プレスリリース
稲と麦の二毛作に適する水稲新品種「ほしじるし」

- 晩植適性と縞葉枯病抵抗性をもち、麦作後の栽培に好適 -

情報公開日:2011年10月 6日 (木曜日)

ポイント

  • 稲と麦の二毛作に適する水稲品種「ほしじるし」を育成しました。
  • 縞葉枯病に抵抗性をもち、晩植適性があることから、麦作後の栽培に適しています。
  • 「コシヒカリ」に近い良食味をもち、多収で直播栽培に適することから、低コストで栽培される業務用米飯等への利用が期待されています。

概要

  • 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)作物研究所【所長 門脇光一】は、稲と麦の二毛作に適する水稲品種「ほしじるし」を育成しました。
  • 「ほしじるし」は、「関東199号」と「関東209号(後の『さとじまん』)」を交配して育成した品種です。早植・移植栽培で「月の光」に対して25%程度、「あさひの夢」に対して15%程度多収です。晩植栽培でも「月の光」に対して15%以上多収で、麦作後の栽培に必要な縞葉枯病に抵抗性をもつことから、二毛作に適しています。
  • 「ほしじるし」は、稈長が短いことから倒伏しにくく、湛水直播栽培における玄米収量が「月の光」に対して15%以上多収であり、省力低コストな直播栽培に適しています。
  • 「ほしじるし」の炊飯米は「コシヒカリ」に近い良食味です。多収で低コスト栽培に向くことと合わせて、北関東等の稲と麦の二毛作地帯を中心に、食味の良い業務用米等への利用が期待されています。
  • 「ほしじるし」は、農林水産省委託プロジェクト「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」の成果で、平成23年3月に種苗法に基づく品種登録出願を行いました(出願番号:第25710号)。

詳細情報

開発の背景と経緯

食料自給率の向上と食料の安定供給を実現していくためには、水田の有効利用が重要であり、温暖地においては、稲と麦の二毛作の拡大を図ることが土地利用効率を上げる一つの有効な方策です。稲と麦の二毛作地帯が多い北関東の平坦地では、麦作後に生産される米の市場評価は高いとは言えず、市場性の高い晩植栽培用品種が生産現場から求められています。平成21年に作物研究所が育成した多収・良質・良食味品種「あきだわら」は、業務用を中心として米卸からの評価が高く作付けが拡大していますが、縞葉枯病に対して罹病性であるため、稲と麦の二毛作地帯での栽培には適していません。このため、縞葉枯病抵抗性で食味の優れる多収品種の育成に取り組みました。

研究の内容・意義

1.開発の経過

「ほしじるし」は、多収の「関東199号」と、縞葉枯病抵抗性で良食味の「関東209号(後の『さとじまん』)」の交雑後代から育成しました。

2.特徴

  • 育成地における出穂期は「月の光」よりもやや早い"中生の中"、成熟期は「月の光」と同程度で"中生の晩"の熟期に属します(表1)。
  • 稈長は「月の光」よりやや短かく、穂数は「月の光」と同程度で、草型は"偏穂重型"です(表1写真1写真2)。
  • 「ほしじるし」の育成地(茨城県つくばみらい市)での玄米収量は、早植・移植栽培で「月の光」に対して25%程度、「あさひの夢」に対して15%程度多収です。また、麦作後を想定した晩植栽培でも、「月の光」に対して15%以上多収です(表1)。
  • 湛水直播栽培における玄米収量は「月の光」に対して15%以上多収です。稈長が短いことから倒伏しにくく、直播栽培に適します(表2)。
  • 玄米の外観品質は、「月の光」、「あさひの夢」よりやや劣ります。高温耐性は「日本晴」並の"中"です。炊飯米の食味は「コシヒカリ」に近い良食味です(表1表3図1写真3)。
  • 縞葉枯病に対しては"抵抗性"であり、麦作地帯での栽培に適します。いもち病抵抗性は弱いため、常発地帯ではいもち病防除の徹底が必要です。また、白葉枯病に対しては"やや弱"なので、常発地帯での栽培は避ける必要があります(表3)。
  •  栽培適地は、関東・北陸以西の地域です。

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3.名前の由来

良食味、多収、縞葉枯病抵抗性、直播適性と、多くの星印がつく、特性の優れる品種であることから命名しました。

今後の予定・期待

  •  「ほしじるし」は、縞葉枯病抵抗性であり、晩植栽培でも多収であることから、北関東の稲麦二毛作地帯などでの作付けに適すると考えられます。「コシヒカリ」に近い良食味でかつ玄米収量が高いことから、業務用米等への利用が期待されます。
  • 倒伏抵抗性が強く、湛水直播栽培に適することから、省力低コスト栽培用品種としても利用が期待されます。

用語の解説

縞葉枯病抵抗性
縞葉枯病は、ヒメトビウンカが媒介する稲のウイルス病です。東北、北陸地方を除く全国で発生が見られ、1960年代には50~60万haにおよぶ広い面積に甚大な被害をもたらしました。その後、小康状態となりましたが、1970年代後半には関東地方を中心に再度拡大し、猛威をふるいました。近年、ウイルスを持つヒメトビウンカの割合が高まっており、本病への注意が必要になってきています。ヒメトビウンカは、麦畑やイネ科雑草で越冬しており、麦刈り後に水田に飛来して苗を吸汁することでウイルスが稲に感染します。そのため、稲と麦の二毛作地帯では縞葉枯病が大きな問題となります。縞葉枯病抵抗性品種が育成されてから40年以上経過しますが、抵抗性は安定しており、縞葉枯病防除においては非常に有効です。本病の多発地域である埼玉県、群馬県などでは、「彩のかがやき」、「あさひの夢」、「ゴロピカリ」などの抵抗性品種が広域で栽培されています。

晩植適性
北関東における早植栽培は通常5月上中旬に田植えが行われますが、稲麦二毛作における麦作後の田植えは通常6月下旬です。麦作後の晩植栽培では生育期間が短くなるため、一定水準の収量、品質、食味を確保するためには、その地域の晩植栽培に適した品種の選定が必要です。北関東の二毛作においては、通常、「コシヒカリ」級~「あさひの夢」級の中生熟期で晩植栽培に適した品種が利用されており、それより早生では収量の確保が難しく、それより晩生では登熟日数が不足し安定生産が困難となります。