プレスリリース
(研究成果) ドローン空撮画像を用いた水稲生育量の調査法を開発

- DNA分析と組み合わせて生育量に関わる遺伝子を特定 -

情報公開日:2021年3月24日 (水曜日)

ポイント

農研機構は、水稲の生育量1)をドローン空撮画像を用いて調査する手法を開発しました。従来の目視による調査に比べ、1/20の作業時間で、より客観的な結果が得られます。生育量は作物の生産性に関わる重要な特性の一つですが、環境の影響を受けやすく、また客観的、効率的な計測が難しいため、これまで正確な選抜ができず、品種改良のネックになっていました。今回、開発した手法で収集したデータとDNA分析を組み合わせることにより、水稲の生育量に関わる遺伝子を染色体上の4カ所に特定しました。これらの遺伝子を活用し、今後、生産性の高い水稲品種の育成が効率化すると期待されます。

概要

空撮の様子
農研機構は、水田において多様な水稲の生育初期の生育量の違いをドローンの空撮画像から数値化し、評価する手法を開発しました。本調査法では、10aの水田で栽培する400種類の稲に対して、ドローンによる10分間程度の撮影で調査に十分な枚数の画像が得られます。従来の目視による調査法と比べ、1/20の作業時間で、より客観的な結果が得られます。
目的に合わせて交配した水稲の集団約3,000個体について、開発した生育量調査とDNA分析を組み合わせて行うことにより、生育量に関わる遺伝子を染色体上の4カ所に特定しました。更なる解析により、生育量を高める遺伝子を持つ稲ではバイオマス2)が増え、一部の遺伝子では子実(玄米)収量も増加することがわかりました。特定された遺伝子は、今後、生産性の高い日本型の水稲品種のDNAマーカー選抜に利用され、品種改良の効率化に役立つと期待されます。

関連情報

予算:農林水産省委託プロジェクト「民間事業者等の種苗開発を支える「スマート育種システム」の開発」

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構次世代作物開発研究センター 所長 佐々木 良治
研究担当者 :
同 次世代作物開発研究センター 基盤研究領域 ユニット長 米丸 淳一、上級研究員 小川 大輔、上級研究員 常松 浩史
同 農業環境変動研究センター 環境情報基盤研究領域 上級研究員 坂本 利弘
広報担当者 :
同 次世代作物開発研究センター 広報専門役 大槻 寛

詳細情報

開発の社会的背景

無人航空機の一つであるドローンは、遠隔操作や自動航行が可能で様々なセンサーを搭載できるため、薬や荷物の宅配や大型工場内での危険個所のモニタリングなど、幅広い用途で利用されています。農業分野においても、水田全体の作物の生育量や葉色の違いに基づく生育診断や農薬散布などへの利用が試みられています。数千~数万と多数の個体について個別に特性を調べる必要がある品種育成では、生育量や形態の違いを効率的、かつ正確に評価する方法が求められており、ドローンの活用による技術改善が期待されています。

研究の経緯

水稲の生産性向上は我が国の農業における課題であり、生産性の高い水稲品種の育成が求められています。作物の生産性に関わる生育量は、品種改良における重要な特性の一つですが、目視での調査では、経験の度合いに左右され客観的なデータを得ることが難しく、多数の個体の調査には多大な労力と時間が必要です。ドローンを用いることで、水田に入らず上空からの撮影によって生育量を短時間で調べられ、画像から一律の基準で生育量を数値化できることから、これを用いることで生育量に着目した品種改良を大幅に効率化できると考えられます。一方で、生育量は施肥量や気温など環境の影響を受けやすく栽培場所や年によって異なるため、仮に正確な値を得られたとしても、その差は必ずしも遺伝的な能力を反映したものではありません。したがって、品種改良を効率化するためには、生育量の違いを正確に把握したうえで、これに関係する遺伝子を見つける必要があります。 最近の水稲品種の改良では、「コシヒカリ」などの日本型品種とインド型品種とを掛け合わせ、インド型品種の持つ有用な遺伝子を日本型稲に取り入れることも多くなっています。農研機構では、各々4種類の日本型品種とインド型品種、合計8品種をそれぞれ交配して集団を作出し、改良に役立つ遺伝子を効率的に探索する方法を確立しています。ドローンの空撮画像を用いてこの集団を構成する多数の個体の生育量を調査することで、生育量に関わる遺伝子を探索しました。

