プレスリリース
リグナン含量が多い黒ごま新品種「ごまえもん」と 白ごま新品種「ごまひめ」を育成

- 「ごまえもん」は寒冷地でも多収、 「ごまひめ」は2週間早く収穫できます -

情報公開日:2009年7月 2日 (木曜日)

ポイント

  • 抗酸化性等の機能性を有するリグナンの一種であるセサミン含量が多く、寒さや病害に強い黒ごま品種「ごまえもん」を育成。
  • リグナン含量が多く、在来品種よりも2週間ほど早く8月下旬に収穫できる白ごま品種「ごまひめ」を育成。
  • 両品種の育成によって、東北以南における国産ごまの新たな産地形成や、需要の拡大が期待できます。

概要

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)作物研究所は、抗酸化性等の機能性を有する新たな高リグナンごま品種として、耐寒性と耐病性に優れた黒ごま品種「ごまえもん」と、収穫時期が早い白ごま品種「ごまひめ」を育成しました。

「ごまえもん」は種子1gに含まれているセサミン(リグナンの一種)が10mg程度と非常に多い品種です。草丈が低く、萎ちょう病や斑点細菌病の発生が少ないため栽培しやすく、寒冷地において高い収量性を発揮します。一方、「ごまひめ」は、リグナンの一種であるセサミンとセサモリンの含量が多い白ごま品種で、関東地方での収穫時期は在来品種よりも2週間程度早く8月末に収穫できます。
両品種は、黒ごま及び白ごまにおける初めての高リグナンごまとして開発されました。両品種は、「ごまぞう」の栽培がしにくかった寒冷地などでの栽培や、地域に合った栽培時期の設定を可能にし、新規需要の開拓や新たな産地形成に貢献することが期待できます。

なお、「ごまえもん」は、国立大学法人 岩手大学との共同研究により開発しました。


詳細情報

品種開発の背景と経緯

ごまの栽培面積は、昭和30年頃には日本各地で1万ヘクタールを越えていましたが、現在では数百ヘクタールとなっています。その一方で、ごま種子に含まれているリグナン類(セサミン等)の持つ抗酸化性等の機能性が解明されてきたことなどによって、日本の食文化に深く根ざしたごまに対する消費者の需要は増大し、国産ごまへの関心も高まっています。

国産向けの高リグナンごま品種として、作物研究所は平成14年に「ごまぞう」を開発しましたが、山間地や寒冷地での栽培が難しく、粒色が褐色でごま食品としての用途が限定されていました。

そこで、高リグナンごまの安定供給を可能にし、地域特産作物としてごまの産地拡大を図るため、粒色が多様で、山間地や寒冷地でも栽培しやすく、他作物との作業競合を回避できる早生品種の育成などを進めてきました。

研究の内容・意義

  • 「ごまえもん」と「ごまひめ」の開発の経過
    「ごまえもん」は、セサミンとセサモリンの含量が多い「関東11号」を母親とし、病害に強く粒色の優れた岩手県在来の黒ゴマ「岩手黒」(農業生物資源ジーンバンク保存系統)を父親として作物研究所が平成13年に交配して育成しました。収量性、耐病性、リグナン含量等に着目して選抜を行うとともに、平成15年には岩手大学寒冷フイールドサイエンスセンターにおいて初期生育と収量性に着目して耐寒性に優れた系統を選抜し、平成19年に「関東13号」の地方番号を付しました。
    「ごまひめ」は、早生の白ゴマ「Korea39」(農業生物資源ジーンバンク保存系統)を母親に、「関東11号」を父親として作物研究所が平成13年に交配し、以後、成熟期の早さ、収量性、リグナン含量に着目して選抜して育成しました。
    平成19年に「関東15号」の地方番号を付しました。
    平成19年からは、両系統の生産力検定ならびに特性検定を、岩手県以南の全国各地で行ってきました。
  • 両品種の特徴と名前の由来
    「ごまえもん」
    • 「ごまえもん」は、リグナン含量が多い「関東11号」に岩手県在来品種「岩手黒」を交配し、育成した黒ごま品種です(写真1、2)。
    • セサミン含量は種子1gあたり約10mgで非常に多いのですが、セサモリン含量は非常に少ない品種です(表1)。
    • 草丈は低く、成熟期はやや早くなります。萎ちょう病や斑点細菌病の発生が少なく、関東では比較の在来品種に対してやや多収です。(表2、3)。
    • 寒冷地(岩手県)では多収です。セサミン含量は多くなります(表4)。
    • 収穫時に早刈りすると、粒の着色が不十分になり色むらによって収穫物の外観が悪くなるので、下の朔(さく)が成熟して裂けるまで待ってから収穫します。
    • 国産ゴマの振興を願い、親しみやすい日本風な男性をイメージして「ごまえもん」と命名しました。

