プレスリリース
従来品種の2~3倍の食物繊維を含む '高β-グルカン含量大麦'新品種「ビューファイバー」

- 大麦粉の利用による新規用途開発と需要拡大に期待 -

情報公開日:2010年9月16日 (木曜日)

ポイント

  • 大麦食物繊維の主成分であるβ-グルカンを、従来品種の2~3倍多く含む二条裸麦品種「ビューファイバー」を育成しました。
  • 粉に挽いてパン・菓子類・めん類などにブレンドすることにより、様々な食品への高付加価値化が可能です。
  • 大麦の新規用途開発による需要拡大と生産拡大が期待できます。

概要

  • 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)作物研究所は、食物繊維の一種で機能性多糖のβ-グルカンを従来品種の2~3倍含む二条裸麦品種「ビューファイバー」を育成しました。
  • 「ビューファイバー」は、β-グルカンなどの機能性成分を多く含むことから、それらの抽出コスト削減に有効であるとともに、粉に挽いてパンや菓子類・めん類などにブレンドすることにより、食物繊維の豊富な高付加価値食品を製造することができます。大麦の新たな用途開発が見込まれ、需要拡大と生産拡大が期待されます。
  • 今秋には、関係業者の協力を得て、「ビューファイバー」の大麦粉を用いたパンやシフォンケーキ、カレールゥなどの試験販売を予定しています。
  • 本品種開発は、農林水産省委託プロジェクト「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」および農研機構の運営費交付金による研究「大麦・はだか麦の需要拡大のための用途別加工適性に優れた品種の育成と有用系統の開発」の成果で、平成22年1月に種苗法に基づく品種登録出願を行いました(出願番号:第24500号)。

詳細情報

開発の背景と経緯

大麦穀粒には、他の穀物よりも多くの食物繊維が含まれており(下図)、特に胚乳の細胞壁に含まれる水溶性食物繊維であるβ-グルカンは、血中コレステロールの低下、血糖値上昇抑制、免疫活性化機能など多くの優れた健康維持機能性があることが報告されています。米国では2006年に、大麦のβ-グルカンにはコレステロール低減作用があり、心疾患予防効果があるとして、FDA(食品医薬品局)により一定量以上の大麦β-グルカンを含む加工食品へのヘルスクレーム(健康強調表示)が認められています。

食物繊維量

そこで、β-グルカンを従来品種よりも多く含む大麦を開発するため、これを増やす働きがある遺伝子の解析を行いました。その結果、lys5h(でん粉合成系の変異遺伝子)がβ-グルカンの高含量化に有効であることを確認したことから、この遺伝子を持つ大麦の実用品種の育成に取り組みました。

研究の内容・意義

  • 「ビューファイバー」の開発経過
  • 「ビューファイバー」は、「Riso M86」が持つでん粉合成系の変異遺伝子lys5hを、二条・裸性の「四国裸84号」に導入することにより育成した二条裸麦です。

  • 「ビューファイバー」の特徴と名前の由来
  • 1)原麦のβ-グルカン含量が9%前後で、従来の六条大麦品種の約2倍、二条大麦品種の約3倍です(図1)。

    2)大麦のβ-グルカンは穀粒の内部(胚乳の中心部)に多く含まれるため(写真1)、精麦のβ-グルカン含有率は原麦より高くなります。(図2)。

    3)でん粉合成系の変異遺伝子lys5hを持つため、穀粒表面にしわを生じ(写真1)、外観品質や収量は劣ります。また、精麦に要する時間が長く、精麦白度は低く、精麦品質も劣ります。このため、β-グルカンの抽出原料としての利用や、粉に挽いて粉食の原料とする用途を想定しています。

    4)健康・美容をイメージする「ビューティフル(beautiful)」と、食物繊維(dietary fiber)が豊富な大麦であることから、これらの言葉を組み合わせて「ビューファイバー」と命名しました。

    図3

    図1「ビューファイバー」のβ-グルカン含量

    写真1穀粒断面

    写真2「ビューファイバー」の全粒l粉を15%ブレンドしたパン

今後の予定・期待

  • 「ビューファイバー」は、機能性成分を多く含むことから、その抽出コスト削減に有効であるため、サプリメント類を生産する際のコスト削減に繋がることが期待されます。
  • 「ビューファイバー」は粉に挽いて加工利用すれば、既存の小麦粉や米粉食品(パンや菓子類・めん類など)に少量をブレンドするだけで外観や食感・食味を損ねることなく機能性成分を付加できるため、食品の高付加価値化原料として極めて有用です(写真2)。
  • また、従来の大麦粉食品の原料を「ビューファイバー」に置き換えれば、より食物繊維の豊富な食品となります。
  • 「ビューファイバー」を用いて、今までにない大麦粉食品が新たに開発されることにより、大麦の需要拡大と生産拡大が期待されます。
  • 農林水産省のプロジェクト研究「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」において、「高β-グルカン大麦粉の健康維持機能性評価と製品化技術の開発」(2009~2010年度)という課題で、「ビューファイバー」を用いた大麦粉食品の健康機能性の評価と、製品化技術開発研究を実施しています。
  • 上記プロジェクト研究課題の一環として、研究課題参画機関の他、「パンの街つくば」加盟店を始めとする茨城県内のベーカリーや食品製造・販売業者の協力を得て、今秋より、「ビューファイバー」の大麦粉を用いたパンやシフォンケーキ、カレールゥなどの試験販売を実施予定です。
  • 栽培適地は温暖地の平坦地を中心とする地帯です。
  • 平成22年1月8日に品種登録出願(出願番号:第24500号)を行い、平成22年3月18日に品種登録出願公表されました。
  • 9月24~25日に開催される日本育種学会で発表します。

用語の解説

二条裸麦
大麦は穂の形によって二条大麦と六条大麦とがあり、一般的に二条大麦の方が六条大麦よりも粒が大きくなります。一方、穀皮が穀粒に貼り付いた皮麦と、脱穀すると容易に外れる裸麦があります。高β-グルカン含量大麦は全粒粉利用を想定しているため、作物研では二条裸麦をベースとして高含量系統を育成しています。
β-グルカン
大麦穀粒には、他の穀物よりも多くの食物繊維が含まれていますが、特に水溶性食物繊維で胚乳の細胞壁多糖のβ-グルカンが多いことが特徴です。穀類のβ-グルカンは血中コレステロールの低下、血糖値上昇抑制、免疫活性化機能など多くの優れた健康維持機能性があることが報告されています。ちなみに、穀類のβ-グルカンは(1,3)(1,4)-β-D-グルカンで、キノコ類のβ-グルカンは(1,3)(1,6)-β-D-グルカンであり、糖の結合の仕方が異なります。
ヘルスクレーム(健康強調表示)
食品・栄養素などと健康状態の関係について表示するもので、摂取した場合の効果として、病気のリスクを軽減させる可能性がある旨を表示することができます。日本のトクホ(特定保健用食品)のような制度です。米国ではFDA(食品医薬品局)が、健康効果に科学的な根拠があるものに対して表示を認定します。2006年に、大麦のβ-グルカンにはコレステロール低減作用があり、冠状動脈性心疾患への予防効果があるとして、一定量以上の大麦β-グルカンを含む加工食品へのヘルスクレームが認められました。
イチバンボシ
六条裸麦の主力品種です。四国や九州を中心に全国で2,000ha程度作付けられており、六条裸麦全体の作付け面積の5割以上を占めています。多収であるとともに精麦への加工適性が優れています。