プレスリリース
(研究成果) 温暖化により増加しているナシ発芽不良の主要因が、「凍害」であることを解明

- 秋冬季の気温上昇に起因、肥料や堆肥の散布時期の変更で発生軽減可能 -

情報公開日:2017年9月19日 (火曜日)

ポイント

  • 近年、九州各県で増加しているニホンナシ花芽1)の枯死による発芽不良の主要因が、凍害であることを明らかにしました。温暖化によって秋冬季(しゅうとうき)の気温が高いと、花芽の耐凍性2)が十分高まらないために、冬の寒さにより凍害を受けることが分かりました。
  • 秋冬季の肥料や堆肥の散布は、耐凍性の上昇を妨げることを明らかにしました。
  • 肥料や堆肥の散布時期を慣行の秋冬季から翌春に変更することで、花芽の枯死率を大幅に減らせることが分かりました。

概要

  1. 近年九州各県では、ニホンナシ「幸水」等の露地栽培において花芽の枯死による発芽不良が発生しています。発生率が高い場合には生産量に影響するため、大きな問題となっています。
  2. 農研機構と鹿児島県農業開発総合センターでは、発芽不良の主要因が、「凍害」であることを明らかにしました。秋冬季(10月~2月)の気温上昇により花芽の耐凍性が十分高まらないために、冬の寒さにより凍害を受け、花芽が枯死していることが分かりました。
  3. また、秋冬季に肥料や堆肥を散布することにより、耐凍性の上昇が妨げられることを明らかにしました。
  4. 発芽不良が発生している圃場での実証試験の結果から、肥料や堆肥の散布時期を慣行の秋冬季から翌春に変更することで、発芽不良の発生が大幅に少なくなることが明らかとなりました。

関連情報

予算:農林水産省委託プロジェクト「気候変動に対応した循環型食料生産の確立のための技術開発」(平成22年~26年)、「温暖化適応・異常気象対応のための研究開発」(平成27年~)、運営費交付金により実施したものです。

背景と経緯

近年九州各県では、温暖化の影響で暖冬年を中心にニホンナシ「幸水」等の露地栽培において花芽の枯死による発芽不良(写真12)が発生しています。ニホンナシ等の落葉果樹は、秋から冬にかけて気温が低下するにつれて花芽の耐凍性が高まり、厳冬期に最大となることが知られています。発芽不良は暖冬の翌春に発生が多いことから、秋冬季の気温上昇により耐凍性が十分に高まらないことが要因のひとつと考えられていましたが、詳細は明らかではありませんでした。
そこで農研機構と鹿児島県農業開発総合センターでは、発芽不良の発生要因の解明と対策技術の開発に取り組んできました。

内容・意義

  1. 発芽不良の発生が多い鹿児島県と発生がみられない茨城県において花芽の耐凍性の変化を調査した結果、鹿児島県では花芽の耐凍性が十分に高まらず、耐凍性の指標となるニホンナシの花芽が凍害を受ける危険限界温度(凍害発生危険温度3))は、耐凍性が最大となる厳冬期(1~2月)でも-6°C前後と比較的高く、この時期の最低気温と同等であったことから、花芽が凍害を受け枯死していることが分かりました(図1)。一方、茨城県では厳冬期の花芽の凍害発生危険温度は-16°C前後と低く同時期の最低気温-9°Cに対して十分な耐凍性があることが分かりました(図1)。
  2. これまでに、秋季の施肥を中止することにより発芽不良の発生が軽減することが分かっていることから、秋冬季における花芽の窒素含量と耐凍性の関係を調査した結果、花芽の耐凍性は窒素含量が高いほど低いことが分かりました。
  3. 発芽不良が発生している圃場で実証試験を行った結果、肥料や堆肥の散布時期を慣行の秋冬季から翌春に変更すると、花芽の耐凍性は、秋や冬に散布した樹の花芽に比べて高く(図2)、花芽の枯死による発芽不良の発生が大幅に少なくなることが明らかとなりました(図3)。
  4. この結果から、ニホンナシの耐凍性を高めるためには肥料や堆肥の散布時期を慣行の秋冬季から翌春に変更することが有効です。
  5. なお、5年間継続して肥料や堆肥の散布時期を春に変更しても、樹の生育および果実品質に違いは生じないことを確認しています。

今後の予定・期待

  1. 地球温暖化がさらに進行すれば、九州地方にとどまらず、全国のナシ産地において秋冬季に花芽の耐凍性が十分に高まらず発芽不良が発生する可能性があります。
  2. 肥料や堆肥の散布時期の翌春への変更は、発芽不良が深刻な九州地方のニホンナシ産地ですぐに取り組むことができる対策技術であり、今回その留意点をまとめたマニュアルを作成しました。

用語の解説

1)花芽
将来花になる器官を含み、発芽すると花を生じる芽のこと。これに対し、発芽しても花を生じない芽を葉芽と呼ぶ。

2)耐凍性
0°C以下の凍結温度に対する耐性。秋季から冬季にかけて気温が低下するに伴って徐々に高まることが知られている。

3)凍害発生危険温度
50%の花芽が凍害を受けて枯死する温度。耐凍性を示す指標として用いられる。凍害発生危険温度が低いほど、耐凍性は高い。本研究では、人為的に花芽を一定の時間低温(0°Cで3時間、処理温度(-5、-8、-12、-16、-20°C)に16時間)に曝し、0°Cに3時間、5°Cで5時間処理後、20°Cで2週間水挿しし、50%の花芽が枯死した温度。

関連情報

Daisuke Sakamoto, Kazuhiro Fujikawa, Takami Sakaue, Hiromichi Inoue, Akiko Ito, Takaya Moriguchi, Akihiro Higashi, Toshihiko Sugiura (2017) Application of livestock waste compost as a source of nitrogen supplementation during the fall-winter season causes dead flower buds in Japanese pear 'Kosui'. The Horticulture Journal, 86(1), 19-25, doi:10.2503/hortj.MI-134

本内容をまとめたマニュアル
「施肥時期の変更を中心としたニホンナシ発芽不良対策マニュアル」

参考図

写真1
写真1 発芽不良の発生状況
手前側:発生樹、奥側:正常樹

写真2
写真2 花芽の枯死による発芽不良の様子
左側:枯死芽、右側:健全芽

図1

図2-3

お問い合わせなど

研究推進責任者
農研機構果樹茶業研究部門 研究部門長 樫村 芳記

研究担当者
農研機構果樹茶業研究部門 生産・流通研究領域 栽培生理ユニット 主任研究員 阪本 大輔
鹿児島県農業開発総合センター果樹部 坂上 陽美

広報担当者
農研機構果樹茶業研究部門 企画管理部 企画連携室 広報プランナー 和田 雅人
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