プレスリリース
飼料用米に適した水稲新品種「オオナリ」

- 関東以西向け中生で多収 -

情報公開日:2016年6月 8日 (水曜日)

ポイント

  • 中生で収量の高い飼料用米に適した水稲新品種「オオナリ」を育成しました。
  • 既存の水稲多収品種「タカナリ」の課題である脱粒性1)(子実が穂から自然に脱落しやすいこと)を改良したもので、収穫期の収量損失が少なく、1 t/10aに近い収量性を持つ多収品種です。

概要   

  • 農研機構次世代作物開発研究センターは、飼料用米に適した水稲新品種「オオナリ」を育成しました。
  • 「オオナリ」は、既存の水稲多収品種「タカナリ」で課題であった脱粒性1)を改良したもので、脱粒による収穫期の損失が少なくなっています。粗玄米収量は、多肥栽培で940 kg/10aに達しており、これまでで最も高いレベルの収量性を持っています。

予算:農林水産省委託プロジェクト「国産農産物の革新的低コスト実現プロジェクト」

品種登録出願番号:第30270号(平成27年6月17日出願、9月29日出願公表)

新品種育成の背景と経緯

飼料用米生産を持続的に行っていくためには、単収を増加させることを通じて、生産コストを大幅に削減していく必要があります。これまでに、温暖地向きの飼料用米に適した多収品種としては「タカナリ」が利用されてきました。しかし、「タカナリ」は脱粒しやすく、刈り遅れた場合など収穫期の収量損失が多いことが問題でした。そこで、「タカナリ」の脱粒性を改良した品種の育成を進めました。

「オオナリ」の特徴

  • 水稲多収品種「タカナリ」のγ線照射2)による突然変異個体から選抜された粳(うるち)の品種です。
  • 生育特性や草姿は「タカナリ」とほぼ同じであることから、「タカナリ」を栽培していた地域で容易に導入することができます(表1写真1写真2)。
  • 籾の脱粒程度に関わる曲げ応力3)が「タカナリ」より大きく、「タカナリ」の脱粒性が改良されています(表2写真3)。脱粒性の改良により収穫期の収量ロスが少なくなるため、粗玄米収量の年次変動が少なく、平均940 kg/10aの安定した多収となります(図1)。
  • 白葉枯病には中程度の抵抗性、縞葉枯病には強い抵抗性を持ちます。
  • 玄米の外観品質は「タカナリ」並で、食用品種の「日本晴」よりも劣ります。粒形はやや細長く、食用品種と識別が可能です(写真4)。
  • 栽培適地は、関東以西の地域です。

生産上の留意点

  • 耐冷性が弱いため、冷害の恐れのある地域での栽培は避けてください。
  • 種子の休眠性4)が深いため、播種に際して休眠打破の処理が必要です。
  • いもち病に対しては複数の真性抵抗性5)遺伝子を持つと推定されており、通常は発生しません。しかし、葉いもちの圃場抵抗性6)は弱いので、種子消毒等慣行防除を徹底するとともに、罹病した場合は防除してください。
  • トリケトン系4-HPPD阻害型除草成分(ベンゾビシクロン、テフリルトリオン、メソトリオン)に感受性が高いため、それらを含む除草剤は使用しないでください。
  • 苗丈がやや短いので、田植え後に冠水しないよう水管理に留意してください。

品種の名前の由来

多収品種「タカナリ」をもとに改良し、収量がさらに多くなっていることから命名しました。

今後の予定・期待

栃木県宇都宮市内で「タカナリ」に替えて数haの普及が見込まれています。この他のこれまで「タカナリ」を栽培していた地域などでも普及が期待されています。

用語の説明

1)脱粒性:稲の子実が熟した時に、自然に穂の軸から脱落する性質。

2)γ線照射:人為的に突然変異個体を得るために、突然変異を誘発する放射線の一種であるγ線を照射すること。

3)曲げ応力:穂に着いている籾を小穂軸に対し垂直方向に押すときに、小穂軸内部にはたらく力。大きいほど脱粒しにくい。

4)休眠性:種子を発芽に適した条件下においても発芽しない性質。一定期間高温条件に置くこと等により休眠を打破し、発芽させることができる。

5)真性抵抗性:程度の強い抵抗性で、特定の種類のいもち病菌には感染しない。長年栽培することにより、感染する病菌が出現し、抵抗性が持続しない場合がある。

6)圃場抵抗性:比較的多くの種類のいもち病菌に対して効果がある抵抗性。抵抗性の程度は弱く多少感染するが、罹病しても著しい減収は免れる。長年の栽培でも抵抗性の持続が期待できる。

 

表1.生育特性.png

 

表2.脱粒性程度の比較

 

図1. 移植栽培における粗玄米収量の比較

 

写真1.「オオナリ」の圃場での草姿

 

写真2.「オオナリ」の草姿

 

写真3.「オオナリ」の脱粒の様子

 

写真4.「オオナリ」の籾および玄米