背景
関東以南の飼料生産現場では、土地生産性を高めるために夏作の飼料用トウモロコシと冬作のイタリアンライグラスの二毛作が広く採用されています。また、たい肥散布や土壌の耕うん、除草剤散布など多くの作業を要する飼料用トウモロコシ栽培については、ほ場を耕起せずに種まきできる不耕起は種機がすでに開発されており、省力的な栽培技術の一つとして期待されています。
しかし、この二毛作体系では、冬作のイタリアンライグラスの収穫後に残る株や根により、不耕起は種機では十分なは種精度が得られないことがあるため、結局のところ作業工程の多い慣行法が行われているのが現状です。
そこで、農研機構は、イタリアンライグラス収穫後の各種耕うん方法とは種機の組み合わせがは種精度や作業効率に与える影響を検討し、飼料用トウモロコシのは種作業時間を短縮しつつ、従来と同等の収量を確保できる二毛作向けの「耕うん同時は種法」を開発しました。
内容・意義
- 本法は、慣行法で行われる反転耕、砕土耕、整地、種まき、鎮圧の5つの作業工程を1つに省略できるので、ほ場作業の延べ面積やトラクタの走行距離が減り、慣行法に比べて作業時間を58%、燃料消費量を67%、は種作業のためのコストを8%削減できます。また、春に行うイタリアンライグラスの収穫作業と飼料用トウモロコシのは種作業の集中化を解消する効果も得られます。たい肥や除草剤の散布は慣行法と同様には種作業の前段と後段にそれぞれ行います(表1)。
- 本法では、簡易耕のための縦軸型ハロー、整地のためのパッカーローラ、は種精度の高い真空は種機をPTO中間軸付きヒッチ5)で一体化してこれらを一度にトラクタでけん引します。これらをけん引するためには100kWクラスのトラクタが必要です(図1)。また、一体化された作業機の重心がトラクタ後車軸から遠くなる場合は、トラクタ前部に付加ウエイトを設置します。
- 本法は、は種作業の工程数を少なくしながらも、縦軸型ハローでの簡易耕によりイタリアンライグラスの株や根の影響を軽減できるので、立毛率6)で確認したは種精度は慣行法に劣りません(表2)。また、研究所内のほ場試験や現地での実証試験の結果、本法では慣行法と同等の乾物収量が得られました(図2)。
今後の予定・期待
「耕うん同時は種法」は、40ha*以上の大きな規模で飼料生産を行う生産者にお勧めのは種法です。本法で用いる作業機はいずれも市販機(合計500万円程度)であり、飼料作物の生産者が自ら組み立ててトラクタに取り付けて作業できます。
* 都府県の一般的なコントラクターが収穫作業を請け負うおよその面積
用語の解説
1) イタリアンライグラス
関東では10月上旬には種作業が行われ、5月上旬~中旬に収穫される単年生牧草。
2) 縦軸型ハロー
地面と垂直に配置された耕うん爪がトラクタの動力により回転し、土壌をかくはん、砕土するパワーハローの一つ。耕うん爪の取り付け方法から縦軸型と呼ばれる。
3) パッカーローラ
は種作業の精度を高めるため、耕起後のほ場を平らに整地するためのローラ。
4) 真空は種機
決められた列に設定した間隔で一粒ずつ種まきできるは種機。穴が開いた円盤に種を一粒ずつ吸い付け、除去板に種があたり落ちる仕組みで、円板の回転数や穴の数で種を落とす間隔を調節できる。
5) PTO中間軸付きヒッチ
後部に真空は種機を取り付けるためのアームで、縦軸型ハローに取り付ける。トラクタからの油圧で真空は種機を昇降でき、延長軸でPTO軸の動力を真空は種機に伝える。
6) 立毛率
立毛とは、ほ場で生育中の作物や作物の生育状況のことで、ここでは、は種作業後に3~4葉期になった飼料用トウモロコシのこと。は種作業後の調査時に立毛が確認された本数が立毛数、設定した立毛数(ここでは250本)に対する立毛数の百分率が立毛率。