プレスリリース
GABA高含有チーズを安定生産する手法を開発

- GABA生成力が強い乳酸菌を含むチーズ発酵種菌 -

情報公開日:2009年11月 5日 (木曜日)

ポイント

  • チーズの風味を良くする株、乳酸生成力が強い株、およびGABA生成力の強い株の3種の乳酸菌を混合培養したチーズスターター(チーズ製造の際に乳酸発酵をスタートさせるもの)を開発。
  • 継代を繰りかえしても3株の比率を維持できるため、GABA含量が高く風味の良いチーズを安定して製造することが可能。

概要

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」という。) 畜産草地研究所【所長 松本光人】は、日本全薬工業株式会社と共同で、血圧降下作用などの機能性が注目されているGABA(γ-アミノ酪酸)の生成能を安定して発揮する乳酸発酵スターターを開発しました。このスターターを利用することにより、安定して多量のGABAを含むチーズの製造が可能です。

予算

基盤研究費

特許:

特許第4185125号「新規チーズスターター」、野村 将・森 智之
【出願】平成18年7月25日、【登録】平成20年9月12日


詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

食品中の微量成分が人体の健康維持に有益な作用を持つことが明らかにされ、さまざまな食品について多くの研究が行われています。γ-アミノ酪酸(GABA)はグルタミン酸が脱炭酸されて生成するアミノ酸です。GABAを多く含む食品は血圧降下作用など人体に有益な生理作用を期待できることが分かってきました。

一般的なチーズはGABAをほとんど含んでいませんが、チーズやヨーグルトを作るときに種菌(乳酸発酵スターター)として接種する乳酸菌のなかには高いGABA生成能力を持つものがあります。

そこで、私たちは血圧降下作用等が期待されるGABAを多量に含むチーズを製造することを目的として、安定したGABA生成能を発揮するチーズスターターの開発を行いました。

チーズスターターには強い乳酸生成力とチーズ風味を形成する力が必要です。これにさらにGABA生成能を付与するには、それぞれの性質を与える菌株をスターターとして原料乳に接種しますが、複数のスターターを別々に接種する方法は製造ロットによって品質のばらつきが出やすくなります。そこで、必要な性質を持つ複数の菌株を混合したミックススターターが調製できれば、常に一定の性質を発揮することが期待できます。ところが、ミックススターターでは継代を繰りかえすと次第に構成菌株の比率が変化し、期待している能力を充分発揮できなくなってしまう場合も多くあります。そこで畜産草地研究所で分離したGABA生成力が強い株を他の株と組み合わせたミックススターターの開発を試みました。

研究の内容・意義

今回開発されたミックススターターはGABA生成力が強い株、チーズの風味を良くする株、および乳酸生成力が強い株の3種の乳酸菌からなります。このミックススターターは継代を繰りかえしても3株の比率が安定していて(図1)、いつも同じ能力を発揮できます。これを乳酸発酵スターターに用いてチーズを作ると、GABA含量が高く風味が良いチーズが安定して製造できます(表1)。

図1.本チーズスターター中の3菌株の生菌数
図1.本チーズスターター中の3菌株の生菌数

表1.本チーズスターターを用いて製造したチーズのGABA含量

今後の予定・期待

ヤギ乳を原料とし、本チーズスターターを使用して製造したチーズが2009年11月に日本全薬工業(株)から販売される予定です。

本チーズスターターは、伝統的な手法通り各チーズ製造場で培養して菌の活性を高めて使うようになっています。現在のチーズスターターの主流であり、取り扱いがより簡単な乾燥粉末で提供できるよう、さらに研究開発を進めます。

用語解説

GABA(γ-アミノ酪酸)
生体に含まれるアミノ酸の一種。神経伝達物質として機能している物質で、発芽玄米に多く含まれ健康に役立つ成分としてよく知られており、GABA摂取による血圧降下作用などの効果が期待されている。

乳酸発酵スターター
チーズやヨーグルトなどを作るときに原料乳に接種する種菌。乳酸発酵をスタートさせるもの。チーズを製造する際のスターターはチーズスターターと呼ばれる。