プレスリリース
堆肥の継続的な施用が飼料用トウモロコシへの放射性セシウムの移行抑制に有効であることが判明

情報公開日:2012年3月 7日 (水曜日)

ポイント

  • 堆肥を施用しないと土壌から飼料用トウモロコシへの放射性セシウムの移行が大きくなります。
  • 施肥基準等で推奨されている施用量である3 t/10 a程度の堆肥を継続的に施用すると、放射性セシウムの移行を抑制できます。
  • 土壌のカリ肥沃度が低い圃場においても、飼料用トウモロコシへの放射性セシウムの移行を抑制するには、標準的な量である20 kg/10 a程度のカリ肥料の施用が有効です。それ以上の施肥をしても抑制効果は期待できません。

概要

  • 23年産の飼料用トウモロコシの放射性セシウム濃度は、モニタリング調査において大部分(99 %)が100 Bq/kgより低く(平成23年12月時点)、永年牧草よりも低い傾向を示しました。すなわち、飼料用トウモロコシは、土壌からの放射性セシウムの移行が少ない作物といえます。
  • 農研機構 畜産草地研究所は、飼料用トウモロコシの放射性セシウム濃度に及ぼす堆肥施用やカリ施肥の影響を検討し、以下の結果を得ました。
    • 堆肥を施用しないこと等により土壌のカリ肥沃度が低くなると、飼料用トウモロコシへの放射性セシウムの吸収・移行が大きくなります。
    • 飼料用トウモロコシ栽培において、堆肥(副資材としてオガクズ、モミガラを含む牛ふん堆肥)を1作あたり3 t/10 a程度、連年施用すれば、堆肥を施用しない場合に比べて、土壌から作物体への放射性セシウムの移行を抑制する効果があることを明らかにしました。
    • 土壌のカリ肥沃度が低い圃場では、K2O換算でカリ肥料を標準的な量である20 kg/10 a程度施用することも有効です。ただし、それ以上の施肥をしても低減効果は期待できません。
  • 以上のように、カリ成分が不足している飼料畑では、堆肥またはカリ肥料の施用により、飼料用トウモロコシへの放射性セシウムの移行を抑制することが可能です。

関連情報

予算:新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業「植物から農畜産物への放射性物質移行低減技術の開発」


詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

平成23年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故後、東北・関東地方の広い範囲において放射性セシウムが飼料畑や牧草地の土壌に含まれることが明らかとなっています。一部地域では、牧草等の放射性セシウム濃度が飼料の暫定許容値よりも高いために自給飼料を利用できない状況が続いており、土壌から飼料作物への放射性セシウムの移行抑制技術の開発が重要な課題となっています。

チェルノブイリ原発事故以降、ロシア・ヨーロッパ地域において、カリ肥料の施用や深耕が土壌から農作物への放射性セシウムの移行抑制に有効であることが報告されていますが、我が国の土壌や栽培条件に適した放射性セシウムの移行抑制技術であるかどうかを明らかにすることが必要です。

また、平常より高い空間線量が観測された11都県において実施されたモニタリングの結果、23年産飼料用トウモロコシの放射性セシウム濃度は大部分(99 %)が100 Bq/kg以下となり(平成23年12月時点)、永年牧草よりも低い傾向であることが明らかとなっており、放射性セシウムの影響を受けにくい飼料作物として期待が高まっています。今後も放射性セシウム濃度が低い飼料用トウモロコシを生産するため、飼料用トウモロコシの堆肥施用量等の栽培条件が飼料用トウモロコシの放射性セシウム濃度に及ぼす影響を確認しました。

