プレスリリース
飼料米・稲発酵粗飼料向け水稲新品種「モミロマン」 を育成

- 玄米収量800kg/10aを実現 -

情報公開日:2008年7月24日 (木曜日)

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)作物研究所と九州沖縄農業研究センターは、玄米収量と全重収量が優れ、飼料米と稲発酵粗 飼料に適する水稲品種「モミロマン」を育成しました。本品種は国際稲研究所が開発した多収系統「IR65598-112-2」に九州沖縄農業研究センターが開発した晩生の多収系統「西海203号」を3回戻し交雑して育成した品種です。モミロマンは「日本晴」よりやや早の中生品種であり、関東以西の地域での利用が期待できます。


詳細情報

《背景とねらい》

日本の食料自給率が低い要因の一つに、飼料の多くを海外に依存していることが上げられ、自給率向上のために国産飼料の増産が求められています。特に、近年の穀物価格の高騰により、粗飼料に加えて濃厚飼料についても国内生産の拡大が強く求められるようになりました。こうした需要に応えるために、生産調整を行っている水田を利用して、飼料米や発酵粗飼料として利用される飼料用水稲の栽培が注目されています。

飼料用水稲を安定的に生産するには、米や株全重の高い生産性に加えて低コスト生産を可能にする優れた栽培性を備えた専用品種が必要です。

農研機構では1980年代から飼料用水稲の品種開発を開始しました。今回、高い粗玄米収量に加えて、地上部全重と可消化養分総量(TDN)が高い飼料用品種「モミロマン」を育成しました。

《成果の内容・特徴》

  • 「モミロマン」は収量性の向上を目標として国際稲研究所育成の多収系統「IR65598-112-2」に、多収の「西海203号」を3回戻し交雑して育成された飼料用水稲です。
  • 育成地(作物研究所)の成績では粗玄米重は「日本晴」より35~40%、「タカナリ」より8~15%多収です(表1)。
  • 黄熟期の株全重による可消化養分総量(TDN)収量は1.10t/10aで、「日本晴」より8%、「タカナリ」より10%多収です(表1)。
  • 耐倒伏性に優れ、直播栽培にも適します(表2)。
  • いもち病圃場抵抗性が不明なため、病原菌のレースによって抵抗性が大きく変化するおそれがあります。
  • 玄米の外観品質や米飯としての食味は不良です(表3)。
  • 飼料米及び稲発酵粗飼料用として関東以西で利用が期待できます。

なお、本品種は、旧系統名「関東飼226号」により、農林水産省と連携して増殖用原種苗の先行提供を実施しましたが、今般、種苗法に基づく出願品種名称「モミロマン」が公表されたことに伴い、今後の品種名称の表記は「モミロマン」とすることといたしました。

《品種名の由来》

多収の飼料用米(籾がたくさんとれる)が普及する期待を「ロマン」に込めました。

写真1.モミロマンの圃場における草姿

写真1.モミロマンの圃場における草姿

写真2.モミロマンの籾と玄米

写真2.モミロマンの籾と玄米

表1.生育特性(作物研究所、平成15年から19年の多肥栽培での平均値)

表2.栽培性(作物研究所、平成15年から19年の多肥栽培での平均値)

表3.品質特性(作物研究所、平成15年19年の多肥栽培での平均値)

《用語説明》

黄熟期
稲が完全に熟する前で、サイレージに適した収穫時期。米の胚乳がロウ状で、玄米が爪で容易につぶせる柔らかさの時期である。

可消化養分総量(TDN)
飼料の栄養価の指標。飼料に含まれる消化、吸収できる養分の単位当たりのエネルギー量から求められる。

国際稲研究所
フィリピンにある国際的な稲の研究機関。英語名称International Rice Research Instituteを略してIRRI(イリ)と呼ばれる。1960年にロックフェラーとフォード両財団の共同出資により設置された。ミラクルライスと呼ばれたIR8など優れた品種の開発に成功し、熱帯アジアの稲研究の中心である。

発酵粗飼料
ホールクロップサイレージ。トウモロコシや稲の茎葉部分と子実部分を一緒に収穫して、サイレージ発酵させた飼料。

粗飼料
家畜に給与する飼料の中で、生草、サイレージ、乾草、わら類など、容積が大きく、繊維含量が高いもの。

濃厚飼料
家畜に給与する飼料の中で、トウモロコシの実や大豆カスなど、容積が小さくて養分含量が多いもの。