研究の内容・意義

  • 水田に一切入らず短時間で水稲の生育量を調査可能
    ドローンを10~25mの異なる高度で運航し、搭載したデジタルカラーカメラで初期生育期の水稲を撮影した画像を比較したところ、高度10mにおいて植物部分を最も明瞭に認識でき、生育量の調査に適していることがわかりました(図1)。高度10mで約10分間の撮影によって得られる約200枚の画像から、位置情報を用いて10aの水田全体を一枚の画像としてつなぎ合わせました。つぎに、その画像の中から水稲の種類ごとに画像を分け、各々の生育量を数値化しました。一律の基準で画像からの数値化を行うため、客観性の高いデータを得ることができます。これを水田の中を歩きながら目視で調査する場合、10aの水田で栽培する400種類の稲の調査する場合3時間以上かかりますが、ドローンを用いるとその作業時間を約20分の1に削減できます。また、目視の場合、植物を見る角度や高さは調査ごとに異なり、経験の度合いも計測値に影響する可能性があります。本技術を用いることで、水田に入ることなく、水稲の生育量を短時間で正確に調査することができます(図2)。
  • 生育量に関わる4カ所の遺伝子位置を特定
    作出した集団(植物体の大きさなどの特性が異なる各々4種類の日本型品種とインド型品種、合計8品種それぞれの交配に由来する集団)の約3,000個体について、生育量の調査を行い、DNA分析データと組み合わせ、生育量との関連のある遺伝子を特定しました。その結果、生育量に関わる遺伝子は第1、第4、第7および第9染色体上に1カ所ずつ、合計4カ所にあることがわかりました。第1、第4、および第9染色体ではインド型品種のもつ遺伝子が、第7染色体上では日本型品種のもつ遺伝子が生育量を増加させていました(図3)。更に、生育量と他の特性との関係を調べたところ、生育量を高める遺伝子を持つ稲ではバイオマスが増え、一部の遺伝子では子実収量を増加させることがわかりました。

今後の予定・期待

本研究では、ドローン空撮画像を用いて水稲の生育量を効率的に調査する方法を確立しました。これを活用して4カ所に見いだされた生育量に関わる遺伝子について、DNAマーカーを用いた選抜を行うことで、今後、生産性の高い水稲品種の育成が加速されると期待されます(図4)。また、本技術は栽培管理にも利用でき、デジタルカラーカメラだけでなく、NDVI3)葉温4)を計測できるセンサーなども活用することで、作物生育量の多面的な調査が可能となります。これにより、作物の生産性をさらに高める技術の開発につながることが期待されます。

用語の解説

生育量
植物を上方から観察した時に、画像の単位面積当たりで植物が占める割合。数字が大きければ植物は旺盛な生育をしたことを示します。[ポイントへ戻る]
バイオマス
地上部(茎葉)の乾物重を示します。[概要へ戻る]
NDVI
植生指数のことで、植物の生育量や葉色などを意味します。[今後の予定・期待へ戻る]
葉温
葉の表面の温度。植物が光合成を行う際には、二酸化炭素を取り込むために気孔が開くことで水が蒸散し、その気化熱で葉の表面温度が下がることから、葉温は光合成量を推定する指標の一つとされます。[今後の予定・期待へ戻る]

発表論文

Daisuke Ogawa, Toshihiro Sakamoto, Hiroshi Tsunematsu, Noriko Kanno, Yasunori Nonoue, Jun-ichi Yonemaru. Haplotype analysis of data from UAV imagery of rice MAGIC population for the trait dissection of biomass and plant architecture. Journal of Experimental Botany
URL: https://academic.oup.com/jxb/advance-article/doi/10.1093/jxb/eraa605/6052356

参考図

図1 ドローンの撮影高度による植物部分認識の鮮明度の違い
ドローンを高度10、15、20、あるいは25mで運航しデジタルカラーカメラで撮影した画像から、画像解析によって植物部分を抜き出した際の植物の輪郭の明瞭さを比較しました。
図2 空撮画像を用いた水稲の生育量の計測
ドローンによる高度10mでの空撮を経時的に行い、水稲の生育量の推移を示しました。上側がドローン空撮画像、下側が画像解析によって生育量の算出のために植物部分を認識し、赤色で表示した画像。生育量は、単位面積当たりの植物の部分が占める割合で算出しました。
図3 生育量に関わる遺伝子の位置
遺伝子を探索するための集団の生育量を調査し、DNA分析によって見出した生育量に関わる4カ所の遺伝子の位置。水稲の12本の染色体のうち、第1、4、9染色体ではインド型品種がもつ遺伝子(橙色)が生育量を増加させ、第7染色体では日本型品種がもつ遺伝子(青色)が生育量を増加させます。第7染色体の遺伝子は子実収量を増加させる効果を持ちます。
図4 生育量を高める遺伝子を組み合わせた生産性の高い水稲品種の育成
「コシヒカリ」などの日本型品種の品種改良を行う場合、まず、日本型品種とインド型品種とを掛け合わせ、インド型品種が持つ第1、4、9染色体上の生育量を高める遺伝子を個別に有する水稲(A、B、およびD)を作出し、各々の遺伝子が期待される効果を示すことを確認します。日本型品種は第7染色体上に生育量、並びに子実収量を高める遺伝子を持ちます(水稲C)。つぎに、水稲A~Dを交配し、4カ所の全てにおいて優れた特性を持つ日本型品種の水稲Eを作出します。水稲Eは、4カ所の遺伝子の効果によって生産性がさらに向上し、増収が期待されます。