農研機構
タキイ種苗株式会社
ポイント
Tomato brown rugose fruit virus(ToBRFV)は、近年出現し世界的に深刻な問題になっているトマトの病原ウイルスです。ToBRFVには既存の抵抗性遺伝子が効かないため、新たな防除法が求められていました。農研機構とタキイ種苗株式会社はウイルスが増殖に利用しているトマトの遺伝子を働かなくすることにより、ToBRFVに強力な抵抗性を示すトマトが作出できることを、ゲノム編集技術で実証しました。本成果により、ToBRFV抵抗性品種の開発と普及が進めば、ToBRFVの制圧が可能になると期待されます。
概要
果実が褐変し、しわを寄せるという意味の名をもつtomato brown rugose fruit virus(以下、ToBRFV)は2014年に中東で初めて発見されたウイルスで、トマトやピーマンなどに感染します。ToBRFVに感染したトマトは生育不良により収量が30-70%低下し、収穫できた果実も品質が低下することに加え、汚染した土の入れ替え等の衛生管理作業や検疫にかかるコストも多大になります。ToBRFVは国内では未発生ですが、世界中の多くの地域に急拡大しており(2022年2月現在30か国で報告)、国際的なトマトの安定供給に対する大きな懸念材料となっています。既存のウイルス抵抗性トマト品種はToBRFVには有効でないため、世界中で新たな防除方法が求められていました。
研究グループは、ウイルスが増殖に利用しているトマトの遺伝子を働かなくすることにより、強力なToBRFV抵抗性を示すトマトが作出できることをゲノム編集技術で実証しました。当該トマトは、ToBRFVだけでなく、近縁のトマトモザイクウイルス等に対しても抵抗性を示したことから、複数の重要ウイルス病に同時に有効であることが分かりました。一般に、植物が元々もっている遺伝子を働かなくした場合、生育等に意図しない悪影響が出る場合がありますが、本研究で作出したToBRFV抵抗性トマトは、実験室の環境条件では正常に生育、結実しました。以上の結果から、本方法はトマトの品質や収量を大きく低下させることなくToBRFVに抵抗性を付与する、極めて有望な技術と考えられます。
タキイ種苗株式会社では本知見を活かしつつ、従来の育種法によるToBRFV抵抗性トマト品種の開発を進めています。
関連情報
予算 : 生研支援センターイノベーション創出強化研究推進事業「ゲノム改変によるウイルス抵抗性作物創出に向けた基礎研究」、「宿主因子遺伝子への変異導入によるウイルス抵抗性トマトの創出」
特許 : 特許第6810946号
上級研究員石橋 和大、前ユニット長石川 雅之