プレスリリース
いもの肥大が早く、ごく多収の青果用サツマイモ新品種「からゆたか」

- 栽培期間が短いため早掘栽培や新規導入に最適 -

情報公開日:2014年11月20日 (木曜日)

ポイント

  • いもの肥大が早く、ごく多収の青果用サツマイモ新品種「からゆたか」を育成しました。
  • いもの外観が良く、肉質はねっとりしていて、焼きいもに適します。
  • 栽培期間が短いため、早掘栽培1) での収量向上やサツマイモの新規作付けが期待されます。

概要

  • 農研機構作物研究所では、短い栽培期間でいもが肥大し、収量性や外観品質に優れる新品種「からゆたか」を育成しました。
  • 「からゆたか」は、いもの肥大が早く、栽培期間が標準より20日程度短くなります。いも収量は「ベニアズマ」2) に比べて1.6~1.8倍にのぼり、ごく多収です。いもの外皮はやや滑らかで、外観が優れます。焼きいもにした際の食味は「ベニアズマ」並み、肉質は粘質で、焼きいもに適します。
  • 「からゆたか」の導入により、既存産地では早掘栽培の収量が向上するほか、栽培期間が短いため、サツマイモを新たに導入することが可能になります。現在のところ、佐賀県上場(うわば)地区のバレイショ後作で導入が見込まれています。

予算:運営費交付金
品種登録出願番号:「第29026号」


詳細情報

開発の経緯

青果用サツマイモは5~8月の価格が最も高く、高値出荷を狙った早掘栽培が行われています。しかし、早掘用としてよく栽培される「高系14号」(こうけい14号)3) では、標準栽培と比べていもの外観や収量は十分ではありません。また、サツマイモは、苗の植付からいもの収穫まで通常約120~160日かかり、気象条件や前後作により十分な栽培期間が確保できない地域では導入が困難です。そこで、農研機構作物研究所は、短い栽培期間でいもが肥大し、収量性や外観品質に優れる新品種「からゆたか」を育成しました。

「からゆたか」は、ごく多収で1株当たりのいも数が多い「関東123号」を母、多収でいもの外観に優れる「ベニオトメ」を父とする交配組合せから育成しました。交配採種は2003年に農研機構九州沖縄農業研究センターで行い、10年間をかけて作物研究所で選抜・育成を行いました。2014年3月には種苗法に基づく品種登録出願を行いました。

新品種の特徴

  • 特徴
    1)「からゆたか」はいもの肥大が早く、育成地では挿苗後約100日でいもの平均1個重が、需要の多い出荷規格Mサイズに相当する200gになります(図1)。1株当たりのいも数も多く、いも収量は「ベニアズマ」に比べて、栽培期間約100日間で1.6倍以上、約120日間で1.4倍以上、約150日間で1.8倍以上となり、ごく多収です(図2)。ただし、約150日間栽培した場合、いもの平均1個重は300g程度と大きくなります。
    2)いもの外皮はやや滑らかで、条溝4) がなく、「ベニアズマ」「高系14号」に比べて外観が優れます(写真1)。
    3)蒸しいもの食味は「ベニアズマ」より劣るものの、焼きいもの食味は「ベニアズマ」並みで、肉質は粘質、焼きいもに適します(表2)。

    4)つる割病5) に強く、「ベニアズマ」よりも貯蔵性が優れています。(表1、2)

  • 名前の由来
    サツマイモの別名唐いも(からいも)の「から」と、多収を示す「ゆたか」を組み合わせて命名しました。

栽培上の留意点

  • 栽培期間が長くなるといもが大きくなるので、良品を収穫するためには、いもの肥大状況を確認しながら計画的に収穫を進める必要があります。

今後の予定・期待

  • 早掘栽培などの短期間の栽培に適しています。「からゆたか」の導入により、既存産地では早掘栽培の収量が向上するほか、これまで栽培期間が十分に確保できなかった地域へのサツマイモの新規作付けが可能になります。当面は、佐賀県上場地区のバレイショ後作で導入が見込まれています。
  • 今後、利用許諾契約を締結した民間種苗会社を通じて種苗が販売される予定です。

用語の解説

1)早掘栽培:
サツマイモの標準栽培が5月植付で10月収穫(約120~150日間)なのに対し、4月植付で8月収穫(約90~120日間)と栽培期間が短く、早く収穫する栽培を早掘栽培と呼びます。早掘のサツマイモは高値で取引されますが、通常の品種ではいもの肥大が十分ではなく、早掘用の品種の育成が求められていました。
2)ベニアズマ:
青果用サツマイモの主力品種で、作付面積は第1位を占めます。関東地方を中心に栽培され、食味が良いです。いもの外観や品質の安定性について問題が指摘されています。
3)高系14号(こうけい14号):
青果用サツマイモで2番目に作付面積が多い品種です。西日本を中心に栽培され、食味は中程度です。貯蔵性に優れ、加工用としても利用されますが、病虫害抵抗性が劣ります。
4)条溝(じょうこう):
いもの肥大が均一に進まないために、いも表面に縦方向にできる溝を指します。品種によりできやすさが異なり、溝の深さと多少の程度により無~多の7段階で評価します。条溝が無いいもの方が外観が優れます。
5)つる割病:
土壌中の糸状菌の一種、フザリウム菌によって引き起こされる病気です。苗床や畑で発生すると、抵抗性が弱い品種は茎が縦に割れて枯れてしまいます。防除方法としては、農薬による植え付け前の苗消毒が効果的です。

 

写真1 「からゆたか」(左)、「ベニアズマ」(中)および「高系14号」(右)のいも
写真1 「からゆたか」(左)、「ベニアズマ」(中)および「高系14号」(右)のいも


図1
 図1 植付後のいも平均1個重の変化
(育成地、2010~2011年の平均、マルチ栽培、栽植密度は400株/a。)

 

図2
図2 植付後のいも収量の変化
(育成地、2010~2011年の平均、マルチ栽培、栽植密度は400株/a。)

 

表1

 

表2