プレスリリース
(研究成果) 西南暖地に向く早生モモ新品種「さくひめ」

- 冬の気温が高くても栽培可能で品質優良な品種 -

情報公開日:2017年6月28日 (水曜日)

ポイント

  • 温暖化により冬の気温が高くても安定した開花と果実生産が見込める、早生のモモ品種「さくひめ」を育成しました。
  • 早生の主要品種である「日川白鳳1)に比べて5日ほど早く収穫でき、果実品質は同等です。

概要

「さくひめ」

  1. 日本の主要なモモ品種が春に正常に開花するためには、冬に一定時間以上、低温にさらされる必要がありますが、今後温暖化が進行すると、冬の低温が不十分となり、モモの生産が不安定になる産地があると見込まれています。このような地域でモモ生産を継続するために、低温にさらされる時間が短くても正常に開花する品種が求められています。
  2. 農研機構は、開花に必要な低温にさらされる時間(低温要求時間2))が日本の主要品種の約半分に短縮されたモモ新品種「さくひめ」を育成しました。温暖化により冬の気温が高くても、安定した開花と結実が見込めることから、モモの安定生産に貢献します。
  3. 果実の大きさや糖度は、早生の主要品種である「日川白鳳」と同等で、「日川白鳳」よりも5日ほど早く成熟します。
  4. 全国で栽培可能で、早生品種の栽培割合の高い西日本の産地を中心に普及が期待されます。
  5. 苗木は平成29年秋より販売される見込みです。

予算:運営費交付金
品種登録出願番号:第31234号

新品種育成の背景・経緯

落葉果樹が春に正常に開花するためには、冬にある程度の低温に一定時間以上さらされる必要があります。日本のモモ主要品種では7.2℃以下の低温が必要で、必要な時間(低温要求時間)は1,000~1,200時間程度です(表1)。今後、温暖化が進行し、冬の気温が高くなると、休眠から覚醒するために必要な低温要求時間が不足し、モモの露地栽培が困難となる地域が増加するおそれがあります。
一方、海外には亜熱帯地域でも栽培できる、低温要求時間が短いモモ品種が存在していますが、日本の主要なモモ品種に比べると果実品質が大きく劣ります。
そこで農研機構では、海外の低温要求時間が短いモモ品種を交雑親として利用し、日本の主要品種よりも低温要求時間が短く、かつ果実品質に優れた早生のモモ品種を育成しました。

新品種「さくひめ」の特徴

来歴

ブラジルから導入した低温要求時間の短い品種「Coral」と、日本の果実品質に優れた早生品種「ちよひめ」などとの交雑により「さくひめ」を育成しました(写真1)。

特長

  1. 低温要求時間は茨城県つくば市では555時間で、日本の主要品種の約半分です(表1)。温暖化により冬の気温が上昇しても、安定した開花が見込めます。
  2. 果実は重さが250g程度で、「日川白鳳」と同程度です(表2写真2)。
  3. 果肉色は白色です。糖度は12~13%前後で「日川白鳳」と同程度となり、酸味はpH4.6程度と少なく、食味良好です(表2)。

その他の栽培特性および栽培上の注意点>

  1. 樹勢は強く、花芽は多く着生します。花粉を有するため受粉樹は不要で、結実良好です。低温要求時間が短いため開花盛期は育成地(茨城県つくば市)では3月下旬と早く、早生の主要品種である「日川白鳳」よりも9日程度早くなります。また、収穫盛期も「日川白鳳」より5日程度早く、6月下旬となります(表3)。
  2. 「日川白鳳」に比べて果皮の地色3)に緑色が残りやすく、赤く着色する部分は同等かやや少なくなる傾向があります。果点4)裂果5)が「日川白鳳」よりも多く発生する年があります(表2)。
  3. 生理落果や核割れ6)の発生は少なく、問題とはなりません。
  4. 灰星病7)せん孔細菌病8)などには既存の品種と同様に罹病性のため、同等の防除が必要となります。
  5. 開花期が早いため、開花期に晩霜害を受けるリスクが他の品種よりも高い可能性があります。

今後の予定・期待

温暖化により冬の気温が上昇しても、安定した開花と結実が見込めることから、モモの将来にわたる安定生産に貢献すると期待されます。特に早生品種の栽培割合の高い西日本の産地を中心に普及を見込んでいます。

品種の名前の由来

「さくひめ」の名は、他の品種よりも早く花が咲くことに由来します。

苗木の販売予定時期

平成29年2月9日に品種登録出願公表されました。苗木は平成29年秋季より販売される見込みです。

利用許諾契約に関するお問い合わせ先

農研機構本部 連携広報部 知的財産課 種苗チーム
研究・品種についてのお問い合わせ(メールフォーム)

用語の解説

1)日川白鳳
現在、我が国におけるモモの栽培面積の約10%を占める早生の主要品種です。満開後85日前後で収穫されます。

2)低温要求時間
正常な開花のために必要となる、7.2℃以下の低温にさらされる時間。

3)果皮の地色
果皮の着色していない部分の色。一般的には未熟時には緑色で成熟が進むと緑色が抜け白色(黄肉品種は黄色)に変化します。

4)果点
成熟期に果皮の表面に発生する黄色い小さな点。発生が多いと裂果にいたることがあるため、発生の多い品種では果実袋をかけることが勧められています。

5)裂果
果皮に発生するひび割れ。発生すると商品価値が損なわれます。発生の程度には品種間で差があり、多い品種では果実袋をかける必要があります。

6)核割れ
果実の中心にある核が、果実の生育途中で硬化する前に割れる生理現象。生理落果の原因となります。一般的に早生品種で発生が多く見られます。

7)灰星病
モモの主要病害の一つ。主要品種を含め全てのモモが罹病性である。

8)せん孔細菌病
現在モモの最重要病害。主要品種を含め全てのモモが罹病性である。

参考図

表1

写真1 写真2

表2

表3