開設の背景と研究の経緯
飼料作物はイネ科牧草、マメ科牧草、トウモロコシ、ソルガムなど多様な作物を含み、発生する病害も多種多様です。また、最近は地球温暖化に伴い、高温性病害が増えたり、発生地域が北上するなど病害発生の特徴が変わりつつあり、さらには、トウモロコシ赤かび病やイネ科牧草およびソルガム麦角病など、マイコトキシン(かび毒)汚染を引き起こす病害の発生が家畜の健康に重大な被害を及ぼすことから、これら病害の適切な診断と対策が求められてきました。
畜産草地研究所では長年の研究蓄積により、すでにインターネット版「飼料作物病害図鑑(http://www.naro.affrc.go.jp/org/nilgs/diseases/dtitle.html)」において病徴と病原菌写真を公開してきました。公開から15年が経過し、当所をはじめ、各県の畜産試験場など他の研究機関からも病害防除に関する新たな研究成果が発表されてきました。そこで、この図鑑に主要病害の発生生態および防除法などの情報を新たに追加し、さらに標本情報と発生リスクを指標化した解説ページを設けました。
成果の内容
- インターネット上で公開中の「飼料作物病害図鑑」において、トウモロコシごま葉枯病、紋枯病(図1)、ソルガム麦角病、紫斑点病、オーチャードグラス葉腐病、炭疽病、ライグラスいもち病、冠さび病、暖地型牧草ミイラ穂病、アルファルファ菌核病など主要な38の飼料作物病害について、新たに各病害の病徴、病原菌、生理・生態および防除法に関する解説ページを加えました。それぞれの項目は関連する文献にリンクしており、さらに詳細な情報を調べることも可能です。
- 畜産草地研究所那須研究拠点に保管されている1950年から1987年にかけて採集された952点の飼料作物病害さく葉標本(図2)の情報(病名、病原菌名、植物種名、採集地、採集年月日、採集者など)をデータベース化し、これを一覧表として解説ページに掲載しました。
- 病害の発生県数や発病程度、病害に対する抵抗性品種数をもとに、各病害の発生リスクを指標化しました。具体的には、発生県数および発病程度に応じてそれぞれ1~3の評点を付けました(図3)。さらに、飼料作物では使用可能な農薬の数が少なく、抵抗性品種の数が発生リスクを大きく左右することから、病害に対する抵抗性品種数により、1~3の評点を付けました。これらの平均値からリスク高(評点2.5以上)、リスク中(評点2.0~2.5未満)およびリスク低(評点2.0未満)の指標値を付けました。こうした事前の評価により、発生を警戒すべき重要病害を把握でき、発生した場合の被害を予想する目安になります。
今後の予定・期待
被害の大きい主要な飼料作物病害について、防除法を含む詳しい解説を無料で公開したことから、飼料作物の生産に関わる農家をはじめ、育成に関わる公的機関や種苗会社まで誰でも情報を得ることができます。自給飼料の重要性がますます増加している中で、病害防除などに関する情報があれば、生産量減少、品質低下、かび毒汚染など様々な悪影響を及ぼす病害をより良く回避・低減でき、高品質の飼料生産につながると期待されます。なお、特に「リスク高」の病害への罹病が分かった時には、栽培品種が抵抗性のものかどうか、本HP中に適用できる防除法があるかなどを確認してください。防除に当たっては各県の普及センターなどから指導があった場合には、現場に即した指導である普及センターからの情報を重視してください。
今後は、他の重要病害についても同様の解説ページを作成し、また新たな研究成果も紹介しながら、より一層の情報の充実を図っていきます。
用語の解説
病原(菌)
病気の原因となる微生物などで、糸状菌(かび)、細菌(バクテリア)、ウイルスなどがあります。
飼料作物病害
トウモロコシ、ソルガムおよび牧草などの飼料作物に発生する病気です。
病徴
病気の症状を意味し、しおれ、枯れ、腐れ、斑点、こぶなど様々なものがあります。
抵抗性品種
病気に対する耐性を持つ作物の品種です。発病を完全に抑えるあるいは回避するものもありますが、飼料作物では発病程度を低くするものが多いようです。
耕種法
作物の播種、耕起、薬剤散布、施肥、収穫など様々な栽培方法の総称です。これを工夫することにより発病を低減できる病気もあります。
高温性病害
病原菌の生育適温や発病適温が高い病害で、地球温暖化と共に発生が増加し、発生地域が北上する傾向があります。
病害さく葉標本
病害が発生した植物体(主に葉)を押し葉にし、乾燥させたものです。乾燥下で保管し、病害研究に役立つため、研究機関の間で貸し出されることもあります。

図1. 「飼料作物病害図鑑」のトウモロコシ紋枯病解説ページ

図2. 飼料作物病害さく葉標本の例(標本番号N12-36:トウモロコシ紋枯病)

図3. 飼料作物病害の発生程度および抵抗性品種育成程度によるリスク指標化