プレスリリース
鶏の増体を促進する遺伝子型を発見

- 増体性の高い地鶏育種への活用が期待 -

情報公開日:2012年2月20日 (月曜日)

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所
秋田県農林水産技術センター畜産試験場
福島県農業総合センター畜産研究所

ポイント

  • 比内鶏において、平均体重に約1割の差を生じさせる遺伝子型を発見。
  • 地鶏の増体性を改善する育種がより簡単に。

概要

  • 農研機構畜産草地研究所と秋田県農林水産技術センター畜産試験場は、比内鶏を用いて、成長性に強く関連する遺伝子(コレシストキニンA受容体遺伝子)の一塩基多型(SNP)を発見しました。
  • 同遺伝子型の効果は、福島県農業総合センター畜産研究所が維持している大型会津地鶏においても確認されました。
  • これらの成果により、他の地鶏の増体性を改良する育種において、発見した遺伝子型が応用されることが期待されます。

関連情報

予算:「アグリゲノム研究の総合的な推進(動物ゲノム)」(平成19~23年度)


詳細情報

研究の経緯

「比内鶏」は、江戸時代、年貢として納められるほどおいしく、秋田県北部地域を中心に広く飼育されていた地鶏です。天然記念物に指定されていることから、比内鶏原種を食用とするには制約があり、また、成長が遅く、繁殖性・強健性に劣ることから食用鶏としての利用が難しい状況にありました。そこで、秋田県畜産試験場(現、秋田県農林水産技術センター畜産試験場。以下、秋田畜試)では、昭和48年に保存会から比内鶏の種卵を譲り受け、経済性、特に成長性の観点からの育種選抜を重ねてきました。その結果、秋田畜試の比内鶏の雄の300日齢体重は、保存会集団の雄と比べて約1kg重くなっています。現在、秋田畜試の比内鶏の雄と、卵肉兼用種であるロード種との交雑種が「比内地鶏」として流通しています。

しかしながら、地鶏の成長性の育種改良は、遅れています。そこで、今回、地鶏の成長性を改善する育種に生かすため、比内鶏や大型会津地鶏を材料にして、成長性にかかわる遺伝子や遺伝子型を見つけようとしました。

内容・意義

  • 成長性が大きく異なる保存会と秋田畜試の比内鶏を掛け合わせて、418羽の孫集団を作成しました。孫集団の比内鶏で各個体の体重などを測定し、QTL解析を行ったところ、ニワトリ染色体4番に、成長性に関わる遺伝子の存在を示す大きなピークが得られました。
  • ピーク領域をさらに詳細に調べると、コレシストキニンA受容体遺伝子(CCKAR :cholecystokinin type A receptor gene)が検出されました。コレシストキニンは、満腹感を引き起こし、食欲を抑制する神経情報伝達を担うペプチドホルモンとして知られています。コレシストキニンの受容体としては、AおよびB受容体が同定されています。このうち、腸管に主に分布しているA受容体は、満腹感を脳に伝えるシグナル伝達を担います。CCKAR遺伝子の違い(遺伝子多型)によって、食欲が変化し、比内鶏の成長が左右されている可能性があります。
  • そこで、比内鶏孫集団作出に用いた、保存会と秋田畜試の比内鶏の親世代全個体のCCKAR遺伝子のDNA塩基配列を決定し、比較したところ、成長性との関連性が示唆される新しい一塩基多型(SNP)が見出されました。同SNPは、遺伝子発現を調節する領域に存在し、アデニン(A)とシトシン(C)の 組み合わせによって、3つの遺伝子型(A/A、A/CおよびC/C)が同定されました。
  • 比内鶏の孫集団では、同SNPの遺伝子型がA/A型の場合、A/C型およびC/C型よりも、有意に体重が重いことがわかりました(図1(a))。A/A型個体は、C/C型個体よりも約1割、平均体重が上回りました。
  • 他の鶏種における同SNPの効果を、福島県農業総合センター畜産研究所養鶏分場が保有する大型会津地鶏を用いて検証しました。その結果、比内鶏の孫集団と同様にA/A型個体は、A/C型およびC/C型個体よりも、同じ日齢でも体重が重いことがわかりました(図1(b))。これによって、CCKAR遺伝子のSNP型は、地鶏の成長性の選抜指標として有効であることが示されました。

今後の予定・期待

本研究成果のSNP情報を用いて、比内鶏および大型会津地鶏の成長性のDNA選抜育種を行う予定です。また、西洋種に比べて、成長性の育種改良が遅れている他の地鶏への応用が期待されます。

発表論文

Kazuhiro Rikimaru, Megumi Komatsu, Keiichi Suzuki, Yoshinobu Uemoto, Hisato Takeda, and Hideaki Takahashi
Association between cholecystokinin type A receptor haplotypes and growth traits in Japanese Hinai-dori crossbred chickens.
Molecular Biology Reports 2012 (印刷中、doi: 10.1007/s11033-011-1237-9、2011年9月24日にオンライン公開)

用語の解説

1. DNA(デオキシリボ核酸)
地球上のほぼ全ての生物種の遺伝情報を担っている化学物質。DNAはアデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)の4種類の塩基で構成されています。通常、AとT、CとGがそれぞれ対をなした、二重らせん構造をとっています。

2. QTL(量的形質遺伝子座 Quantitative Trait Loci)
体重、卵重などの家畜の生産性に関わる形質の大部分は連続的な表現型の変異を示し、これらは、「量的形質(Quantitative Trait)」と呼ばれています。量的形質は、比較的遺伝子効果の小さい複数の遺伝子座、すなわち量的形質遺伝子座(QTLs: Quantitative Trait Loci)によって支配されていると考えられています。近年、QTLの染色体上の位置や個々の遺伝子の効果などを明らかにするQTL解析が広く行われています。

3. 一塩基多型(SNP: Single Nucleotide Polymorphism)
遺伝子多型のうち、1つの塩基が、ほかの塩基と異なっているものは、一塩基多型(SNP: Single Nucleotide Polymorphism)と呼ばれています。そのタイプによって、遺伝子の発現量や遺伝子をもとに体内で作られるタンパク質の働きが微妙に変化し、量的形質に影響を与えることがあります。

4. 大型会津地鶏
会津地鶏は、福島県会津地方で古くから飼育されていた地鶏です。福島県農業総合センター畜産研究所養鶏分場では、純系の会津地鶏を白色プリマスロック種と交配し、純系の会津地鶏の特徴を色濃く残す「大型会津地鶏」を作出し、維持しています。現在、大型会津地鶏の雄と、卵肉兼用種であるロード種との交雑種を「会津地鶏」として流通しています。

図1 CCKAR遺伝子のSNP型とニワトリの体重の関係