プレスリリース
(研究成果) オレンジ色の加工用サツマイモ新品種 「あかねみのり」と「ほしあかね」

- カロテンを含み、外観の良い製品が加工できます -

情報公開日:2020年10月20日 (火曜日)

ポイント

農研機構は、オレンジ色の肉色をもつ加工用サツマイモ新品種「あかねみのり」と「ほしあかね」を開発しました。「あかねみのり」はチップ等への加工用で、きれいなオレンジ色の良好な仕上がりの製品となります。多収性でいもの形状が良く、当面は九州地域でのチップ加工用を中心に普及が期待されます。「ほしあかね」は干しいも加工用で、「べにはるか」や「ほしこがね」の干しいもに比べて、淡いオレンジ色で透明感のある美しい仕上がりの干しいもが加工できるのが特徴です。食味やいもの形状も優れており、茨城県を中心とする干しいも生産地帯での普及が期待されます。

概要

食品加工用のサツマイモの多くは肉色が白~黄ですが、消費者の嗜好の変化とともに紫サツマイモに代表されるカラフルな品種の需要が高まっています。肉色がオレンジ色(橙色)のサツマイモ品種には「ベニハヤト」「ヒタチレッド」などがありますが、いずれも収量性や加工適性などに難があり、生産現場からはこれらを改良した新品種の開発が望まれていました。そこで農研機構はチップ等加工に適した「あかねみのり」と干しいも加工に適した「ほしあかね」の2品種を育成しました。
「あかねみのり」は、チップ加工適性が高く、製品のオレンジ色を帯びた外観と食味は「ベニハヤト」より優れます。原料いもの生産性が高く、製品の品質も高いため、鹿児島県を中心とする加工用サツマイモ生産地帯で「ベニハヤト」の置き換えで導入が見込まれています。また、寒冷地での栽培にも適し、北海道では干しいも加工用として新規導入が見込まれています。
「ほしあかね」は干しいものシロタ1)発生が僅かで、オレンジ色を帯びた透明感のある美しい外観の干しいもが生産できます。その食味は「べにはるか」並みかやや優れます。「べにはるか」や「ヒタチレッド」より1割以上多収で、いもの裂開2)が少なく形状が良好なため、加工作業が容易です。茨城県を中心とする干しいも生産地帯で普及が期待されます。
2021年春から、民間の種苗会社等を通じて「あかねみのり」、「ほしあかね」の苗が供給される予定です。

関連情報

予算:生研支援センター イノベーション創出強化研究推進事業「地域ブランド強化のための高品質食用・加工用サツマイモ品種の開発」課題番号27033C、運営費交付金
品種登録出願番号:「あかねみのり」 34614(令和2年6月29日公表)、「ほしあかね」 34613(令和2年6月29日公表)

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構次世代作物開発研究センター 所長 佐々木 良治
研究担当者 :
同 カンショ・資源作物育種ユニット 藏之内 利和
広報担当者 :
農研機構次世代作物開発研究センター 広報専門役 大槻 寛

詳細情報

新品種育成の背景と経緯

チップ加工用のサツマイモで、いもの肉色がオレンジ色となるカロテン含有品種は少なく、これまでは菓子等加工用の「ベニハヤト」が代用されてきました。しかし、製品の生産性や収量が低い等の問題があり、これらの欠点を改良した品種の育成が望まれていました。
一方、サツマイモから作られる干しいもは、品質・外観の優れる「べにはるか」、「ほしこがね」等が多く使われていますが、これらは黄肉色系のため、区別性のあるカラフルな肉色の品種が望まれていました。肉色がオレンジ色の既存品種「ヒタチレッド」は裂開が多いなど問題があり、新品種の開発が急がれていました。
このようなことから、カロテンを含有し加工適性の高い多収品種の育成に取り組みました。

新品種「あかねみのり」の特徴

  • いもの外観が良く食味が優れる「べにはるか」を母、カロテンを含有し多収性の「作系22」を父とする交配組合せから選抜した品種です。
  • いもの形状が揃い、表面の凹凸が少ないので加工しやすく、カロテンを含有するため製品がオレンジ色を帯びた良好な仕上がりとなります(写真12)
  • チップ加工適性が優れ、食味・品質が優れます(図1)。
  • 「あかねみのり」は、いもの肉色がオレンジ色の加工用品種「ベニハヤト」や「ヒタチレッド」より大幅に収量が高く(図2)、サツマイモネコブセンチュウ3)およびつる割病4)に抵抗性があります(表1)。なお、立枯病には弱いので、発生圃場では防除が必要です。

