プレスリリース
アミノ酸バランス改善飼料の給与は豚舎汚水処理水の水質改善に極めて有用

情報公開日:2017年2月 6日 (月曜日)

ポイント

  • アミノ酸バランス改善飼料の給与は、豚舎汚水処理水中の全窒素濃度を、慣行飼料給与時に比べて約65%に低減することが可能です。
  • 温室効果ガス抑制効果もあり、環境にやさしい畜産業に貢献します。

概要

  1. 農研機構は、茨城県畜産センター、味の素アニマル・ニュートリション・グループ株式会社および住友化学株式会社アニマルニュートリション事業部との共同研究で、肥育豚へのアミノ酸バランス改善飼料(アミノ酸のバランスを改善した低蛋白質飼料、以下「バランス飼料」という。)の給与が、豚舎汚水処理水(以下「処理水」という。)の水質改善に極めて有用であることを飼養から浄化処理までの一連の試験で明らかにしました。
  2. 肥育豚の通常飼養条件下において、バランス飼料を給与した場合の処理水に含まれる全窒素濃度は、慣行飼料給与時の約65%に減少しました。さらに、豚舎汚水の浄化処理過程で発生する温室効果ガス(一酸化二窒素)が慣行飼料給与時の約17%に減少しました。
  3. また、肥育前期、肥育後期の全飼養期間にバランス飼料を給与した場合、出荷時までの日増体重及び枝肉の格付けは慣行飼料給与時と差異無く良好で、生産性への悪影響はありませんでした。
  4. バランス飼料の価格は、その成分調整方法と原料価格から考えて、慣行飼料と同等か、少し安価になる可能性があります。

予算

本研究は,茨城県畜産センター、味の素アニマル・ニュートリション・グループ株式会社、住友化学株式会社アニマルニュートリション事業部および農研機構畜産研究部門の共同契約研究予算に加え、農林水産省委託プロジェクト「地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響評価と緩和及び適応技術の開発」の助成を受けました。

研究の背景と経緯

養豚農家では、豚舎汚水に含まれる窒素を浄化処理により低減した後、処理水として排出しています。排出される処理水中の全窒素濃度は水質汚濁防止法により厳しく制限されており、平成28年7月に養豚業等に適用される「硝酸性窒素等」(アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物及び硝酸化合物)1)の排水基準(暫定基準)が700mg/L から600mg/Lに引き下げられたことから、新しい暫定基準、さらには将来的な一般基準(100mg/L)への対応が急務となっています。
浄化処理能力の向上は設備の増強によっても実現できますが、更新・改修には多くの費用がかかるため、容易ではありません。そこで農研機構と共同研究事業者は、経費を抑えつつ、排出される処理水中の全窒素濃度を低減させるために、肥育豚へのバランス飼料の給与による処理水の水質改善効果の検証を行いました(写真1)。

研究の内容・意義

  1. バランス飼料は、慣行飼料よりタンパク質含量が3%低く、4種類の必須アミノ酸(リジン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン)を添加した配合飼料です(表1)。価格はその成分調整方法から考えて、慣行飼料と同等です。
  2. バランス飼料を給与した場合は、肥育後期における豚舎汚水中の全窒素濃度は慣行飼料給与時の約65%に低減しました(図1左側)。さらに、浄化処理後の処理水の全窒素濃度は約65%に低減し、平均202mg/Lとなりました(図1右側)。
  3. さらに、バランス飼料を給与した場合は、浄化処理過程で発生する温室効果ガス(一酸化二窒素)は、慣行飼料給与時の約17%(排出係数0.5%)に低下し(表2)、排せつ窒素量の減少が、そのまま温室効果ガス削減に繋がる事が確認されました。
  4. 出荷体重110 kg(試験終了時)までの肥育豚の日増体量は、バランス飼料・慣行飼料を与えた場合共に0.94~0.99kgで有意差はなく、また日本飼養標準(農研機構,2013)の標準値の範囲内でした。さらに肥育豚の枝肉格付けも、同等の成績で、バランス飼料の利用が生産性に影響しないことが確認されました。
  5. 平成25年6月に飼料の公定規格が一部改正され、環境負荷低減型配合飼料2)(子豚育成用及び肉豚肥育用)の公定規格が新設されました。開発したバランス飼料は公定規格に適合しています。

