研究の経緯
株式会社J-オイルミルズは、脂肪酸の料理のコクを高める機能に着目して、従来の植物油には無い新しい「おいしさ」を付与できる商品の開発に取り組んできました。その結果、数ある脂肪酸の中でもアラキドン酸の効果が高いことを2008年6月2日プレスリリースし、その機能を活用した商品(「美味得徳」フライ油、「美味得徳」調味油)の開発・販売に至りました。
一方、農研機構 畜産草地研究所と秋田県農林水産技術センター畜産試験場は共同で、比内地鶏の「おいしさ」の要因を明らかにするため、孵化日が同じブロイラーと比内地鶏を同一の飼料で育成し、アミノ酸、イノシン酸、脂肪酸などの鶏肉の生化学成分を分析しました。その結果、比内地鶏鶏肉にはアラキドン酸が多く含まれることを確認し、比内地鶏の「おいしさ」にアラキドン酸が関与している可能性が示唆されました。
そこで、比内地鶏の「おいしさ」に対するアラキドン酸の関与を検討するため、農研機構 畜産草地研究所、株式会社J-オイルミルズおよび秋田県農林水産技術センター畜産試験場は共同研究を実施することになりました。
内容・意義
アラキドン酸含量の違いが肉の味に及ぼす影響を検証するため、飼料による鶏肉の脂肪酸組成の改変を試みました。通常の飼料にパーム油、コーン油、アラキドン酸含有油をそれぞれ加え、脂肪酸組成の異なる飼料を調製して比内地鶏に与え、得られた鶏肉の官能評価を行いました。
- 鶏肉の生化学成分分析
与える飼料中のアラキドン酸含量を調整することによりアラキドン酸含量が、大きく異なる鶏肉を得ることができました(表1)。その他の脂肪酸、水分、粗脂肪分、グルタミン酸の含量については、大きな違いは認められませんでした。
- 官能評価
各飼料を与えて得られた比内地鶏のもも肉を、スープまたは蒸し肉にして官能評価により比較したところ、アラキドン酸を多く含んだ比内地鶏肉の味は、「うま味」や「コク味」などが強く、全体的に味が濃いことが明らかになりました(図1)。
- 研究結果から分かったこと
1)比内地鶏の「おいしさ」の要因の一つとして、アラキドン酸が関与していることが示されました。
2)アラキドン酸を添加した飼料を鶏に与えることによって、鶏肉をよりおいしくできることが示唆されました。
今後の予定・期待
消費者が最もおいしいと感じる鶏肉のアラキドン酸含量や、ブロイラーにおいて、最適の食味を得るための効果的・効率的なアラキドン酸の給与条件を明らかにする予定です。
用語の解説
- 比内地鶏
- 比内鶏とロード種の一代交雑によって生産される、秋田県の地域特産鶏。比内鶏は、江戸時代、年貢として納められるほどおいしく、秋田県県北地域を中心に広く飼育されていた地鶏です。天然記念物に指定されていることから、比内鶏原種を食用とするには制約があり、また、成長が遅く、繁殖性・強健性に劣るなど商品化が難しい状況にありました。そこで、一般的な卵肉兼用種であるロード種との交雑種を比内地鶏として流通させています。なお、秋田県農林水産技術センター畜産試験場では、昭和48年から比内鶏原種について経済性の観点から育種選抜を重ねてきました。
- アラキドン酸
- 不飽和脂肪酸の一つ。魚油や畜肉等に含まれ、植物油
にはほとんど含まれていません。動物では、アラキドン酸はリノール酸を原料として体内で合成できますが、猫など一部の動物は、この機能が十分でないため、他の動物の捕食によってアラキドン酸を摂取することが必須です。体内では、プロスタグランディンなどの生理活性物質の原料となります。
参考データ
表1 各油脂を添加した飼料で飼育した比内地鶏肉の成分分析結果

グルタミン酸濃度、イノシン酸濃度は、官能評価に用いたスープ中の濃度。水分、粗脂肪分、アラキドン酸含量は、鶏肉中の濃度。

図1 各油脂を添加した飼料で飼育した比内地鶏肉の官能評価結果各調査項目、標準(円チャート 左:パーム油区、右:コーン油区)を0とし、-2から+2まで5段階評価を行った時の評価点の平均値の比較(上段:スープ、下段:蒸し肉)。統計的に有意差がある調査項目をピンクで示した。