プレスリリース
美味しく、菓子にも適するサツマイモ新品種「あいこまち」

- サツマイモの用途拡大に貢献 -

情報公開日:2012年10月 5日 (金曜日)

ポイント

  • 糖度が高くて美味しく、菓子類への加工にも適するサツマイモ品種「あいこまち」を育成しました。
  • いもの外観が良く、ネコブセンチュウ、黒斑病に抵抗性を示します。
  • サツマイモ品種の選択の幅を広げるとともに、菓子類加工業者に高品質な加工原料を供給することが期待されます。

概要

  • 農研機構 作物研究所は、青果用として美味しく、菓子類の加工にも適するサツマイモ品種「あいこまち」を育成しました。
  • 「あいこまち」は、蒸しいもの食味が「ベニアズマ」並みに優れ、糖度が高く、また調理後の黒変1)が少ないため、菓子類への加工にも適します。
  • 「あいこまち」は、いもの外観が良く、ネコブセンチュウ、黒斑病に抵抗性を示します。
  • 関東地方等の青果用サツマイモ産地での栽培が見込まれています。

予算

運営費交付金

品種登録

出願番号:「第27050号」


詳細情報

開発の背景と経緯

サツマイモは子供の好きな野菜の一つであり、現代人に不足しがちなビタミンや食物繊維が多く含まれるなど、栄養的にも優れた作物です。青果用のサツマイモ品種は、関東地方では「ベニアズマ」が20年近く生産の大部分を占め、西日本では「高系14号」が普及していますが、近年は新しい品種を導入して地域のブランド化を進める動きが広がっています。また「ベニアズマ」は、青果用としては、いもが大きくなりすぎて外観が悪くなることや、収穫直後や年によっては糖度が低くなり食味が劣ること、菓子類の加工用としては調理後黒変が多いことや品質が一定しないことが問題になっています。さらに、「ベニアズマ」と「高系14号」は病虫害抵抗性が十分ではありません。
そこで、「美味しい、加工適性が高い、病虫害に強い」をコンセプトに、サツマイモの品種改良に取り組みました。その結果、いもの外観が良く、糖度が高く良食味で、菓子類への加工適性も高く、病虫害抵抗性に優れた「あいこまち」の育成に成功しました。

新品種の特徴

  • 開発の経過
    「あいこまち」は、でん粉の糊化温度が低く蒸しいもの糖度が高い「クイックスイート」を母、条溝2)がなく立枯病やサツマイモネコブセンチュウに強い「関系107」を父とする交配組合せから育成しました(写真1)。交配採種は2001年に九州沖縄農業研究センターで行い、翌2002年以降10年間をかけて作物研究所で選抜・育成を行いました。平成24年5月には種苗法に基づく品種登録出願を行いました。(出願番号:第27050号)
  • 特徴
    1)蒸しいもの食味は「ベニアズマ」並みに優れ、調理後の黒変が少ないです(表1、写真2)。いもに含まれるβ-アミラーゼ3)の活性が高く、蒸しいもの糖度が高いです(表1)。
    2)いもの条溝がなく、「ベニアズマ」よりいもの外観が良いです(写真1)。いもの平均一個重は「ベニアズマ」よりやや軽く、いもが大きくなりすぎることは少なく、いも収量は「ベニアズマ」並みです(表2)。
    3)サツマイモネコブセンチュウと黒斑病に強く、つる割病と立枯病に対しても中程度以上の抵抗性を示します。また「ベニアズマ」よりも貯蔵性が良いです(表2)。
    4)調理後黒変が少なく蒸しいもの肉質が中~やや粉のため、いもようかんや大学いもなどのいも菓子類への加工にも適し、青果用と加工用の両方に利用できる汎用性を持ちます(表3)。
    5)女性を対象とした蒸しいもの食味調査では、「ベニアズマ」よりも甘さを強く感じ、好みとする傾向がみられます(図1)。
  • 名前の由来
    美人の代名詞である「小町」でいもの外観が良いことを表し、甘く愛される品種になるようにという願いを込めて命名しました。

今後の予定・期待

  • 「あいこまち」の栽培適地は全国のサツマイモ栽培地帯で、特に関東地方の青果用サツマイモ産地での栽培が期待されます。現在、茨城県行方市や鉾田市などで栽培が見込まれています。
  • いも菓子類への加工原料としても適するため、加工業者からの要望に基づく栽培も見込まれています。
  • 今後、利用許諾契約を締結した民間種苗会社を通じて種苗が販売される予定です。
  • 平成24年11月14日~16日に、東京ビックサイトで開催されるアグリビジネス創出フェアにおいて、「あいこまち」の試食を行います。

用語の解説

1)調理後の黒変:
加熱調理したいもを長時間放置すると、ポリフェノール類が酸化して肉色が黒くなることをいいます。品種により黒変の程度が異なり、蒸しいもを一昼夜放置した後に、いも横断面の黒変の程度を観察して、無~多で評価します。黒変の少ないいもが加工原料として適します。
2)条溝:
いもの肥大が均一に進まず、いも表面に縦方向にできる溝のようなものを指します。品種によりできやすさが異なり、溝の深さと多少の程度により無~多で評価します。条溝がないいもの方が外観が優れます。
3)β-アミラーゼ:
サツマイモなどに含まれ、でん粉を糖化する酵素です。いもを加熱するとでん粉が糊化しますが、この酵素が糊化したでん粉に作用することで、マルトース(麦芽糖)を生成します。加熱調理したサツマイモが甘いのは、この酵素の働きによるところが大きいです。

 

写真1 あいこまち(左)とベニアズマ(右)のいも
写真1 あいこまち(左)とベニアズマ(右)のいも

 

写真2 あいこまち(左)とベニアズマ(右)の蒸しいもペースト
写真2 あいこまち(左)とベニアズマ(右)の蒸しいもペースト

 

表1 「あいこまち」の蒸しいも品質等の特性

 

表2 「あいこまち」の収量及び病虫害抵抗性等の特性

 

表3 「あいこまち」のいも菓子加工適性

 

図1 女性による蒸しいもの食味調査結果
図1 女性による蒸しいもの食味調査結果
(2011年、聖徳大学に調査依頼、平均年齢21歳のパネラー36名)
※若い世代には、ホクホク型よりもしっとり型が好まれる傾向があります。