プレスリリース
干しいも用品質・収量が優れる 加工用サツマイモ新品種「ほしこがね」

- 干しいもの品質・生産性向上に貢献 -

情報公開日:2013年2月13日 (水曜日)

ポイント

  • 干しいもの外観・食味等の品質が優れるサツマイモ品種「ほしこがね」を育成しました。
  • 主要品種である「タマユタカ」で問題となっている干しいもの品質障害である「シロタ」1)がほとんど発生しません。
  • 原料いもの収量が高く、加工歩留まりが高いため、干しいもの生産コスト低減に貢献することが期待されます。

概要

  • 農研機構 作物研究所は、干しいも加工用として、いもの形状、品質及び収量性が良好なサツマイモ品種「ほしこがね」を育成しました。
  • 「ほしこがね」の干しいもの食味は、主要品種である「タマユタカ」並み又はやや優れ、黄色みを帯びた美しい肉色が特徴です。また、干しいもが白く不透明になることで、商品価値がなくなってしまう「シロタ」がほとんど発生しません。
  • 茨城県等の干しいも用サツマイモ産地での栽培が見込まれ、貯蔵中のでん粉の糖化が早く、収穫後早期の加工が可能なため、年末年始向けの年内出荷が可能です。

予算

運営費交付金

品種登録

出願番号:「第26789号」


詳細情報

開発の背景と経緯

全国における干しいも加工用サツマイモの生産量は約4万トンで、サツマイモの加工食品用途の約5割を占めており、干しいも製品の産出額は約70億円です。また、原料いもの生産、製品の加工・販売までを農家が行う6次産業の典型例で、農家の所得向上に貢献できる地域特産品です。干しいもは茨城県を中心に生産され、作付け品種としては「タマユタカ」が9割以上を占めてきました。しかし、「タマユタカ」は干しいも加工時に「シロタ」と呼ばれる品質障害が発生しやすく、年により3割程度が廃棄されています。近年は干しいもの輸入が増大していることもあり、国産品の品質向上が課題となっています。そこで、収量が高く、干しいもの品質が優れ、シロタが発生しないことを目標に、サツマイモの品種改良に取り組み、「タマユタカ」に近い収量で、干しいもの外観と食味が良好であり、「シロタ」がほとんど発生しない「ほしこがね」の育成に成功しました。

新品種の特徴

  • 開発の経過
    「ほしこがね」は、やや多収でいもの外観が優れる「関東120号」を母、でん粉の糊化温度が低く蒸しいもの糖度が高い「クイックスイート」を父とする交配組合せから育成しました(写真1)。交配採種は平成15年に農研機構 九州沖縄農業研究センターで行い、以降8年間をかけて作物研究所で選抜・育成を行いました。平成24年3月には種苗法に基づく品種登録出願を行いました。
  • 特徴
    1)干しいもの食味は「タマユタカ」並みまたはやや優れ(表1、図1)、肉色は黄色みを帯びて良好です(写真2)。いもに含まれるβ-アミラーゼ2)の活性が高く、干しいもの糖度は「タマユタカ」より高いです(表1、表2、図1)。「シロタ」障害は、ほとんど発生しません(表1、図1)。
    2)「タマユタカ」よりいもの外観が良好な上にいもの条溝3)がなく、加工作業を行いやすいです(表2、写真1)。いも収量は「タマユタカ」の9割程度で、ほぼ同等です(表2)。
    3)サツマイモネコブセンチュウ4)に強、黒斑病5)とつる割病6)にやや強の抵抗性を示します(表3)。
    4)「タマユタカ」と比べ、貯蔵中のでん粉の糖化が早く、収穫後早期の加工が可能なため、年末年始向けの年内出荷が可能です。
  • 名前の由来
    干しいも加工用であり、干しいもの外観が黄色みを帯びて美しく、収量も高いことから、生産者の所得向上に貢献することを願って、「ほしこがね」と命名しました。

今後の予定・期待

  • 「ほしこがね」の栽培適地は全国の干しいも加工用サツマイモ栽培地帯で、特に茨城県の干しいも生産地での栽培が期待されています。現在、茨城県ひたちなか市や東海村、鉾田市などで栽培が見込まれています。
  • 既に種苗の利用許諾契約を締結した民間種苗会社を通じて種苗の販売が開始されており、徐々に種苗の供給量が増える見込みです。
  • 平成25年2月19~20日に東京国際フォーラムで開催される第7回JAグループ国産農畜産物商談会において、「ほしこがね」の干しいも展示・試食を行います。

用語の解説

1)シロタ:
干しいもの一部が白色不透明となり、外観と食味が劣る品質障害です。原料サツマイモ栽培時の土壌水分の不足や、でん粉の蓄積不良が原因となり、干しいも加工した時に微細な空隙が生じるために発生することが分かっています。品種により発生程度が異なり、無~多の7段階で評価します。シロタが発生した干しいもは商品価値がありません。
2)β-アミラーゼ:
サツマイモに含まれるでん粉を糖化する酵素です。いもを加熱するとでん粉が糊化しますが、この酵素が糊化したでん粉に作用することで、マルトース(麦芽糖)を生成します。加熱調理したサツマイモが甘いのは、この酵素の働きによります。
3)条溝:
いもの肥大が均一に進まず、いも表面に縦方向にできる溝のようなものを指します。品種によりできやすさが異なり、溝の深さと多少の程度により無~多の7段階で評価します。条溝が無いいもの方が干しいも加工時の皮むき作業が行いやすくなります。
4)サツマイモネコブセンチュウ:
サツマイモを含む多種類の野菜や畑作物の根に寄生し、根にこぶを作り、品質や収量を低下させる有害線虫です。防除方法としては、くん蒸剤による土壌消毒や殺線虫剤の土壌処理が行われます。
5)黒斑病:
土壌中の糸状菌の一種、セラトシスティス菌によって引き起こされる病気です。苗やいもに黒い病斑が現れ、貯蔵中のいもに発生するといもが腐敗して被害が大きくなります。病斑のない健全な種いもを選ぶことや、温湯または農薬により種いもや苗を消毒することにより、発生を抑えることが可能です。
6)つる割病:
土壌中の糸状菌の一種、フザリウム菌によって引き起こされる病気です。苗床や畑で発生すると、抵抗性が弱い品種は苗の茎が縦に割れて枯れてしまいます。防除方法としては、農薬による植え付け前の苗消毒が効果的です。

 

写真1 ほしこがね(左)とタマユタカ(右)のいも
写真1 ほしこがね(左)とタマユタカ(右)のいも

 

写真2 ほしこがね(左)とタマユタカ(右)の干しいも
写真2 ほしこがね(左)とタマユタカ(右)の干しいも     右下はシロタが発生したタマユタカの干しいも。

 

表1 「ほしこがね」の干しいもの品質特性

 

表2 「ほしこがね」の収量・塊根特性

 

表3 「ほしこがね」の病虫害抵抗性・貯蔵性

 

図1 茨城県ひたちなか市での現地試験における干しいもの品質特性

図1 茨城県ひたちなか市での現地試験における干しいもの品質特性(平成19-23年の平均)