我々が普段食している作物のルーツを明らかにすることは、歴史や文化を理解する上で重要です。ほとんどの作物は縄文時代以降に外国から人為的に導入されたものですが、ニホングリは日本原産で日本で栽培化されました。中国には中国原産のチュウゴクグリ2)がありますが、ニホングリとは果実や枝の色が異なり、形態的にも遺伝的にも全く別の種であることが明らかになっています。ニホングリは稲作が導入される以前の縄文時代においては、食用および木材として人々の生活に密接に関わっていました。縄文時代の青森県の三内丸山遺跡では集落周辺がクリ林となっており、クリの樹が大切に保存されていたことが示唆されています(Kitagawa et al. 2004)。その後、大阪府、京都府、兵庫県にまたがる丹波地方が栽培グリの代表的な産地となり、江戸時代には多くの品種が成立していました。今日私たちが食するクリは果実重が30gにも達する品種です(写真1)。一方、シバグリと呼ばれる野生グリは果実が5g程度と小さく、栽培化される過程で果実の大きなものが選抜されてきたと考えられています。縄文時代の遺跡から発掘されたクリは前期から後期にかけて大型化しているという報告(南木,1994)や、江戸時代の1697年に刊行された本朝食鑑には、「クリは卵のように大きい」と記されていますが、ニホングリの人為的な改良がいつから始まったかについては、遺伝的解析に基づいた科学的な証拠は得られていませんでした。
Nishio, S., Takada, N., Terakami, S., Takeuchi, Y., Kimura, M. K., Isoda, K., Saito, T & Iketani, H. (2021). Genetic structure analysis of cultivated and wild chestnut populations reveals gene flow from cultivars to natural stands. Scientific reports, 11(1), 240.
Nishio, S., Takada, N., Takeuchi, Y., Imai, A., Kimura, M. K., & Iketani, H. (2023). The domestication and breeding history of Castanea crenata Siebold et Zucc. estimated by direction of gene flow and approximate Bayesian computation. Tree Genetics & Genomes, 19(5), 44.