新品種育成の背景・経緯
地球温暖化に伴う気温上昇はリンゴ栽培にも深刻な悪影響を及ぼしており、「つがる」等早生の赤色品種における着色不良が大きな問題になっています。温暖化の進行に伴い、中生品種であっても、気温がかなり高い状態のまま収穫時期を迎えることが増えており、赤色品種においては、着色不良が発生しやすくなっていることから、その対策を講じることが求められています。また、わが国におけるリンゴ中生品種の生産動向を見ると、酸味のやや多い「ジョナゴールド」が減少する一方、最近の消費者の嗜好に合った、甘い食味の「シナノスイート」などの生産が増加しています。国産リンゴの生産や消費の減少に歯止めをかけ、拡大させるためには、このような消費者の嗜好に合ったリンゴ品種の出荷期間を拡大することが必要です。
そこで、農研機構では、高温条件下でも濃赤色に着色しやすいことに加え、甘味が多く歯ざわりの良い、「シナノスイート」とは収穫期の異なるリンゴ中生品種を育成しました。
新品種「錦秋」の特徴
- 1994年に「千秋」に4-4349(「つがる」×「いわかみ」)を交雑して育成しました。
- 育成地(岩手県盛岡市)における果実の成熟期は9月下旬から10月上旬にかけてで、「シナノスイート」よりも2週間程度早く収穫できます(表1)。
- 果実の重さは300g程度で「シナノスイート」よりも60g程度小さくなります。果皮は濃赤色であり、縞状に着色する「シナノスイート」とは異なりほぼ全面均一に着色します。さび1)の発生は少なく、外観が良好です(表2、写真1、写真2)。
- 糖度は15%前後で中生品種としては高く、酸度は0.3~0.4g/100mlで、「シナノスイート」よりも高いことから、甘味と酸味のバランスが良く、食味が濃厚です。肉質が緻密なことから、食感が滑らかで歯ざわりが良好です。室温での日持ちは10~14日程度で、「シナノスイート」とほぼ同程度です(表2)。
その他の栽培特性および栽培上の注意点
- 栽培適地は北海道から北陸・東海地方にかけてのリンゴ産地です。
- 樹勢は中程度で、開花期は「シナノスイート」より3日程度遅くなります(表1)。「つがる」とは交雑不和合性2)ですが、「ふじ」や「ジョナゴールド」など他の主要品種とは交雑和合性です。
- 収穫前落果(後期落果)の程度は無~少で問題にはなりません(表1)。裂果の発生率は3%程度と低く、心かび果3)の発生率も3%程度で(表1)、「シナノスイート」よりも低く、問題にはなりません。
- 斑点落葉病4)には抵抗性ですが、黒星病5)には罹病性のため、主要品種と同等の防除が必要となります。
品種の名前の由来
秋の収穫期に濃赤色に熟した果実の様子を、錦のように色鮮やかな紅葉にたとえています。また、「秋」は母親品種である「千秋」にちなんでいます。
今後の予定・期待
「錦秋」は、温暖な産地でも着色しやすく、品質良好な果実が得られることに加え、北海道など寒冷な産地でも果実肥大に問題はなく、糖度も十分に高くなることから、広範なリンゴ産地において、着色と食味に優れる高品質な中生品種として普及が見込まれます。
苗木入手先に関するお問い合わせ先
農研機構果樹茶業研究部門 企画管理部 企画連携室
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利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構本部 連携広報部 知的財産課 種苗チーム
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用語の解説
1) さび
リンゴ果実の果皮が鉄さび状のざらついた状態になることをさびと呼びます。通常、果皮はワックス物質を含むクチクラ層で保護されていますが、この層に微細な亀裂が生じると、その修復のために褐色のコルク状物質が生成されます。このコルク状物質が外観上目立つ状態がさびとなります。
2) 交雑不和合性
ある品種に異なる品種の花粉を受粉したときに、受精し、種子が形成される性質を交雑和合性と呼びます。通常、リンゴは同じ品種間で受粉すると結実しません。また、異なる品種間であっても、交雑和合性を決める遺伝子のタイプが両品種間でまったく同じ場合は結実しません。交雑和合性を決める遺伝子のタイプが品種間で異なる場合のみ、結実して種子が形成されます。そこで、リンゴ栽培では、結実を確保するために、交雑和合性のある異品種を近くに植える必要があります。
3) 心かび果
果心部や種子の表面に糸状菌(かび)が繁殖して黒褐色に見える果実を心かび果と呼びます。心かび果の果皮や果肉は健全なため、心かびの発生を外観から判別することは困難です。
4) 斑点落葉病
糸状菌(かび)を病原とするリンゴの重要病害です。主に葉に発生し、多発すると早期落葉を引き起こし、収量や果実品質を低下させます。
5)黒星病
糸状菌(かび)を病原とするリンゴの重要病害です。主に果実や葉に発生し、多発すると裂果や落果を引き起こし、収量や果実品質を低下させます。
参考図
写真1「錦秋」の結実状況
写真2「錦秋」の果実