子を発見し、土壌の深層から水を獲得させることで、干ばつに強いイネの開発に成功しました。より干ばつに強いイネを開発するためには、深根化に加えて根を太くし、よく根張りさせる(根の量を多くする)ことが効果的と考えられます。しかし品種改良に利用できる根の太さに関与する遺伝子はこれまで見つかっていません。
農研機構は世界中の代表的なイネ品種に畑で干ばつ処理を行い、根の形態的な特徴と網羅的な遺伝子発現を解析し、「なぜ、イネの根が干ばつ下で貧弱になるのか」を明らかにしました。イネの根は干ばつ下で細くなるだけでなく、数が減ります。干ばつによって根が貧弱になる品種では、植物ホルモンの一種であるオーキシン2)に反応する遺伝子群の発現量が増加しており、これらの遺伝子の働きが強くなることで生育阻害が起こると推定されました。この中から、干ばつによって根が細くなる原因と考えられる遺伝子を発見しました。これらの遺伝子を改良し、干ばつ下でも根が細くならないようにすることで、今後より干ばつに強いイネの開発が可能になると期待できます。
関連情報
予算:JST戦略的創造研究推進事業「環境変動に対する植物の頑健性の解明と応用に向けた基盤技術の創出」、科研費基盤B
研究員 寺本 翔太、グループ長 宇賀 優作