プレスリリース
(研究成果) 抹茶や粉末茶に適した緑茶用品種「せいめい」

- 「さえみどり」よりも栽培適地が広く、関東以南で栽培可能 -

情報公開日:2017年5月23日 (火曜日)

ポイント

  • 抹茶・粉末茶1)用の栽培(被覆栽培2))における収量、色合い、滋味(うま味など)に優れ、やや早生の緑茶用品種「せいめい」を育成しました。
  • 高品質な緑茶用品種「さえみどり」よりも栽培適地が広く、関東以南で栽培できます。
  • 高品質な抹茶や粉末茶、かぶせ茶3)、煎茶の提供による日本産緑茶のブランド力強化と需要拡大に貢献します。

概要

写真0_せいめいのみ
  1. 高品質な抹茶や粉末茶の原料には、収穫前に2週間以上茶樹を覆う「被覆栽培」を行った新芽が用いられます。
  2. 農研機構は、被覆栽培における収量と製茶品質4)に優れた緑茶用品種「せいめい」を育成しました。緑茶用の主要品種である「やぶきた」や「さえみどり」よりも被覆栽培における収量が高く、色合いと旨味に優れた抹茶や粉末茶、かぶせ茶を製造できます。
  3. 「さえみどり」よりも耐寒性5)に優れるため栽培適地が広く、関東以南で栽培できます。
  4. 需要が急増している抹茶や粉末茶用の高品質な原料を提供することで、日本産緑茶のブランド力強化と需要拡大に貢献します。

関連情報

予算:農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「実需者の求める、色・香味・機能性成分に優れた茶品種とその栽培・加工技術の開発」(農食事業26099C)

品種育成の背景と経緯

この10年で抹茶や粉末茶の生産は、約1.4倍に急増しており、需要が高まっています。これらの原料は収穫前2週間以上被覆栽培を行った新芽を用いて生産されます。
日本の茶園の約75%で栽培されている主要品種「やぶきた」は、高樹齢の茶園が増加しており、そのような茶園で被覆栽培を行うと、収量減や茶樹の衰弱、製茶品質の低下などの問題が生じます。一方、被覆栽培における製茶品質が優れた品種として「さえみどり」が育成されていますが、早生で耐寒性に劣ることから、栽培適地が温暖地から暖地の凍霜害を受けにくい地域に限定されるため、「やぶきた」のような栽培適地が広い抹茶や粉末茶用の品種が求められていました。
そこで農研機構は、被覆栽培において収量が多く、製茶品質に優れ、かつ栽培適地の広い緑茶品種の育成に取組ました。

新品種「せいめい」の特徴

来歴

生育旺盛で耐寒性が強く、収量が多い「ふうしゅん」を種子親、早生で高品質な「さえみどり」を花粉親として、交配後代の中から選抜し、育成しました。

特長

  1. 被覆栽培への適性
    被覆栽培において、「せいめい」の収量、および煎茶として製茶した際の品質は「やぶきた」や「さえみどり」よりも優れます(図1)。旨味が強く、渋みが少ないのが特徴です。また、抹茶や粉末茶に加工した場合、「やぶきた」よりも鮮やかな緑色となります(写真1)。
  2. 耐寒性と栽培適地
    「せいめい」の耐寒性は「さえみどり」よりも優れており(表1)、関東以南での栽培に適しています。ただし、埼玉県などの寒冷地では幼木期の防寒対策が必要となります。

その他の栽培特性

  1. 樹姿はやや直立型、生育はやや旺盛で、育成地(鹿児島県枕崎市)では「やぶきた」と比べて一番茶萌芽期が5日、摘採日6)が4日早い、やや早生の品種です(表1)。ただし、寒冷地での摘採日は「やぶきた」と同等か1日程度遅くなります。一番茶新芽は鮮緑で、芽揃いに優れます(写真2)。
  2. 露地栽培における生葉収量と製茶品質は全ての茶期を通じて「やぶきた」や「さえみどり」よりも優れます(表1)。
  3. 主な病害に対する抵抗性は、炭疽病が「中」、輪斑病が「強」、赤焼病が「中」、もち病が「やや強」であり、「やぶきた」よりも優れています(表1)。一方、害虫の発生程度は他の緑茶品種と同等です。

品種の名前の由来

新芽の緑色が美しく、製茶品質が優れることから、「清らかなお茶」の意味で清らかの「清(せい)」とお茶を表す「茗(めい)」を組み合わせて、「せいめい」と命名しました。

