プレスリリース
アミノ酸バランスを改善した飼料により 養豚における温室効果ガス排出量を約40%削減

情報公開日:2011年12月21日 (水曜日)

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所
国立大学法人 新潟大学農学部
群馬県畜産試験場
味の素株式会社 バイオ・ファイン事業本部 飼料部

ポイント

  • 肥育豚にアミノ酸をバランスよく与えることで、生産性に影響なく、ふん尿中の窒素排出量が低下し、一酸化二窒素の発生を約40%削減できることを検証しました。
  • この成果により、国内で初めての一酸化二窒素の排出削減の取り組みとして、肥育豚への低蛋白質飼料の給与が「オフセット・クレジット(J-VER)制度」及び「国内クレジット制度」のクレジットとして認証されました。

概要

農研機構畜産草地研究所【所長 松本光人】は、新潟大学、群馬県畜産試験場、味の素(株)と共同研究を行い、肥育豚に飼料中のアミノ酸バランスを整えた低蛋白質飼料を給与することで、従来の飼料に比べ、生産性に影響なく、ふん尿中の窒素排出量が低下し、一酸化二窒素(N2O、 二酸化炭素の310倍の温室効果を有するガス)の発生を約40%削減できることを実証しました。

この成果により、国内で初めて一酸化二窒素の排出削減量が「オフセット・クレジット(J-VER)制度」及び「国内クレジット制度」のクレジットとして認証され、肥育豚への低蛋白質飼料の給与をカーボン・オフセットや排出権取引に利用することが可能になりました。

予算:共同研究「豚排泄糞尿由来の温室効果ガス発生の抑制」(農研機構、新潟大学、群馬県、味の素(株))、 農林水産省委託プロジェクト研究「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のための技術開発」(農研機構ほか)


詳細情報

開発の社会的背景

地球規模で進む温暖化対策として、農業分野においても温室効果ガスの発生量を削減することが喫緊の課題となっています。畜産業においては家畜排せつ物から発生する一酸化二窒素(N2O)、メタン(CH4)および反すう家畜の消化管内発酵によるメタンの発生量の削減が重要な課題となっています(図1)。

研究の経緯

これまで肥育豚への低蛋白質飼料の給与は、肥育豚のふん尿中の窒素量を約30%削減できることから、環境保全的であると考えられてきました。しかしながら、温室効果ガスの削減効果が検証されていないために、温暖化緩和対策としては生産現場への導入が躊躇されていました。このため、農研機構畜産草地研究所は、家畜排せつ物から発生する温室効果ガスを精密に測定・評価する方法を開発するとともに、新潟大学、群馬県畜産試験場、味の素株式会社と共同して、肥育豚への低蛋白質飼料給与による温室効果ガス削減効果の評価を行いました。

研究の内容・意義

  • 家畜排せつ物から発生するメタンおよび一酸化二窒素を精密に測定・評価することができるガス発生量計測システムを開発しました。
  • このガス発生量計測システムと、日本の一般的な養豚農家で導入されている家畜ふん尿管理施設(強制通気型堆肥化処理施設と汚水浄化処理施設)を小型化した試験装置を組み合わせることによって、低蛋白質飼料給与による温室効果ガス削減効果の検証が可能となりました。
  • 結晶性アミノ酸でバランスを整えた低蛋白質飼料(表1)を給与した肥育豚のふん尿と、慣用飼料を給与した肥育豚ふん尿を採取して、その処理全過程で発生する温室効果ガス発生総量を比較しました。
  • その結果、肥育豚(体重38kg程度)1頭1日あたりの温室効果ガスの発生量は、低蛋白質飼料区が133.3gCO2eq、通常飼料区が218.9gCO2eqでした(図2)。また、肉生産量及び肉質は、低蛋白質飼料区と通常飼料区で相違がないことを確認しました(図3、図4、表2)。
  • このことから、アミノ酸でバランスを整えた低蛋白質飼料を給与することによって、生産性に影響することなく温室効果ガスを約40%削減できることが確認できました(図2、3、4、表2)。
  • 本研究成果により、低蛋白質飼料給与による温室効果ガス排出削減量は、国内初の一酸化二窒素削減対策として「オフセット・クレジット(J-VER)制度」及び「国内クレジット制度」の方法論として追加されました。
  • 7.本研究成果は、昨年10月の畜産の温暖化に関する国際研究集会(GGAA2010)で公表され、本年4月末に欧州専門誌Animal Feed Science and Technologyに掲載されました。

