プレスリリース
(研究成果) 手取り除草を大幅に省力化する茶園用除草機を開発

- 有機栽培や除草剤を散布しない茶栽培に貢献 -

情報公開日:2024年8月 6日 (火曜日)

農研機
株式会社寺田製作
静岡県農林技術研究所

ポイント

農研機構は、株式会社寺田製作所、静岡県農林技術研究所と共同で、茶園における除草作業の大幅な省力化に貢献する新しい茶園用除草機(以下、開発機)を共同で開発しました。開発機と手取り除草を組み合わせた体系では、従来の手取りのみの除草作業に比べ、除草時間を50%以上削減できます。本開発機の活用による除草作業の機械化により、茶園作業の大幅な省力化が期待されます。本開発機は2023年12月より(株)寺田製作所から販売されています。

概要

近年、有機栽培や農薬使用量の少ない茶栽培に対する消費者のニーズが高まっています。しかしながら、除草剤を散布しない手取り除草は非常に多くの労力を要し、さらに、手取り除草を行う雇用労働力の確保も困難になってきていることから、産地の維持・発展のために除草作業の機械化が急務となっています。

そこで農研機構は、(株)寺田製作所、静岡県農林技術研究所と共同で、茶園の樹冠1)下や雨落ち部2)及びうね間の除草が可能となる茶園用除草機を開発しました(図1)。

開発機は、①うね間除草機構と②樹冠下・雨落ち部除草機構の2種類の除草機構を持つアタッチメント式の茶園用除草機です。①うね間除草機構は、乗用型茶園管理機から動力を得て油圧モータを用いて除草爪を回転させるタイプです。②樹冠下・雨落ち部除草機構は、樹冠下や雨落ち部に除草刃が入り込み雑草をかきとる構造となっています。樹冠下・雨落ち部を除草する際に茶樹を傷める恐れがあることから、この除草機構は、茶樹に強く当たった場合は、内側に縮むような機能を有しています。この2種類の除草機構は乗用型茶園管理機の走行部の後方に装着する構造で、茶うねの両側を同時に除草します。

本開発機を用いた現地試験の結果、開発機のみで除草できた割合は平均83%でした。開発機による除草時間と開発機で除草しきれなかった雑草を手取り除草した時間を合わせても、慣行の手取り除草に比べて、除草時間を50%以上削減できることを確認しました。本開発機は2023年12月より(株)寺田製作所から販売されています。本開発機の普及により、茶園の除草作業の機械化が促進され、茶園作業の大幅な省力化が期待されます。

図1 開発した茶園用除草機

関連情報

予算 : 農業機械技術クラスター事業「茶園用除草機の開発」(茶園用除草機の開発を実施)、 令和3年度補正予算戦略的スマート農業技術等の開発・改良「スマート農業技術の開発・改良」事業「茶のスマート有機栽培技術体系の開発と現地実証試験」(現地実証試験を実施)

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 果樹茶業研究部門 所長井原 史雄
同 農業機械研究部門 所長長﨑 裕司
株式会社寺田製作所 代表取締役社長寺田 均
静岡県農林技術研究所 本所 所長岩﨑 敏之
同 茶業研究センター センター長小林 栄人
研究担当者 :
農研機構 果樹茶業研究部門 茶業研究領域 上級研究員水上 智道
同 農業機械研究部門 機械化連携推進部 機械化連携調整役臼井 善彦
株式会社寺田製作所 技術部 係長雪丸 誠一
静岡県農林技術研究所 本所 農業ロボット・経営戦略科 科長萩原 一宏
同 茶業研究センター 前 茶環境適応技術科 上席研究員市原 実
広報担当者 :
農研機構 果樹茶業研究部門 茶業連携調整役荻野 暁子

詳細情報

開発の社会的背景

近年、有機栽培や農薬使用量の少ない茶栽培に対する消費者のニーズが高まっており、生産者からも農薬使用量を削減する防除技術の開発に強い要望があります。農薬を使わないで行う除草作業もその1つですが、幼木園3)中切り4)更新時の樹冠下や雨落ち部及びうね間において旺盛に発生する雑草の除草は、特に樹冠下のスペースが狭いため、既存の除草機を利用できません。このため手取り除草を強いられ非常に多くの労力を要しています。さらに、手取り除草を行う雇用労働力の確保も困難になってきていることから、産地の維持・発展のために除草作業の機械化が急務となっています。