成果の内容・意義

  • 副資材としてオガクズ、モミガラを含む牛ふん堆肥を1作当たり0、1.5、3.0、4.5 t/10 aを連年施用して飼料用トウモロコシを栽培した圃場では、堆肥を施用しない場合(0 t/10 a)において、土壌の交換性カリ含量が低くなり、飼料用トウモロコシへの放射性セシウムの移行が大きくなることが示されました(図1)。
  • 施肥基準等で推奨されている施用量である、1作あたり3 t/10 a程度の堆肥を連年施用して栽培した飼料用トウモロコシでは、化学肥料としてカリ(K2O)を施用しなくても、堆肥を施用しない場合に比べて、放射性セシウム濃度が40 %程度低くなります(図2)。これまでに、土壌中のカリは放射性セシウムの移行抑制に有効であることが知られているため、堆肥施用による放射性セシウムの移行抑制効果の多くの部分は、飼料畑土壌における交換性カリ含量の増大によるものと考えられます。
  • 堆肥を施用しないなど土壌のカリ肥沃度が低い土壌条件では、カリ肥料の施用により、飼料用トウモロコシの放射性セシウム濃度が25 %程度低くなります(図3)。
  • カリ肥料をK2Oとして10 kg/10 a施用した条件においても、堆肥を3 t/10 a連年施用すると、施用しない場合に比べて40 %程度の移行低減効果が認められ、堆肥の連年施用が飼料用トウモロコシの放射性セシウム濃度の低減に有効であることが明らかとなりました(図4)。本成果で施用した堆肥成分の平均値は、現物あたり窒素0.7 %、リン酸0.6 %、カリ1.2 %であり、オガクズを副資材として含む牛ふん堆肥として一般的なものでした。なお、堆肥に含まれる放射性セシウムの暫定許容値は、畜産農家が自らの飼料畑に還元する等の場合を除き、400 Bq/kg(製品重量)です。
  • 堆肥が施肥基準等に則って施用されている飼料畑や、カリ肥料が適正に施用され、カリ肥沃度が確保されている飼料畑では、それ以上に堆肥やカリ肥料を施用しても放射性セシウムの低減効果は期待できません(図1、2、3)。
  • プラウ耕により深耕すると、土壌表層の放射性セシウムが深く埋め込まれ(図5)、土壌の放射線遮蔽効果により1 m高さの空間線量率を未耕起の約40 %に大幅に減少させることができます(図6)。これは、ほ場作業者の外部被曝の低減につながります。浅耕でも空間線量の低減効果が得られますが、未耕起の約70 %(1 m高)と深耕に比べてその効果は劣ります。なお、飼料用トウモロコシの放射性セシウム濃度には、耕起法の違いによる処理間差が認められませんでした。

今後の予定・期待

今後も土壌からの放射性セシウムの移行抑制技術として、代表的な冬作飼料作物であるイタリアンライグラスにおいても堆肥の継続的な施用効果を確認することや、作物への放射性セシウムの移行を抑制できる土壌カリ水準やカリ施肥法を明らかにすることなどに取り組む予定です。

用語の解説

  • カリ(加里):
    肥料成分として表わす場合は、元素名のカリウムではなく、「カリ」と表記して、K2Oとしての重量表示としたもの。作物の生産性の面から飼料畑土壌の土壌診断基準は、非黒ボク土壌で15~30 mg/100 g乾土、黒ボク土壌では15~50 mg/100 g乾土が適正域である(関東東海地域飼料畑土壌診断基準作成検討会報告書 草地試験場1988)。カリウムは植物の生育に不可欠な多量必須元素の1つである。カリ肥料はその原料をほとんど輸入に頼っている。
  • 交換性カリ:
    土壌の腐植や粘土表面のマイナス荷電に吸着されているカリウムで、他の陽イオン(カルシウム、マグネシウム、アンモニウムなど)によって容易に交換されて土壌溶液中に溶出し、作物に吸収されやすい。土壌のカリウム供給力を示す指標として、土壌診断で一般的に使用されている。乾土100 g当たりのカリ含量で表す。
  • プラウ耕、ロータリ耕:
    土を耕す方法の1つであって、耕うん用作業機のうちプラウを用いるものをプラウ耕、同じくロータリを用いるものをロータリ耕という。
    プラウ耕では、ほ場の表層と下層がほぼ反転される。耕深は通常20~25 cm程度であるが、30 cm以上の深耕が可能なものもある。プラウ耕では、砕土作用が小さいため、別工程での砕土・整地が必要となる。
    ロータリ耕は、多数の耕うんづめを取付けた軸を回転させて土壌を攪拌することで耕うんする。プラウ耕に比較して反転性は少ないが、砕土作用が大きく、耕うん・砕土・整地を1工程で行える。耕深は通常15 cm程度である。
  • 側条施肥:
    播種作業時に播種溝の横に施肥する方法。作土全体に肥料を混和する方法に比べて土壌との接触が少なく、作物による肥料の利用効率が高い。
  • 褐色低地土:
    わが国の沖積低地に分布する代表的な土壌タイプの1つ。本試験の土壌では、作土層に火山灰が混じっている。

図1 堆肥を連年施用した条件における土壌の交換性カリ含量と放射性セシウムの飼料用トウモロコシへの移行係数の関係

図2 連年施養生権における堆肥施用量の違いが飼料用トウモロコシの放射性セシウム濃度に及ぼす影響

図3 低カリ土壌条件におけるカリ施肥が飼料用トウモロコシの放射性セシウム濃度に及ぼす効果

図4 カリ施用条件における堆肥の連年施用の有無が飼料用等もrこしの放射性性有無濃度に及ぼす影響

図5 耕起方法の違いが放射性セシウムの土壌垂直分布に及ぼす影響

図6 耕起方法の違いがほ場表面の空間線量率に及ぼす影響