今後の予定・期待

肥育豚への低蛋白質飼料給与がオフセット・クレジット(J-VER)制度や国内クレジット制度の対象とされたことから、国内の養豚農家での活用が進むと期待されます。また、国際的にも温室効果ガス削減方法として認知されたことから、豚の飼養頭数が急増しているアジア各国においても豚肉増産と温室効果ガス削減を両立させる技術として導入が進む可能性が高いものと期待されます。

用語の解説

アミノ酸バランス
家畜の飼料は穀物や大豆かすなどを組み合わせて給与されている。これら飼料中のアミノ酸の含有量は、家畜の栄養素としては過不足無く必要量を満たすものではない。家畜の増体に必要なアミノ酸のバランスが配慮されない飼料で必要量を充足させる場合は過剰に蛋白質を与えることとなる。低蛋白質飼料は、家畜にとって必須のアミノ酸が不足しないように、バランスを整える必要がある。

低蛋白質飼料
従来の飼料より蛋白質含量が低い飼料。豚が成長に必要とするアミノ酸バランスを整え、余分なアミノ酸が少ないので、環境負荷となるふん尿中の窒素量が低減されると期待される。

カーボン・オフセット
人間の経済活動や生活などを通じて排出されたCO2などの温室効果ガスのうち削減が困難な量の全部または一部を、植林・森林保護など他の事業によって直接的、間接的に吸収し埋め合わせ(オフセット)ようとする考え方や活動の総称。

オフセット・クレジット(J-VER)制度
カーボン・オフセットの取組を広めるためには、カーボン・オフセットの取組について信頼性を構築する必要があるため平成20年11月に制度が立ち上げられた環境省が設置した認証運営委員会で基準を定めて認証する制度。 環境省の「カーボン・オフセットに用いられるVER(Verified Emission Reduction)の認証基準に関する検討会」により発行・認定するオフセット・クレジット制度のこと。クレジットとは債権という意味。本制度にて促進支援すべき排出削減・吸収プロジェクトの種類を予め特定し、現在31の方法論がポジティブリストとして公表されている。

国内クレジット制度
国内クレジット制度は、平成20年10月に政府全体の取組みとして開始された、大企業等による技術・資金等の提供を通じて、中小企業等が行った温室効果ガス排出削減量を認証し、自主行動計画や試行排出量取引スキームの目標達成等のために活用できる制度。現在、「豚への低タンパク配合飼料の給餌」を含め、52件の排出削減方法論が承認されている。

CO2eq
二酸化炭素等量。温室効果ガスの温暖化効果を二酸化炭素の温室効果に換算した値。

ポジティブリスト
J-VER制度では、削減方策の対象となるプロジェクトの種類をあらかじめ「ポジティブリスト」として提示。その上で、プロジェクトを登録するための適格性に関する基準と、温室効果ガスの排出削減・吸収の算定やモニタリング方法を定めた「方法論」を作成している。同制度に基づき、市場でのニーズが高いJ-VERを創出するプロジェクトに関するアイディアをモデル事業として募集し、現在、「低タンパク配合飼料利用による豚のふん尿処理からのN2O排出抑制」を含む30種類を採択。

図1 農林水産業から発生する温室効果ガス

表1 慣用飼料と低蛋白質飼料の組成の違い

図2 温室効果ガス発生量の比較

図3 肥育前期の日増体量の比較

図4 肥育後期の日増体量の比較

表2 慣用飼料と低蛋白質飼料の肉質