新品種「ほしあかね」の特徴

  • カロテンとアントシアニンを含有し比較的病虫害抵抗性が優れる「関東136号」を母、でん粉糊化開始温度がやや低く、干しいも品質が優れる「ほしキラリ」を父とする交配組合せから選抜した品種です。
  • いもの裂開および形状の乱れが少なく、表面の凹凸も少ないため、加工作業が容易です。カロテンを含有するため製品がオレンジ色を帯びた良好な仕上がりとなります(写真34)。
  • 干しいも加工適性が優れ、シロタの発生が僅かで、食味・品質が優れます(図3)。
  • 「ほしあかね」は、「ヒタチレッド」や、「べにはるか」より多収性を示します(表2)。
    なお、立枯病にやや弱いので、発生ほ場では注意が必要です。

品種の名前の由来

「あかねみのり」は、カロテンを含むため肉色がオレンジ色を帯び(あかね)、多収性であること(みのり)から命名されました。
「ほしあかね」は、干しいも用であり、製品の外観がオレンジ色(あかね)を帯びることから命名されました。

今後の予定・期待

「あかねみのり」は、チップ加工用で現在の主力品種「ベニハヤト」と置き換えていくことにより、加工用サツマイモの生産振興に貢献すると期待されます。北海道では干しいも用として普及が見込まれます。
「ほしあかね」は、干しいも加工用でオレンジ肉色の「ヒタチレッド」と置き換わることにより、オレンジ色系の干しいもの生産拡大が見込まれ、加工用サツマイモの生産振興に貢献すると期待されます。
2021年春から、民間の種苗会社等を通じて苗が供給される予定です。
10月26日~30日に、農林水産省「消費者の部屋(東京)」にて、「あかねみのり」と「ほしあかね」の展示を行います。 https://www.maff.go.jp/j/heya/tenzi/ (農林水産省)

原種苗入手先に関するお問い合わせ

農研機構 次世代作物開発研究センター 研究推進室 渉外チーム
電話:029-838-8942 ファックス:029-838-7408

利用許諾契約に関するお問い合わせ

農研機構本部 知的財産部 知的財産課 種苗チーム
電話:029-838-7390 ファックス:029-838-8905

用語の解説

シロタ
干しいもの品質障害の一つであり、干しいもの一部に白色を帯びた不透明部分を生じ、外観や食味が低下します。土壌水分の欠乏が原因の一つであることが分かっています。[概要へ戻る]
裂開
塊根の一部が、縦または横方向に割れ、外観が劣るとともに、加工利用にも影響を及ぼす障害です。[概要へ戻る]
サツマイモネコブセンチュウ
線虫の一種で、寒冷地を除く全国に分布します。土壌中に生息し、サツマイモの根に寄生すると小さなコブを多数形成し、いもの外観が乱れ、収量が減少することもあります。[新品種「あかねみのり」の特徴へ戻る]
つる割病
病原は土壌中の糸状菌の一種で、種いもで伝染し、茎が裂けたり枯死したりする病害です。[新品種「あかねみのり」の特徴へ戻る]

参考図(あかねみのり)

写真1「あかねみのり」の塊根の外観と肉色
左:「べにはるか」、右:「あかねみのり」
写真2「あかねみのり」のチップの外観
加工:S社 2019年度
図1「あかねみのり」のチップの品質特性
S社:2018年~2019年の平均。外観・風味・食感・食味:下(1)、やや下(2)、中(3)、やや上(4)、上(5)の5段階で判定。
図2 「あかねみのり」のいも収量
鹿児島県農業開発総合センター 2017年~2019年の平均)
表1 「あかねみのり」の病虫害抵抗性(育成地 2015年~2019年の平均)

参考図(ほしあかね)

写真3 「ほしあかね」の塊根と断面
左:「ほしあかね」、中央:「べにはるか」、右:「ヒタチレッド」
写真4 「ほしあかね」の干しいもの外観
左:「ほしあかね」、右:「べにはるか」
図3 育成地およびひたちなか現地における干しいもの品質特性
育成地:茨城県つくばみらい市、ひたちなか現地:茨城県ひたちなか市
シロタ:障害程度を無、微、少、やや少、中、やや多、多の7段階で判定
食味:下、やや下、中、やや上、上の5段階で判定
肉色:淡橙、橙の2段階で判定
繊維:多、やや多、中、やや少、少の5段階で判定
糖度:10倍希釈液について測定した値(育成地のみ)
肉質:粉、やや粉、中、やや粘、粘の5段階で判定(ひたちなか現地のみ)
表2 「ほしあかね」の収量性および病虫害抵抗性