プレスリリース
農研機構が飼料イネの生産から牛への給与まで 新技術をDVDで紹介

情報公開日:2009年7月14日 (火曜日)

ポイント

  • 水田を活用した飼料自給率の向上に寄与する、飼料イネの生産から牛への給与までの新技術を紹介するDVDを作成

概要

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)中央農業総合研究センター【所長 丸山清明】は、水田における飼料イネの生産から給与までの新技術および飼養した家畜の製品のブランド戦略をまとめて紹介するDVD「水田の贈り物 ライスビーフ・ライスミルク」を作成しました。

DVD「水田の贈り物 ライスビーフ・ライスミルク」の内容

  • 省力・低コストで適期に収穫するための飼料イネ栽培技術
  • 飼料イネを良質のサイレージにできるよう細断して収穫できる自走式の収穫機
  • 飼料イネと粕類(ビール粕など)を組み合わせて栄養を調整した混合飼料を搾乳牛へ給与する技術
  • 飼料イネが栽培された水田で牛を放牧する技術
  • 飼料イネで育てた牛肉と牛乳のブランド化

この成果は、農研機構交付金プロジェクト「関東地域における飼料イネの資源循環型生産・利用システムの確立」および農林水産省・先端技術を活用した農林水産研究高度化事業「飼料イネと粕類主体の搾乳牛用発酵TMR飼料調製技術の開発」、農林水産省委託プロジェクト「粗飼料多給による日本型家畜飼養技術の開発」の予算によるものです。

ご希望の方にはこのDVDを貸出しを行いますので、下記広報担当者にご連絡ください。


詳細情報

背景

関東地域はわが国の乳用牛飼養頭数の15.0%が飼養されており、北海道に次いで2位の酪農地帯ですが、乳用牛1頭当たりの飼料作物作付け面積は18aであり、全国平均の59aに比べて極めて少ない状態です。一方で、関東地域の水田面積(44万ha)のうち18.7万haが生産調整対象(平成15年)となっています。このため、水田の高度利用と自給飼料増産の観点から、湿田で栽培可能な飼料イネの生産と飼料供給が関東地域では重要な課題であると考えられます。
関東地域においては、飼料イネの生産と利用が多様な経営体によって取り組まれていますが、現在飼料イネ生産が導入されている地域では、食用品種およびその栽培体系がそのまま転用される事例が多く、生産コスト低減技術が十分導入されていない状況です。さらに飼料イネの収穫によって無機成分等が圃場から持ち出されるため、家畜から排泄された糞尿を堆肥化し、再び圃場に還元する資源循環型の営農システムを構築することが求められています。
また、食品工業からは年間1200万トンを超える製造副産物が排出され、製造副産物の家畜への給与は飼料自給率向上の観点から重要な課題となっています。

経緯

農研機構は、交付金プロジェクト「関東地域における飼料イネの資源循環型生産・利用システムの確立」において、関東地域の平坦地及び中山間地の水田作・畜産経営を対象として、

  • 家畜糞尿由来の堆肥施用による飼料イネの安定多収栽培技術および良質な稲発酵粗飼料の調製と適正給与技術の開発
  • 飼料イネの生産・調製技術と乳用牛及び肉用牛への稲発酵粗飼料給与技術の組立・体系化と経営的評価
  • 類型別地域営農モデルの策定と技術の定着を目標に研究を行って参りました。

さらに、農林水産省委託プロジェクト「粗飼料多給による日本型家畜飼養技術の開発」において、飼料イネの立毛放牧(飼料イネを立毛状態で採食させる放牧法)、冬期間の稲発酵粗飼料給与を活用した周年放牧技術の開発を行ってきました。

また、農林水産省・先端技術を活用した農林水産研究高度化事業「飼料イネと粕類主体の搾乳牛用発酵TMR飼料調製技術の開発」では、TMR(混合飼料)供給センターにおいて、稲発酵粗飼料を粗飼料源とし、粕類(ビール粕など)を添加したTMRの発酵特性を解明することによって、品質の安定した発酵TMRの調整技術を開発するとともに出来上がった発酵TMRを酪農家へ普及させることを検討しました。

内容・意義

それぞれのプロジェクトでは、以下の多くの成果が得られました。

  • 飼料イネの低コスト湛水直播技術を導入し、生産費を10a当たり1万円以上削減。
  • 基肥として堆肥を利用し、追肥として液肥を利用して化成肥料を節約。
  • 5種類の飼料イネ品種を活用して収穫期間を延長。
  • 飼料イネを細かく切断する自走式細断型飼料イネ専用収穫機を開発。ロールベールの梱包密度が従来機の1.5倍以上。品質の良い稲発酵粗飼料の生産が可能。
  • 稲発酵粗飼料の給与によって牛肉中のビタミンEが増加し、肉色の劣化や脂質の酸化が抑制。官能検査においても稲発酵粗飼料を給与した牛肉は美味。
  • 稲発酵粗飼料と粕類で作成した発酵TMRを乳用牛へ給与した結果、牛乳生産量は変わらないが、乳蛋白質と無脂固形分は増加。
  • 飼料イネを用いた周年放牧利用技術では、飼料イネは牧草に比較して放牧で2倍以上の日数の飼育が可能。立毛放牧により収穫利用経費を5分の1に低減。また周年放牧は、畜産農家の増頭に寄与。

DVDではこれらの成果を映像を用いて理解し易いように編集しました。

    今後の予定・期待
     今後とも飼料イネを利用した周年放牧技術の開発をはじめ飼料イネの栽培技術の開発、稲発酵粗飼料の機能性成分の解明、稲発酵粗飼料給与牛肉のブランド化に取り組んで行く予定であり、得られた成果は順次マニュアル化して行く予定です。

今後の予定・期待

今後とも飼料イネを利用した周年放牧技術の開発をはじめ飼料イネの栽培技術の開発、稲発酵粗飼料の機能性成分の解明、稲発酵粗飼料給与牛肉のブランド化に取り組んで行く予定であり、得られた成果は順次マニュアル化して行く予定です。

参考資料

1)湛水直播による生産費低減

図1.湛水直播による生産費低減 湛水直播技術により、苗づくりの費用を省くことにより生産費を10a当たり1万円以上削減しました。

 

2)堆肥の利用による化成肥料の削減

図2.堆肥の利用による化成肥料の削減 化学肥料の一部を堆肥や液肥で置き換えることができることを明らかにしました。

3)自走式細断型飼料イネ収穫機の開発
飼料イネ専用の自走式細断型飼料イネ収穫機を開発しました。これまでの飼料イネ収穫機よりも収穫時のロスが少なく、また細かく切断するのでロールの梱包密度が従来機の1.5倍以上となり発酵品質が良くなりました。開発からわずか3年で市販されました。

図3.左:自走式細断型飼料イネ収穫機、右:ロールベール

4)稲発酵粗飼料を給与した牛肉の品質特性の解明

稲発酵粗飼料にはビタミンEが豊富に含まれていることがわかりました。稲発酵粗飼料を給与した牛肉はビタミンEが豊富に含まれ、肉色の劣化や脂質酸化による悪臭が抑制されました。現在、稲発酵粗飼料を給与した牛肉のブランド化が図られています。

図4.稲発酵粗飼料を給与した牛肉の品質特性の解明

 

5)飼料イネを用いた周年放牧利用技術の開発
4月~9月は牧草で放牧、10月~11月は飼料イネで立毛放牧、12~3月は稲発酵粗飼料を給与することによって繁殖牛を1年中放牧できることを示しました。立毛放牧技術では、利用経費を1/5に削減できました。

図5.飼料イネを用いた周年放牧利用技術の開発