プレスリリース
ダイズやコムギ等のDNAマーカー育種の利用促進に向け情報を一元化

- 作物の品種改良の効率化に貢献 -

情報公開日:2015年3月30日 (月曜日)

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作物ゲノム育種研究センター
(農研機構、生物研)

ポイント

  • 新たにダイズ、コムギ、果樹類、野菜類、工芸作物、飼料作物類及び 花き類のDNAマーカー情報を一元化してウェブページで公開
  • 作物の品種改良の現場でのDNAマーカーの利用を促進

概要

  • 農研機構と生物研が連携して運営するバーチャル組織「作物ゲノム育種研究センター」は、DNAマーカーの開発状況の把握を容易にし、育種関係者による作物のDNAマーカー育種の利用を促進するため、この度ダイズ、コムギ、果樹類、野菜類、工芸作物、飼料作物類及び花き類のDNAマーカーについて、標的とする形質や活用するポイント等を一元化して整理し、公開しました。これは、平成26年12月に公開したイネのDNAマーカー情報に続くものです。
  • 作物のDNAマーカーは、国内外の研究機関や大学等が開発しており、近年、急速にその成果が蓄積されてきています。しかしながら、その成果情報が一元的に整理されていないため、品種開発の現場が必要とする情報を適時的確に得ることが難しいことが問題となっていました。そのため、今回、これまでに公開された文献情報を整理し、品種開発の現場に利用しやすい形で提供することとしました。
  • 既に公開しているイネのDNAマーカー情報のページは、公設試験場等関係者の方々に利用されるとともに、データベースに関するご意見やDNAマーカーの利用方法等に関する問い合わせをいただいており、当該ページの掲載情報等にフィードバックさせていただいています。また、イネ以外の作物への要望もいただいており、この度のダイズやコムギ等のDNAマーカー情報の整理・公開は、これらの要望にも対応したものです。
  • 今回の情報の追加により、主要な作物のDNAマーカー情報については、ほぼ網羅することができました。今後も開発されるDNAマーカー情報やDNAマーカーを利用して得られた成果を情報として追加するとともに、利用者からの様々なご要望などのフィードバックを得て、本サイトの情報をより使いやすいものにしていきます。併せてDNAマーカー選抜育種の原理や内容についての講習や、実際の作業等を体験していただくワークショップも開催していくこととしています。
  • 今回公開したDNAマーカー情報を、ダイズやコムギ等の育種関係者の皆様にご利用いただくとともに、DNAマーカー育種の推進に関する様々なご意見やお問い合わせをいただきたいと思います。


詳細情報

公開するDNAマーカー情報について

「作物ゲノム育種研究センター(※)」は、作物ゲノム育種の推進に向けた情報提供を任務の一つとしています。

これまで多くの作物について、品種開発に有用な遺伝子の研究がゲノム情報を利用して進められてきました。これらの研究成果は学術雑誌などに発表されています。しかし、作物全体にわたって、どのような形質についてどのような遺伝子が関与しているのか、それらをどのように活用できるのか等をまとめた情報源はなく、品種開発の現場では必要な情報を適時的確に得ることが困難でした。そこで「作物ゲノム育種研究センター」では、育種関係者によるDNAマーカーの開発状況の把握を容易にし、DNAマーカー育種の利用を促進するため、新たに下記の作物について、標的とする形質や活用するポイント等を一元化して整理したDNAマーカー情報のウェブページを公開しました。これは、平成26年12月に公開したイネのDNAマーカー情報に続くものです。DNAマーカーを利用する研究者だけでなく、研究企画に携わる行政の方々にも、開発情報を理解できるように分かりやすくまとめています。また、詳細情報として、育種研究者が容易に利用するためのマーカーの塩基配列情報も整理しています。

  • ダイズ
  • コムギ
  • 果樹類(ウメ、オウトウ、カキ、カンキツ、クリ、ニホンスモモ、ニホンナシ、ビワ、ブドウ、モモ、リンゴ)
  • 野菜類(イチゴ、キュウリ、トウガラシ、トマト、ナス、ネギ、ハクサイ、メロン)
  • 工芸作物(チャ)
  • 飼料作物類(イタリアンライグラス、ギニアグラス、シバ、ソルガム、トウモロコシ、ブラキアリアグラス)
  • 花き類(カーネーション、バラ、リンドウ)

(※)「作物ゲノム育種研究センター」とは

作物のゲノム解読はこの10年間で飛躍的に進み、得られた塩基配列情報は農業形質に関わる多くの遺伝子の研究に活用されています。これらの研究成果は、品種改良において塩基配列の違いを目印にして、望ましい形質をもつ個体を選抜するDNAマーカー選抜育種にも利用でき、病虫害抵抗性遺伝子の導入といった優良個体の選抜の効率化が進みました。しかしながら、数多くの育種目標を抱える品種開発の現場では、急速に充実したゲノム情報を有効に利用できる十分な体制が整っていません。このような状況を受け、ゲノム情報を利用した品種改良(ゲノム育種)を加速する目的で、品種改良の現場を持つ農研機構と基礎研究を推進する生物研が互いに連携・協力した組織横断的なバーチャル組織「作物ゲノム育種研究センター」を平成26年4月に設置しました。

農研機構が品種開発の中で培った育種技術及び育種素材と、生物研がゲノム研究で蓄積した配列情報や遺伝解析ツールを活用し、基礎(ゲノム研究・素材開発)から応用・開発(品種育成)まで一貫して技術開発・支援を行い、ニーズに合った高品質品種の育成や品種育成を効率的に行うための育種基盤の強化を図ります。

今後の予定として、「作物ゲノム育種研究センター」の機能をフルに活用し、公設試あるいは民間研究機関のイネ新品種の育成支援に取り組みます。ゲノム育種支援の活動は、DNAマーカー情報の整理はもとより、ゲノム育種の幅広い普及に取り組みます。

用語の解説

1)DNAマーカー:
生物個体の遺伝的性質、もしくは系統(個人、親子・親族関係、血統あるいは品種など)を特定するための目印となる個体特有のDNA配列をDNAマーカーといいます。DNAマーカーのゲノム上での挙動はメンデルの遺伝法則に従うことから、単純な遺伝様式の形質を司る遺伝子については連鎖関係(どのDNAマーカーの近くに存在するのか)を利用して染色体上の位置を明らかにすることができます。
2)ゲノム育種:
作物の交配集団の子孫から、DNAマーカーを利用して、望ましい遺伝子の組み合わせを持った個体を選抜する品種改良の方法のことをいいます。生育時期や栽培環境に影響しないDNA情報を直接調べることで、栽培時の特性の調査をすることなく効率的に育種選抜を進めることができることから、多くの作物で塩基配列の解読とともに導入が進んでいます。
 

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簡易情報
簡易情報


詳細情報の一例
詳細情報


図.ダイズのDNAマーカー情報データベースの画面例
ダイズについてゲノム育種への利用が可能な29個の遺伝子の特徴を簡易情報と詳細情報に分けて表示。簡易情報では、遺伝子の概要と開発した研究機関およびこれまでに情報を活用して育成された品種を記載。詳細情報では、それらの情報に加えてゲノム上の位置情報、文献、マーカー育種に必要なDNA(プライマー)配列の情報を記載。