プレスリリース
地域資源循環を活かした飼料用米生産・豚肉生産を実証

- 水田・豚ふん尿の有効活用による国産飼料を利用した豚肉生産 -

情報公開日:2009年10月19日 (月曜日)

ポイント

  • 豚ふん尿を利用した飼料用米の栽培法、肥育豚への効率的な給与法を開発し、これらを融合した飼料用米による豚肉生産技術の現地実証を行いました。
  • 耕作放棄水田の活用と自給率の向上に貢献し、中山間地の振興や地域内資源循環が期待されます。

概要

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」という。)畜産草地研究所【所長 松本光人】を中核とする研究グループは、豚の排泄物を有効利用する飼料用米の栽培技術および豚への給与技術を開発し、岩手県一関市大東地域における実証生産で、地域資源としての水田作と養豚農場とを結びつけた自給飼料活用型・資源循環型の畜産システムを提示しました。

実証栽培では、養豚場からの堆肥を基肥とし、堆肥化過程で発生するアンモニアを希硫酸に回収した液状硫安を追肥に利用する栽培法を実施しました。収穫した飼料用米は地域内にある養豚場で、研究グループが開発した方法に従って豚に給与し、地域内資源と自給飼料を活用した生産体系を示しました。生産した豚 肉は「やまと豚(ぶた)米(まい)らぶ」という商品名で販売されており、今後、飼料用米収量の増大による生産拡大を目指しています。

予算

農林水産省の競争的研究資金「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」の「多収飼料米品種を活用した高品質豚肉生産システムの確立」(平成18~20年度)


詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

わが国の飼料自給率は、ここ20年間で25%前後の低い水準で推移しています。濃厚飼料ではさらに低い10%前後となっており、自給率の向上が喫緊の課題となっています。また、わが国の養豚業は、多頭化の進行が著しく、肥育豚飼養頭数2,000頭以上の大規模経営(全肥育農家戸数の12%)が全肥育豚飼養頭数の56%を占めるに至っています。輸入濃厚飼料に依存した生産形態であるため、ふん尿処理問題や悪臭等環境問題への対応から中 山間地に移転せざるを得ないケースが増加しています。このような多頭化が進む養豚経営においては、ふん尿処理・利用体系の整備もまた、大きな課題となっています。

一方で養豚経営の移転先である中山間地域では過疎化、高齢化が進行し、また耕作放棄地のさらなる増加も危惧されていることから、その解消や水田の有効 活用が強く望まれています。これらの水田に新たに作付けする作物として、現行の栽培方法や機械整備を大きく変える必要がない飼料用米が有望視されています。

そこで、水田作と養豚業を結びつけた自給飼料活用型、資源循環型畜産システムを提示することを目的として、養豚からの堆肥・液肥を利用して栽培した飼料用米を養豚業で活用する生産体系を確立し実証生産を行いました。

成果の概要

研究グループが育成・開発した飼料用米多収品種、ふん尿の肥料成分活用による栽培技術および飼料用米の効率的給与技術を岩手県一関市大東地域に導入して実証生産を行いました。