写真1.「ごまえもん」の草姿

写真1.「ごまえもん」の草姿

 

写真2.「ごまえもん」(左)と「ごまぞう」(右)の種子

写真2.「ごまえもん」(左)と「ごまぞう」(右)の種子

 

表1.「ごまえもん」の種子の特徴とリグナン含量

表1.「ごまえもん」の種子の特徴とリグナン含量

 

表2.「ごまえもん」の生育特性

表2.「ごまえもん」の生育特性

 

表3.「ごまえもん」の病害特性

表3.「ごまえもん」の病害特性

 

表4.「ごまえもん」の寒冷地における成績

表4.「ごまえもん」の寒冷地における成績

 

「ごまひめ」

  • 「ごまひめ」は、早生の白ごま「Korea39」にリグナン類が多い「関東11号」を交配して育成した白ごま品種です(写真3、4)。
  • セサミンとセサモリンを「ごまぞう」並みに多く含みます(表5)。
  • 成熟期が「ごまぞう」よりも2週間程度早く(表6)、関東地方では一般的な稲の収穫時期よりも早い8月下旬に収穫できるので、作業競合が回避できます。
  • 萎ちょう病や斑点細菌病の発生は少ないが、やや倒伏しやすいという特徴があります。(表7)。多肥栽培は倒伏を助長するので、避けてください。
  • 国産ゴマの振興を願い、親しみやすい日本風な女性をイメージして「ごまひめ」と命名しました。

写真3.「ごまひめ」の草姿

写真3.「ごまひめ」の草姿

 

写真4.「ごまひめ」(左)と「ごまぞう」(右)の種子

写真4.「ごまひめ」(左)と「ごまぞう」(右)の種子

 

表5.「ごまひめ」の種子の特徴とリグナン含量

表5.「ごまひめ」の種子の特徴とリグナン含量



表6.「ごまひめ」の生育特性

表6.「ごまひめ」の生育特性

 

表7.「ごまひめ」の倒伏と病害特性

表7.「ごまひめ」の倒伏と病害特性

 

今後の予定・期待

寒冷地の平坦地などでも高リグナンごまが栽培ができるようになり、新たなごま産地の形成に貢献できます。今後は、生産者や実需者が中心となって、岩手県、茨城県、三重県、鹿児島県などで試験栽培が行われる予定です。
褐色の「ごまぞう」に黒ごま「ごまえもん」と白ごま「ごまひめ」が加わり、高リグナンごま品種の粒色のアイテムが揃いました。国産ゴマの付加価値向上や、新たな食材・商品としての活用が期待されます。

用語の解説

リグナン
植物体内で生合成される微量成分で、分子構造内に特有の骨格を持つ化合物の総称です。特に樹脂分に含まれます。強い光の下などに置かれた植物体内で発生する活性酸素を捕捉し、植物体の酸化防止の役割を担う抗酸化物質とされています。一般的に、ごまやごま油には0.5から1.0%前後のリグナンが含まれます。

セサミン
リグナンの一種で、生体内において多様な生理活性を持ちます。動物実験では、アルコール代謝の亢進、血清コレステロール濃度低下作用、血管細胞の機能低下防止に有効であり、また、自律神経の活動亢進作用についても報告されています。

セサモリン
ゴマ特有のリグナンの一種。生体内では直接的に強い生理活性を示しませんが、他のリグナン類の前駆体となります。セサモリンからは熱分解や酸触媒により、生体内で強い抗酸化作用をもつセサミノールやセサモールが生成されます。セサミノールやセサモールは動物実験により脂質の過酸化防止等の高い抗酸化作用が報告されています。