ポイント
農研機構は、深層学習1)を利用したAIによりモモ樹の水ストレス2)状態を画像診断する方法を開発しました。この方法では、樹を撮影した動画を解析することにより、樹体の大きい果樹でも画像診断が可能です。樹の水ストレス程度を簡便に推定することで、適切なタイミングでのかん水が可能となり、果実の品質向上などにつながります。また本技術をかん水支援以外の栽培管理にも発展させることで、果樹栽培の経験が少ない人でもデータに基づいて適切な栽培管理ができることが期待されます。
概要
農業における担い手の減少は深刻であり、今後、担い手を確保するためには、新規参入者が入りやすい環境を整えて担い手や労働力を確保することが重要となります。非熟練者でも熟練者のような栽培管理を可能にするためには、AIやIoTの利用等の革新的なスマート農業技術の利用が有効です。そこで近年発展が著しい深層学習による画像認識技術を活用した果樹の樹体情報の画像解析手法により樹の水ストレスを推定する技術を開発しました。
モモでは、水ストレスは果実の大きさや糖度に影響し、品質の良いモモを生産するためには、適切な水管理が必要です。これまでは天候や樹の生育に基づいて経験的にかん水が行われていましたが、樹の水分状態(水ポテンシャル3))が分かれば、水ストレスを受け始める直前(枝の水ポテンシャル値で-1.4MPa等)でかん水が実施できるなど、より適切なかん水が可能となります。樹の水ストレスの測定には専用の高価な機器と葉を切り取って計測するなどの労力を要しますが、スマートフォンなどで撮影した画像から診断できれば測定の労力や機械のコストを削減することができます。
そこで、モモの樹をスマートフォンで撮影し、深層学習により画像から水ストレス程度を推定する技術を開発しました。本技術では、動画を用いることで立体的で体積の大きな果樹の画像診断に成功しました。
本技術を用いることで、これまで難しかった樹の水分状態に基づくかん水により、樹生育を促進し、果実品質を向上させるような、適切なかん水管理が非熟練者でも可能となることが期待されます。また、本技術は、今後水ストレス以外にも樹生育や果実熟度など様々な画像診断に応用が可能です。また、将来的にロボットによる自動診断へも発展できると考えます。今後は診断項目を広げることで、経験の少ない人でもデータに基づいて適切な栽培管理ができるようになることが期待されます。
関連情報
予算 : JSPS科研費21K05585
センター長村上 則幸
上級研究員山根 崇嘉
確率モデルユニット
主任研究員ハバラガムワ ハルシャナ
藤野 賢治