研究の経緯

米国などにおける日本食ブームの影響や健康志向の高まりにより、茶の輸出量はこの10年間で約2.5倍強に拡大しています。主な輸出先の1つであるヨーロッパでは、有機栽培された茶の需要が特に高い傾向にあります。輸出量拡大を目指す一部の生産者から、有機栽培における大きな課題の1つである除草作業に対する機械化への強い要望がありました。そこで、農研機構、(株)寺田製作所、静岡県農林技術研究所の三者は、これらの生産現場の要望に応えるとともに、早期の社会実装を目指し、2020年から農業機械技術クラスター事業(https://www.naro.affrc.go.jp/org/brain/iam/cluster/index.html)において、コンソーシアムを結成し茶園用除草機の研究開発に取り組んできました。

研究の内容・意義

  • 開発機の特徴
    開発機は、乗用型茶園管理機に装着するアタッチメント式の茶園用除草機です(表1)。除草機構として、主にうね間除草機構、樹冠下・雨落ち部除草機構、地表からの距離を一定に保つように調整可能な処理位置保持機構を開発し、組み合わせて利用します(図2)。うね間除草機構については、乗用型茶園管理機から動力を得て油圧モータを用いて除草爪を回転させることで除草を行います。樹冠下・雨落ち部除草機構については、樹冠下から雨落ち部に張り出した除草刃(固定刃)が、乗用型茶園管理機の走行に伴い走行方向へ移動することにより、雑草の根元に除草刃(固定刃)が接触することで除草します。この除草機構は、茶樹に強く当たった場合は内側(うね間側)に縮むように動き、茶樹の損傷を軽減できます。この2種類の除草機構は乗用型茶園管理機の走行部の後方に装着する構造であり、茶うねの両側を同時に除草します。
    表1 開発した茶園用除草機の主要諸元
    図2 開発した除草機構
  • 開発機で除草できた割合
    機械除草前後の茶園を示します(図3図4)。除草効果について、樹冠下・雨落ち部及びうね間にある雑草について調査した結果、開発機のみで除草できた割合(雑草の根が残っている場合は、除草できなかったと判断)は、2023年6~8月に行った48サンプルから算出した平均値で83%でした。
    図3 機械除草前
    図4 機械除草後
  • 開発機使用による作業者1人当たりの除草時間の削減効果
    作業時間について、手取り除草(慣行)と「機械除草後に手取り除草する区」を比較しました。開発機で除草しきれなかった雑草を手取り除草した場合でも、幼木園では約53%、成木園5)では約78%、除草時間を削減することができました(表2)。静岡県内の有機栽培茶園では一般に年間5~6回程度、除草作業を行います。このため、開発機は通年の除草作業に対して大幅な省力化に貢献します。
    表2 作業者1人当たりの除草時間の比較

今後の予定・期待

開発機は、2023年12月より(株)寺田製作所から販売されています。開発機の現地適応性の拡大を図るため、生研支援センター「戦略的スマート農業技術等の開発・改良(JPJ011397)」の支援を受けて、2023年度から2ヵ年の現地実証試験を実施しています。

用語の解説

樹冠
樹木の上の方で葉や枝の茂っている部分。[概要に戻る]
雨落ち部
茶園における樹冠外縁部直下付近の土壌表面。[概要に戻る]
幼木園
茶苗の定植直後から、株張りが広がりつつある幼齢期の茶園。[開発の社会的背景に戻る]
中切り
地上30~50cmの幹の太いところでせん枝する更新法。[開発の社会的背景に戻る]
成木園
ほぼ一定した生産量が得られるようになった茶園。[研究の内容・意義に戻る]

研究担当者の声

手取り除草の様子

農研機構 果樹茶業研究部門水上智道

開発機が農家さんのうね間雑草対策の一助となり、茶業のますますの発展に微力ながら貢献できれば幸いです。