今後の予定・期待

  1. 今回は茨城県の銘柄豚を対象として実証実験を行いましたが、他の肥育豚についても同様の肥育成績や浄化成績が期待できます。
  2. バランス飼料の給与により、窒素排出の低減に伴う悪臭防止効果も期待できます。
  3. バランス飼料は温室効果ガス削減効果を持つことから、本飼料の導入により、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を国が認証する「J-クレジット制度3)の活用が可能となります。

参考資料

  1. 日本畜産学会報Vol.87(2016)No.4,373-380
    http://doi.org/10.2508/chikusan.87.373
  2. アミノ酸添加低蛋白質飼料給与技術による肥育豚からの温室効果ガス排出削減(農研機構畜産草地研究所 2012年の成果情報)http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/nilgs/2012/210c0_01_45.html

用語の解説

1) アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物及び硝酸化合物(硝酸性窒素等)
水質汚濁防止法に定める有害物質のうち、アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物及び硝酸化合物(以下「硝酸性窒素等」という)については、アンモニア性窒素に0.4を乗じたものに亜硝酸性窒素及び硝酸性窒素の合計量を硝酸性窒素等として定め、100mg/Lとする一般排水基準が平成13年7月1日より適用され、一般排水基準を達成することが著しく困難と認められる一定の業種(畜産農業を含む)に対しては、暫定排水基準(畜産農業:600mg/L)が設定されています。(平成31年6月末日まで)

2) 環境負荷低減型配合飼料
飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律施行規則の一部を改正する省令等が平成25年6月20日に公布・同日施行され、新たに設定された飼料の公定規格です。余分な栄養成分を含まない、環境負荷を低減する飼料として設定されました。

3) J-クレジット制度
2013年4月より開始された、省エネルギー機器の導入によるCO2削減あるいは家畜排せつ物管理からのN2O削減などの取組による、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度(クレジットとは債権という意味)です。国内クレジット制度とオフセット・クレジット(J-VER)制度が発展的に統合した制度で、国により運営されています。創出されたクレジットは、低炭素社会実行計画の目標達成やカーボン・オフセットなど、様々な用途に活用できます。

参考図・表

写真1 試験豚の飼養状況
試験豚舎は開放豚舎で床面は全面スノコ。敷料は不使用。飼養管理作業は毎日スノコ面清掃を実施。飼料は不断給餌(常時、採食ができる状態での給餌方法)、ふん尿搬出作業は3~4日間隔で搬出。
図1バランス飼料の給与による水質改善効果

表1 バランス飼料の組成
表1バランス飼料の組成

図1 バランス飼料の給与による水質改善効果
図1バランス飼料の給与による水質改善効果
左が豚舎汚水の全窒素濃度、右が浄化処理後の処理水中の全窒素濃度。 バランス飼料の給与により、豚舎汚水中の全窒素濃度が慣行飼料給与時の約65%に低減されたことが、処理水中の全窒素及び硝酸性窒素等濃度(慣行飼料206mgN/L→バランス飼料80mgN/L)の低減に寄与している。

表2 バランス飼料の給与による温室効果ガス及びアンモニアの排出削減効果
表2バランス飼料の給与による温室効果ガス及びアンモニアの排出削減効果
バランス飼料の給与により、浄化処理過程で発生する温室効果ガスである一酸化二窒素及び温室効果ガスの間接排出に深く関わるアンモニアの排出係数が慣行飼料給与時の約17%及び65%に低減した。メタンの排出は検出されなかった。