プレスリリース
(研究成果)抹茶の定義に関する技術報告書がISOより発行

- 日本で発展した抹茶の栽培方法や製造方法、歴史をまとめる -

情報公開日:2022年4月14日 (木曜日)

ポイント

農研機構が中心となって、国際標準化機構(ISO)1)において作成をすすめてきた、抹茶の定義に関する技術報告書2)ISO TR 21380が、4月11日に発行されました。この技術報告書には、日本で独自に発展してきた抹茶の栽培方法や製造方法、その歴史がまとめられており、日本産抹茶の国際市場での評価の向上にもつながると期待されます。

概要

近年、抹茶は日本国内だけでなく海外でも"Matcha"として人気が高まっており、世界的に市場は拡大しています。抹茶は、その鮮やかな緑色や豊かなうま味と香りを生み出すために、遮光栽培3)をした茶の新芽を原料として用いたり、専用の特別な製茶機械を使ったりしますが、これらの技術は日本で発展してきたものです。今日、抹茶は世界中で親しまれるお茶であるものの、他の茶とどのように違うのかということや、技術が形成された歴史については十分に知られておらず、国際市場の中でコンセンサスやルールがないのが現状です。そこで、我が国は農研機構を中心に行政とも連携して国際的に抹茶の定義を定めることを目指し、抹茶の国際標準化活動をすすめてきました。
この度、抹茶の栽培方法や製造方法、その歴史をまとめた技術報告書が、国際標準化機構より出版されました。本報告書は、国際的な茶の市場において、「抹茶とは何か」について正しい情報の発信に役立ちます。本報告書が利用されることにより、日本が伝統とともに育んできた抹茶に関する素晴らしい技術と品質が世界中に周知され、日本産抹茶の国際市場での評価の向上や、抹茶の今後の市場の発展につながると期待されます。
今後、農研機構は、今回出版された技術報告書を元に品質に関わる化学成分などの範囲を規定した国際規格の発行を目指して抹茶の国際標準化活動を推進して参ります。

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構果樹茶業研究部門 所長生駒 吉識
研究担当者 :
同 茶業研究領域 前研究領域長角川 修
同 果樹品種育成研究領域 上級研究員谷口 郁也
広報担当者 :
同 研究推進部 茶業連携調整役山田 龍太郎

詳細情報

技術報告書発行に至った経緯

近年、健康志向の高まりに加え、菓子やアイスクリームなどへの用途が広がったことから、抹茶の人気が国内外で高まっています。また、我が国からの緑茶の輸出はここ10年で約4倍に増加し、2021年は約204億円に達しましたが、その大きな要因の一つは、海外でも抹茶のニーズが高まっていることが考えられます。抹茶は"Matcha"としてその名前は世界中で知られるようになったものの、「抹茶とは何か」という国際的な規格がないため、例えば、"Matcha"と称する製品でもルイボスティーや紅茶を粉末状にした製品が流通しているなど、様々な製造方法や品質のものが含まれているのが現状です。

抹茶(図1)は、日本でその栽培技術や製造技術が開発され、「茶の湯」の文化とともに世界に伝わった日本発の茶の種類と言えます。本来の抹茶の価値を正しく世界中に周知し、国際市場を適正化するため、農研機構を中心として抹茶の国際標準化をすすめてきました。

茶の国際標準化はISO TC34/SC8(ISO 食品専門委員会/茶分科委員会)で行われています。この委員会では、新しい茶の種類に関する規格を開発する場合、まず、その茶についての栽培方法、製造方法、歴史的経緯などをまとめた技術報告書を作成しています。そこで、農研機構が中心となり、ISO TC34/SC8の国内審議団体である農林水産省農産局果樹・茶グループに加え、国内の専門家からなる審議メンバーの協力を得て、2019年にISOに抹茶の国際標準化の作業開始を提案しました。さらに2020年には抹茶の国際標準化を作業する作業部会の設置を提案し、研究担当者がコンビーナーに就任しました。その後、農研機構を中心に作成した技術報告書の原案を抹茶の作業部会に提案し、イギリス、ドイツ、中国のメンバーと内容を検討し、ISO TC34/SC8での2回の投票を経て、本技術報告書は承認され、4月11日に発行されるに至りました。

