プレスリリース
ウンシュウミカンの親がキシュウミカンとクネンボであることをDNA鑑定で推定しました

情報公開日:2016年12月 7日 (水曜日)

ポイント

  • これまで明らかになっていなかったウンシュウミカンの親品種をDNA鑑定によりキシュウミカン1)とクネンボ2)と推定しました。
  • 本成果を元に、ウンシュウミカンの優れた形質について遺伝子レベルでの解明が進み、新規DNAマーカー3)の開発などを通じてカンキツの品種改良の効率化に貢献できると期待されます。

概要

  1. ウンシュウミカンはわが国におけるカンキツ出荷量の約7割(平成25年)を占める最重要品種です。しかし、在来品種であり、その親はこれまで明らかになっていませんでした。農研機構では、これまでに開発したカンキツのDNAマーカー206種類を用いて、67のカンキツ品種・系統についてウンシュウミカンとの親子鑑定を実施しました。
  2. その結果、ウンシュウミカンの親品種がキシュウミカンとクネンボであると推定されました。さらに別のDNAマーカーを用いて鑑定を行うことにより、種子親がキシュウミカン、花粉親がクネンボであると推定されました。
  3. 成果を元に、ウンシュウミカンと親品種のゲノム情報を調べることで、機能性関与成分であるβ‐クリプトキサンチンを多く含むなどの、ウンシュウミカンの優れた形質について遺伝子レベルでの解明が大きく進み、新規DNAマーカーの開発などを通じてカンキツの品種改良の効率化に貢献できると期待されます。

予算

農林水産省ゲノム情報を利用した農畜産物の次世代生産基盤技術の開発プロジェクト(HOR2003)、日本学術振興会科学研究費基盤C、農研機構交付金、農業生物資源研究所ゲノム支援

背景と経緯

ウンシュウミカンは明治時代に入ってから栽培が本格化し、わが国のカンキツ出荷量の約7割(平成25年)を占める最重要品種です。日本原産と推定されていますが、その由来については諸説があり、不明でした。

ウンシュウミカンは機能性関与成分であるβ-クリプトキサンチンを多く含んでいます。農研機構では、β-クリプトキサンチン高含有に関連する遺伝子の由来について研究を進める過程で、これまで品種改良や品種識別用に開発してきた多数のDNAマーカーを利用し、わが国の主要な在来品種を含む67品種・系統のカンキツについて、ウンシュウミカンとの親子鑑定を行いました。

内容・意義

  1. SNPマーカー4)による親子関係の解析
    206種類のSNPマーカー(DNAマーカーの一種)を用いて、67品種・系統のカンキツについてウンシュウミカンとの親子関係を鑑定しました。その結果、日本の明治中期以前の主要カンキツであったキシュウミカンと、キシュウミカンとともに江戸時代までの主要カンキツであったクネンボが、ウンシュウミカンの両親であると推定されました。
  2. CAPSマーカー5)による種子親・花粉親の解析
    キシュウミカンとクネンボについて、種子親(母親)か花粉親(父親)かを鑑定できるCAPSマーカー(DNAマーカーの一種)を用いて鑑定を行いました。その結果、キシュウミカンが種子親(母親)、クネンボが花粉親(父親)と推定されました(写真1)。

今後の予定・期待

ウンシュウミカンは、おいしくて果皮がむきやすく、種子も少なく、食べやすいだけでなく、β-クリプトキサンチンを多く含むカンキツです。また、わが国の気候に適し、高収量で病害虫に強く、栽培のしやすさにも優れています。そのため、ウンシュウミカンのように、おいしくて食べやすく、栽培しやすく、機能性関与成分を多く含む新しいカンキツ品種に対するニーズが高まっています。

今回の成果により、ウンシュウミカンの優れた形質がキシュウミカンやクネンボに由来することが明らかになりました。今後、これら3品種の形質とゲノム情報を調べることで、ウンシュウミカンの優れた形質に関わる遺伝子の解明が進みます。

例えば、β-クリプトキサンチンの生合成には複数の遺伝子が関わっていて、それぞれ種子親と花粉親のどちらから受け継ぐかで含量が変わってくることが知られています。したがって、ウンシュウミカンも含めた、キシュウミカンとクネンボを交配させた後代の個体の遺伝子を調べることで、どういった遺伝子の組み合わせがβ-クリプトキサンチンの高含有化につながるかを明らかにすることができます。さらに、β-クリプトキサンチンの含量が高い個体の遺伝子と低い個体の遺伝子配列の違いは、DNAマーカーとして利用することができます。β-クリプトキサンチン高含有化のDNAマーカーが開発されれば、β-クリプトキサンチンを多く含む新しい品種を効率的に開発できるようになります。

本成果の発表論文

論題

Parental diagnosis of satsuma mandarin (Citrus unshiu Marc.) revealed by nuclear and cytoplasmic markers(核および細胞質マーカーによるウンシュウミカン(Citrus unshiu Marc.)の親子鑑定)

掲載誌

Breeding Science (2016) doi:10.1270/jsbbs.16060

著者

藤井浩、太田智、野中圭介、片寄裕一、松本敏美、遠藤朋子、吉岡照高、大村三男、島田武彦

用語の解説

1)キシュウミカン:
中国から伝わったとされるカンキツで小みかんとも呼ばれています。明治中期以前はわが国の主要なカンキツでした。

2)クネンボ:
インドシナ原産で沖縄を経て九州に伝わったとされています。キシュウミカンとともに、江戸時代までは、わが国の主要なカンキツでした。

3)DNAマーカー:
品種間などで、ゲノムDNAの塩基配列が異なることを利用して作成する目印です。

4)SNPマーカー:
ゲノムDNAにおける同一箇所の塩基配列が、品種間などで1つだけ異なること(一塩基多型、SNP: Single Nucleotide Polymorphism)を利用して作成するDNAマーカーです。

5)CAPSマーカー:
ゲノムDNA上の特定の領域を増幅後、特定の塩基配列を特異的に切断する酵素により切断したときのDNAの長さの違い(配列断片長多型、CAPS: Cleaved Amplified Polymorphic Sequence)を利用して作成するDNAマーカーです。ここでは、種子親だけから子に伝わるCAPSマーカーを用いて、種子親(母親)か花粉親(父親)かを鑑定しました。

参考図

写真1
写真1 ウンシュウミカン、キシュウミカン、クネンボの果実と特徴