  • 堆肥化過程で揮散するアンモニアを硫安液肥として回収(図1)して追肥に用いる方法を開発し、栃木県大田原市の水田において 研究グループが育成した飼料用品種のモミロマンを用いて慣行栽培並の粗玄米収量900kg/10aを達成しました(表1)。大東地域での実証栽培では慣行 施肥法での栽培や養豚場で作られた堆肥を基肥施用した栽培が行われ、アンモニア回収した液肥の追肥も一部で行われています。
  • 収穫された飼料用米は大東地域にある養豚場で、研究グループが開発した給与方法(肥育後期に慣行飼料中のトウモロコシを飼料 用米で15%代替した飼料を給与)に従って豚肉生産を行っています。発育成績は慣行飼料並みに良好であり(表2)、皮下脂肪内層のオレイン酸の割合が高く なる一方、豚肉の脂肪を軟らかくするリノール酸の割合が低くなり、硬くしまりのある方向へ脂肪酸組成が変化します(表3)。また、脂肪色は明るく、色みの 薄いものになっています(図2)。この方法で肥育した豚肉の差別化販売を2008年に開始しています。
  • 実証生産では養豚場で作られた堆肥や回収硫安液肥を利用した栽培や慣行法での栽培が行われ、収穫された籾はライスセンターで 乾燥調製後、飼料工場で粉砕して配合飼料のトウモロコシ15%を飼料用米で代替するように混合し、大東地域の養豚場へ供給されます。飼料用米を軸にした自 給飼料の活用や地域内での資源循環推進をアピールしたブランド豚肉生産の確立により、高値での飼料用米販売を実現し、耕種農家の収入確保に貢献していま す。栽培面積は2006年の10.0haから2008年の20.5ha、さらに2009年はおよそ30haへと増加し(表4)、地域内の資源循環、自給飼 料生産拡大に貢献しています。課題として、平均単収を上げるため、栽培管理作業の適切な実施などが必要です。

図1 堆肥化施設における吸引通気方式によるアンモニア回収
図1 堆肥化施設における吸引通気方式によるアンモニア回収

表1 回収硫安液肥の追肥による飼料用米の収量 (栃木県大田原市内の水田42aでの結果)
表1 回収硫安液肥の追肥による飼料用米の収量

 

表2 飼料用米15%配合飼料を給与した肥育豚の日増体量と枝肉成績 (n=15注))
表2 飼料用米15%配合飼料を給与した肥育豚の日増体量と枝肉成績

表3 飼料用米を15%配合した飼料を給与した肥育豚(n=15注))の皮下脂肪内層のオレイン酸とリノール酸の割合(%)
表3 飼料用米を15%配合した飼料を給与した肥育豚の皮下脂肪内層のオレイン酸とリノール酸の割合

図2 飼料用米15%配合・60日間給与がロース部位の脂肪色に及ぼす影響
図2 飼料用米15%配合・60日間給与がロース部位の脂肪色に及ぼす影響

表4 一関市大東地区における飼料用米生産面積
表4 一関市大東地区における飼料用米生産面積

期待される効果・今後の展開など

飼料用米は、乾田化が難しいために、適当な転作作物が見当たらなかった水田にも容易に作付けできる作物として受け入れられやすく、耕作放棄水田の解消と水田の有効活用に貢献でき、中山間地の振興・活性化につなげることができます。また、濃厚飼料自給率を上昇できる可能性があり、さらに、開発された豚ふん尿利用技術を利用することにより、水田と養豚が結びついた地域資源の循環を促進できます。

今後は、飼料用米の多収品種育成や多収栽培技術をさらに進展させるとともに、肥育豚のみならず、繁殖豚、離乳子豚および養鶏への飼料用米利用技術の開発が期待できます。

用語解説

堆肥化過程で揮散するアンモニアの回収
堆肥化過程で発生するアンモニアを含んだ空気を吸引して、希硫酸中を通過させ、硫酸アンモニウム(硫安)として回収する方法。液体肥料であるため水口施用が容易で、追肥が省力的に行える。

粗玄米収量
食用品種の玄米収量は屑米を含まない精玄米重を用い、精玄米重が玄米収量になる。飼料用米の場合は、屑米も利用可能であるため、精玄米重と屑米重を合わせた粗玄米重が利用可能な収量となる。食用品種の玄米収量と区別する意味で、粗玄米収量という語を用いている。

飼料用米の効率的給与技術
限られた生産量の飼料用米でより多くの特色ある豚肉生産を実現するため、飼料用米給与の特色が肉質に反映される最低限の飼料用米給与割合を給与期間・給与法との関連で明らかにしている。

オレイン酸、リノール酸
不飽和脂肪酸の一つであり、不飽和結合をオレイン酸は一つ、リノール酸は二つ持っている。不飽和結合の数が多くなると融点が低くなる。従って、オレイン酸割合が増えてリノール酸割合が減少すると融点が高くなり、脂肪が硬くしまりのある肉質となる傾向にある。