独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所
茨城大学 農学部
要約
茨城県特産の干しイモ(蒸切干 (むしきりぼし))では干しイモの一部が硬く白化し、品質が劣化する傷害(シロタ、中白)が問題となっています。 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所、同食品総合研究所、 茨城大学では、この障害はサツマイモが肥大する時期の乾燥に大きな原因があることを明らかにしました。この知見は高品質な干しイモを生産するための栽培技術や原料用品種の開発への重要な手がかりになります。
研究の背景
干しイモ(蒸切干 (むしきりぼし))の主産地である茨城県では、サツマイモ品種「タマユタカ」を原料にして全国の干しイモの約8割が生産されています。 しかし、干しイモの一部にシロタや中白とも呼ばれる白色不透明の硬い部分が生じる傷害(図1)が年によって発生することがあります。 シロタが発生した干しイモは食味が著しく不良となり、商品価値が失われるため、その防止技術の開発が望まれています。 そこで、作物研究所は農研機構食品総合研究所、茨城大学と共同でサツマイモの細胞や生育条件がシロタ発生におよぼす影響を検討し、シロタの発生要因を明らかにしました。
- 畑が乾燥するとシロタが発生する
「夏に雨が少ないとシロタが多い」と干しイモの生産農家では言われていました。実際に、イモが肥大する時期の9月から10月に土を乾燥させると、イモの水分含量が低くなり、それに伴ってシロタの発生が多くなります(表1)。 - シロタはイモの水分含量の低い部分に発生する
生のサツマイモの外観だけでは、どの部分が干しイモにした後にシロタになるのか識別することができません。しかしMRI(磁気共鳴イメージング)装置を使って蒸しイモの水分分布とシロタの発生を比べると、同じイモの中でも水分含量の低い部分にシロタが発生します(図2)。したがって、シロタの発生にはイモの水分含む量が関係すると考えられます。 - シロタ部分の細胞には隙間が多い
干しイモのシロタ部分を電子顕微鏡で観察すると、正常な部分と比べて多数の隙間が認められます(図3)こうした隙間はでん粉の蓄積や糊化が不十分なため に蒸したイモから水分が急激に失われた結果生じると考えられます。水分含量の低下したイモはでん粉の糊化が不完全となり、隙間の多い組織構造ができやすくなります。
これらの結果から、サツマイモが肥大する時期に畑が乾燥すると、イモの水分やでん粉の蓄積にムラが生じ、蒸し過程ででん粉の糊化が不十分になることがシロタ発生の原因であることが明かになりました。したがって干しイモのシロタを抑制するには、9月から10月にかけて畑が乾燥した時に、スプリンクラーなどによる畑地感慨を行うことが有効と考えられます。 なお、本研究は農林水産省の「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」によって実施されました