プレスリリース
安全なアレルゲン低減化素材の開発

- フタロシアニン染色繊維はハウスダスト、花粉、食品等の多種のアレルゲンを吸着し、 アレルゲン低減化素材として有効 -

情報公開日:2005年9月 5日 (月曜日)

独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 作物研究所
大和紡績株式会社

要約

農業・生物系特定産業技術研究機構作物研究所と大和紡績株式会社は共同でアレルゲンの新しい簡易分析手法を開発し、これを用いて、フタロシアニンで染色した繊維がハウスダスト、花粉、食物アレルゲン等の多様なアレルゲンを吸着することを明らかにしました。吸着したアレルゲンは洗濯によって外すことができ、フタロシアニンの蛋白質への影響も認められないことから、フタロシアニン染色繊維は安全なアレルゲン低減化素材として各種製品への応用が期待されます。

背景・ねらい

農業・生物系特定産業技術研究機構作物研究所(以下、作物研究所)では、作物アレルゲンの検出や低減化のための技術開発を行っています。一方、最近増加傾向にある花粉症やアトピー性皮膚炎等、作物以外のアレルゲンに起因するアレルギー関連疾患に対しても、開発したアレルゲン解析技術の応用を試みています。

アレルギー患者へのアレルゲン(ダニ、花粉等)の接触を避けるため、目の細かいシーツやマスクが開発されています。これらは通気が悪く快適性に悪影響を与えるうえに、ダニの死骸やフン、花粉等は分解して細かくなり、布目を通過することがあります。アレルギー反応を引き起こすのはダニや花粉から放出されるアレルゲン蛋白質であると考えられています。そこで、繊維自体がアレルゲンを吸着すればこうした問題の解決につながり、花粉を防ぐ快適なマスクやアレルゲン捕捉素材の開発等、新しいアレルギー関連製品の開発への応用が期待されます。そこで、アレルゲン解析技術の開発を行っている作物研究所とフタロシアニン染色繊維を開発した大和紡績は、フタロシアニン染色繊維のアレルゲンに対する作用について共同で研究を行いました。まず、繊維に吸着したアレルゲンの簡易定量法を開発し、次にこの手法を用いてフタロシアニン染色繊維のアレルゲン分子に対する効果を明らかにしました。

成果の内容・特徴

  • 繊維に吸着したアレルゲンを簡便に定量する手法を開発しました。
  • 上記の定量法を用い、フタロシアニンで染色した繊維が代表的なアレルゲンであるハウスダスト、花粉および穀物アレルゲンを吸着することを確認しました(図)。吸着されるアレルゲンの量は100グラムの繊維当たり2グラムと多く、吸着素材として十分有効であると考えられます。また、吸着したアレルゲンは、界面活性剤存在下で容易にはずれることがわかりました。これは、吸着が可逆的であることを示し、例えば洗濯により繰り返し使える等、アレルゲン吸着素材としてのフタロシアニンの実用性を示すものです。また、フタロシアニンは蛋白質の構造(大きさや、S-S結合の酸化還元状態)には変化を与えないことを明らかにしました。これはフタロシアニン関連製品を直接人体に接する製品(衣類やマスク等)に応用した場合の安全性を示す結果です。

本研究によりフタロシアニン染色繊維のアレルゲン吸着素材としての有効性・実用性・安全性についての基礎的な知見が得られました。

(本研究の一部は農林水産省「アグリバイオ実用化・産業化研究」の研究課題No.1603「包括的な低アレルゲン化技術の開発」により実施されています。)

図1 フタロシアニン染色繊維に吸着するアレルゲンの性質

今後の展開

フタロシアニン染色繊維はアレルゲン吸着素材として幅広い可能性を有することが明らかになりました。今後、アレルゲンに対する作用を詳細に解析し、アレルゲン低減化製品としての応用範囲を広げる予定です。


詳細情報

【用語解説】

フタロシアニン
血液ヘモグロビンや植物クロロフィルの構成成分であるポルフィリンと似た構造を有し、青色を呈する色素。新幹線ひかり号の青色の線に用いられるなど塗料として広く用いられ、光ディスク用記録媒体、ディスプレイ用カラーフィルター、複写機の有機半導体などその応用範囲は広い。大和紡績株式会社はフタロシアニンの消臭効果を見出し、消臭繊維としての製品開発を行っており、機能分子として今後も幅広い分野での応用が期待される。

図2 フタロシアニンの構造

アレルゲン
アレルギーを引き起こす物質で、多くは蛋白質であると考えられている。花粉症に代表されるアレルギー性疾患は増加傾向にあるといわれ、食物やハウスダストにも含まれるアレルゲンはアトピー性皮膚炎との関連も指摘されている。アレルゲンの包括的な低減化技術の開発は重要な研究課題である。