技術報告書の内容・意義

この度発行された技術報告書は、抹茶の歴史、原料となる碾茶(てんちゃ4)図2)の栽培・加工法、碾茶から抹茶への加工方法や品質の要点等を記載しています。栽培・加工方法については公益社団法人日本茶業中央会が定めた「緑茶の表示基準5)」に基づいています。具体的には、葉の緑色を濃くすることとともに、うま味を増やし抹茶特有の香りを生じさせるために遮光栽培(図3)を行うことや、鮮やかな緑色を保ったまま、豊かな香りを生成するために碾茶機6)(図4)等を用いて碾茶を製造すること、舌触りやのどごしを良くするために石臼等で碾茶を非常に細かい粉末状にすることを述べています。

抹茶という言葉は日本国内ではもちろん、現在では海外でも広く知られており、今や、抹茶は「茶の湯」を嗜む一部の人々のためだけの茶ではなく、世界中で飲まれている茶になっています。しかし、抹茶がただ粉末状の茶というわけではなく、特別な栽培と加工を施して生産されるものであり、その技術が「茶の湯」の文化とともに日本で発展してきた、ということは必ずしも正しく認知されていませんでした。

本技術報告書は、国際的な茶の市場において、「抹茶とは何か」という定義について正しい情報の発信に役立つ文書です。

今後の予定・期待

本技術報告書が利用されるようになると、日本が伝統とともに育んできた抹茶に関する素晴らしい技術と品質が世界中に周知され、抹茶の今後の市場の発展につながることが期待されます。

ISOが発行する技術報告書は情報を周知するための文書であり、記載されている内容はルールとして何かを規定するものではありませんが、ISOの規格文書の一つです。今後は、抹茶の定義を定める国際規格の開発を目指します。その中には、栽培・製造方法の規定に加え、品質に関わる化学成分の含有量についての規定を盛り込む計画で、現在、国内外の抹茶サンプルを収集し化学成分分析を進めています。抹茶の国際規格が発行され、国際的に利用されるようになれば、日本産抹茶の市場拡大にも貢献することが期待されます。

我が国で発展してきた抹茶の国際市場での価値をよりいっそう高めていくためには、抹茶の国際標準化を日本主導で進めていくことが重要です。農研機構は、今後も農林水産省や国内茶業関係機関と連携しつつ、ISOの参加各国との議論を進めて抹茶の国際標準化活動を推進して参ります。

用語の解説

国際標準化機構
英語名称はInternational Organization for Standardization; ISO。各国の代表的標準化機関からなる国際標準化機関で、電気・通信および電子技術分野を除く全産業分野(鉱工業、農業、医薬品など)に関する国際規格の作成を行います。[ポイントへ戻る]
技術報告書
ISOから発行される文書の一つ。国際規格(International Standard)や技術仕様書(Technical Specification)は、要求事項が含まれた規格文書ですが、技術報告書は、例えば調査のデータや参考となる報告書からのデータ、あるいは最先端の情報などをまとめた文書であり、ルールとなるような内容は含まれません。[ポイントへ戻る]
遮光栽培
日光を遮って茶を栽培することにより、新芽の緑色が濃くなり、うま味成分や覆い香と呼ばれる抹茶特有の香りが増します。遮光資材は、伝統的な方法ではよしずやわらなどを用いますが、現在は化学繊維でできた寒冷紗と呼ばれる資材も使われます。[概要へ戻る]
碾茶
抹茶を石臼等で挽く前の原料となる茶葉です。収穫される前に遮光栽培を行った葉を用いて製造されます。収穫後は、蒸した後、碾茶機等でもまずに乾燥されます。[技術報告書の内容・意義へ戻る]
緑茶の表示基準
公益財団法人日本茶業中央会が定めた基準です。茶を取り扱う者が、食品表示法に基づいて適切に表示を行うための自主基準であり、名称として表示する茶種(煎茶、玉露、抹茶等)の定義も実施細目に記載されています。
https://www.nihon-cha.or.jp/pdf/hyoujikijyun.pdf
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碾茶機
蒸した茶新芽を輻射熱と熱風で乾燥させる機械です。一般的には、レンガ積みの乾燥室内にコンベアが3から5段設置されていて、そこを通過しながら乾燥されます。近年では、レンガ積みでない新しいタイプの碾茶機も開発されています[技術報告書の内容・意義へ戻る]

技術報告書

ISO TR 21380: 2022 Matcha tea -Definition and characteristics
https://www.iso.org/standard/80777.html

参考図

図1 抹茶
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図2 碾茶
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図3 遮光栽培
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図4 碾茶機
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