背景とねらい
近年、健康志向の高まりとともに固形分濃度が高い豆乳や全粒大豆を挽いた豆乳様飲料の消費が伸びています。 これに伴いこれらの食品に対するアレルギー発症の増加が問題となってきています。このため実需者からはアレルギー発症の少ない 大豆食品製造のために役立つ、主要なアレルゲンタンパク質を欠失した品種の供給が求められています。
これまでに育成したアレルゲンタンパク質を一部欠失した「ゆめみのり」は収量性が劣るため、普及しませんでした。 そこで、栽培しやすく、収量性などの農業特性を改良した品種を育成しました。
成果の内容・特徴
- 「タチナガハ」と「ゆめみのり」を交配し、「タチナガハ」を連続戻し交配して、αおよびα'サブユニットの欠失を指標した選抜を行い、 収量性の良い「なごみまる」を育成しました。
- 大豆貯蔵タンパク質のβ-コングリシニンのうち、主要アレルゲンの一つであるαサブユニットとα'サブユニットを欠失しています(図1)。
- 豆腐等の食品への加工適性はやや劣りますが、豆乳への加工適性は優れています(図2)。
- 本品種はアレルゲンタンパク質をすべて欠失しているわけではありませんので、アレルギーフリーではありません。
- 収量は「タチナガハ」並みに多収で(図3、表1)、「ゆめみのり」より増収します。
- 耐倒伏性は「タチナガハ」並に優れ、成熟期は「タチナガハ」よりやや早生です(表1)。
- 百粒重は「タチナガハ」よりやや軽く「サチユタカ」と同程度です (表1)。
- 栽培適地は東北中南部~関東北部です。
品種の名前の由来
豆乳を飲んで心がなごむ。また、生産現場においても栽培しやすいので安心感が持てるという意味をこめて命名しました。





用語説明
大豆のアレルギータンパク質
大豆は卵、牛乳と並ぶ3大アレルゲン食品の一つにあげられ、子実中にこれまで16種類のアレルギータンパク質が発見されています。 大豆を原料に含む加工食品については、その使用を表示することが推奨されています。
β-コングリシニン
子実中に約40%含まれている大豆タンパク質は、複数の貯蔵タンパク質と生理活性を持つタンパク質から成り立っています。 そのうち、β-コングリシニンは主要な貯蔵タンパク質の一つで全タンパク質の約30%を占めています。
α、α'サブユニット
β-コングリシニンはα、α'、βの3つのサブユニット(三量体)で構成されています。「なごみまる」はそのうちα、α'サブユニットを欠失しています。 特にαサブユニットはアレルギー性の高いタンパク質の一つです。
電気泳動法
タンパク質をその大きさ(分子量)で分離する方法です。特殊な液で溶かした大豆タンパク質を薄い寒天状の膜に浸み込ませ、 一定時間電気を流します。小さなタンパク質ほど長く移動し、大きなタンパク質ほど短く移動する性質がありますので、 大きさの異なるタンパク質を分離することができます。
戻し交配
品種改良技術の一つです。特定の形質を持った親 (A) と持たない親 (B) との間に生まれた子(C)に繰り返して親 (B) を交配させることを言います。 例えば、下記の図のようにして、普及品種(B)にその品種が持っていない優良形質(X)を他の品種(A)から導入します。

大豆品種「ゆめみのり」
平成13年に育成された品種で「なごみまる」と同様にα、α'サブユニットを欠失しています。収量性が劣るために現在は栽培されていません。
大豆品種「タチナガハ」
関東地方の主要品種で倒伏に強い多収品種です。平成17年の作付面積は約10,000haで国内では3番目に多く栽培されている品種です。
大豆品種「サチユタカ」
平成13年に育成された高タンパクの多収品種です。近年、作付面積(平成17年 約3,300ha)が急速に伸び、中国地方の主要品種となっています。