プレスリリース
玄米の米粉パンの課題を克服

- 膨らみや食味が良い玄米粉パンの簡易製造法を開発 -

情報公開日:2011年7月28日 (木曜日)

ポイント

  • 簡易な前処理後に気流粉砕機で粒度の細かい玄米粉を調製し、膨らみや食味が良い玄米粉パンを製造する方法を開発しました。
  • 玄米粉パンは食物繊維や、イノシトール、ギャバ等の各種機能性成分を多く含みます。

概要

  • 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)作物研究所【所長 寺島 一男】は、膨らみや食味が良い玄米粉パンを、簡易に製造する方法を開発しました。
  • 玄米を12時間以上吸水させた後、気流粉砕することによって、損傷デンプン含量が低く、粒度の細かい玄米粉ができます。これに市販の小麦グルテンを20%加えることにより、膨らみや食味が良い玄米粉パンを作ることができます。
  • 玄米は白米よりも、食物繊維やイノシトールなどの機能性成分を多く含むことに加え、玄米を吸水させることによってギャバが生成するため、玄米粉パンはこれらの機能性成分を多く含みます。
  • 本研究の一部は、農林水産省委託プロジェクト「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」の成果であり、特許を出願中です(特願2010-152025)。

詳細情報

開発の背景と経緯

白米粉を用いた米粉パンの品質は、この数年間に大いに向上しましたが、玄米粉を用いた米粉パンの製造例はこれまでほとんどありませんでした。玄米粉を用いれば、糠に含まれる食物繊維やイノシトールなどの機能性成分が、容易に摂取できるようになります。しかし、通常の玄米粉を用いた場合は、パンの膨らみが十分でなかったり、食味が劣るという問題点があります。そこで、玄米の製粉方法を検討することによって、膨らみや食味が良い玄米粉パンを作る研究を進めてきました。

研究の内容・意義

  • 玄米(品種「コシヒカリ」)を、室温で玄米全体が十分に水に浸るように浸漬させた後、気流粉砕機で粉砕すると、粉砕時の温度上昇が抑えられるため、損傷デンプン含量が低く、粒度の細かい(平均粒度 約50μm)玄米粉が調製できます(図1)。
  • この玄米粉に小麦グルテンを20%添加してパンを焼く場合、玄米の吸水時間が長いほど膨らみが良く、12時間以上吸水させた場合は、白米粉を用いた場合と同等になりました(図2)。
  • 食味試験では、玄米粉パン(24時間吸水による玄米粉)は、白米粉パンと同等以上の味・食感であると評価されました(図3)。特に、玄米特有の「甘み」のある味と、「しっとり」とした食感が高く評価されました。
  • 玄米粉パン(24時間吸水させた玄米使用)に含まれる食物繊維や、イノシトール、フェルラ酸の含量は白米粉パンの3~5倍、さらに白米粉パンにはないギャバの含量は5 mg/100 gであり、水分やタンパク質、エネルギー等の基礎成分の含量は、白米粉パンと同程度でした(表)。
  • 気流粉砕機があれば簡易な前処理だけで、容易に玄米粉パンを製造することができるため、 中小規模の食品加工メーカーや農産物加工場における玄米粉パン製造にも向いています。

今後の予定・期待

  • 2011年7月30日(土曜日)に、農研機構が筑波農林研究団地内で開催する夏休み公開において、玄米粉を30%含むパンの試食を行います。
  • 多収穫米など様々な米品種を用いた場合にも同様な効果が得られるか、また玄米粉の日持ちなどについて、今後明らかにします。
  • 玄米粉のパン以外の利用法も、今後開発していく予定です。

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図1 玄米粉の形状

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図2 パンの膨らみに及ぼす玄米吸水時間の影響
図中の線は、焼く前のパン生地の上端を示す

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図3 米粉パンの食味比較
各項目について、白米粉パンの評価を3(普通)とした場合に、
玄米粉パンを1(劣る)、2(やや劣る)、3(普通)、4(やや良)、5(良)の5段階で評価

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用語の解説

損傷デンプン
米粒を粉砕する際に、圧力や摩擦熱等により、デンプンの表面が傷ついた状態(一部表面が糊化したような状態)になります。損傷デンプン含量の高い米粉ほど水の吸水量が多くなり、パン生地を作製する過程でグルテン形成に悪影響を与えるものと考えられます。

小麦グルテン
小麦タンパク質の一種で、小麦粉から小麦デンプンを製造する際に副生されます。パン生地に粘りを与えるため、米粉パンの膨らみを良くするために加えられます。

気流粉砕
粉砕機の内部で、大型の羽根を高速回転させて空気の高速渦流を作り、原料同士を衝突させ自己粉砕させる装置です。他の粉砕方法と比べ、粉砕時の温度上昇が少ないため、損傷デンプン含量の低く、粒子の細かい米粉が調製できます。

ギャバ(γ-アミノ酪酸)
哺乳類の脳などに多く存在し、神経伝達物質と考えられているアミノ酸の一種で、これを含む食品には、特定保健用食品として、「血圧が高めの方に適した飲料です」の表示が許可されているものがあります。

イノシトール
ビタミンB様成分の一種で、穀類の糠部分に広く含まれており、食品添加物(強化剤)としての使用が認められています。

フェルラ酸
イネ科植物の細胞壁に多く含まれているポリフェノールの一種で、既存添加物(酸化防止剤)としての使用が認められています。(ポリフェノールとは、芳香環に複数の水酸基をもつ化合物の総称であり、植物に含まれる色素や苦みの成分として多くの種類が存在し、抗酸化性などが報告されています。)