「せいめい」の普及と期待される効果

  1. 「せいめい」の普及促進について
    「せいめい」の普及を促進するため、抹茶や粉末茶の原料茶、さらにかぶせ茶や煎茶の栽培法や加工法について、生産者や実需者と意見交換しながら研究を進め、平成29年度中にはマニュアルとして取りまとめる予定です。
  2. 「せいめい」導入のメリット
    平成28年のお茶の栽培面積は約4万ha、生産量は約8万トンですが、海外輸出は4千トン強で約115億円であり、金額ベースで5年前の約2.5倍に急増しています。「せいめい」は品種登録の10年後に500haの普及を目指します。「せいめい」の普及拡大により、海外産より格段に品質の優れた、国内産原料を用いた抹茶・粉末茶の増産が可能になります。その結果、日本茶のブランド力強化と輸出等による需要拡大に貢献できます。

種苗の配布と取り扱い

平成28年6月30日に品種登録出願(品種登録出願番号:第31289号)を行い、平成29年1月30日に品種登録出願公表されました。今後、利用許諾契約を締結した種苗業者を通じて苗木を販売する予定です。

利用許諾契約に関するお問い合わせ先

農研機構本部 連携広報部 知的財産課 種苗チーム
研究・品種についてのお問い合わせ(メールフォーム)

原種苗等の入手に関するお問い合わせ先

農研機構果樹茶業研究部門 茶業研究領域 茶育種ユニット
研究・品種についてのお問い合わせ(メールフォーム)

用語の解説

1)抹茶・粉末茶
抹茶は、20日間程度被覆栽培して収穫した新芽をてん茶炉であぶって乾燥させ(てん茶)、それを石臼で粉末にしたもの。粉末茶は、被覆栽培あるいは露地栽培で収穫した茶葉から一般的な煎茶加工の工程を一部改変して製造した原料茶を用い、石臼を含む様々な方法で粉末化したもの。

2)被覆栽培
新芽の収穫前に2週間以上、被覆資材(黒色寒冷紗、藁など、遮光率70%~95%)を用いて茶樹を覆い、遮光して栽培する方法。被覆栽培により、茶葉の色を濃く鮮やかな緑とし、うま味を強く、渋みを少なくすることが可能。かぶせ茶やてん茶の栽培で利用。

3)かぶせ茶
被覆栽培により収穫した新芽を煎茶の製茶法で加工した緑茶で、うま味が強く、渋味が少ない。

4)製茶品質
製茶品質は、審査盆の上で形状(大きさ、よれ、均一性など)と色沢(色、鮮やかさなど)の外観を審査し、茶葉3gを熱湯200mlで浸出した時の香気(香り)、水色(浸出液の色)、滋味(浸出液を口に含んだ時に感じるうま味、渋み、苦みなど)の内質を審査し、外観と内質の合計点で評価される。

5)耐寒性
冬季間の寒さに対する遺伝的耐性。赤枯(寒さで茶葉や越冬芽が枯死すること)や裂傷型凍害(凍結により、幼木の幹の表皮が割れ、枯死、生育障害を生じること)の発生程度で評価される。

6)摘採日(摘採期)
茶の新芽の摘みごろの時期。なお、「摘採」は茶業界で一般的に使われる用語で、「収穫」と同義。

関連情報

吉田ら(2015)野菜茶業研究所研究成果情報.

参考図

図1
図1 被覆栽培を行ったときの収量(左)とかぶせ茶(一番茶)の製茶品質(右)
2014年、農研機構果樹茶業研究部門(鹿児島県枕崎市)の同一圃場で栽培(10年生)。 被覆期間は一番茶15日間、二番茶7日間で、85%遮光資材を使用。製茶品質は各項目10点満点で評価。
*製茶品質の滋味の点数は「せいめい」が高く、比較品種よりうま味が優れる点が評価された。

写真1
写真1 一番茶を被覆栽培して製茶した「やぶきた」と「せいめい」の粉末茶

表1 「せいめい」の露地栽培における栽培特性と製茶品質
表1

写真2
写真2 「せいめい」の一番茶期の様子
(3年生の幼木、定規の長さは1m)

お問い合わせ

研究推進責任者
農研機構果樹茶業研究部門長樫村 芳記

研究担当者
農研機構果樹茶業研究部門 茶業研究領域吉田 克志

広報担当者
農研機構果樹茶業研究部門 広報プランナー和田 雅人
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