プレスリリース
(研究成果) 貼り付けやすく剥がれにくい牛の乳頭保護資材を開発

情報公開日:2017年10月16日 (月曜日)

農研機構
株式会社トクヤマ

ポイント

  • 牛の乳頭への貼付けが容易で、最大2週間程度使用が可能なシール式の外部乳頭保護資材を開発しました。
  • 乳頭を物理的に保護できるため、乾乳1)期の乳房炎2)治療後の保護資材としての活用も期待されます。

概要

開発した外部乳頭保護資材

  1. 乳牛の病気である乳房炎は、乳量や乳質の低下の原因となり、その経済的損失額は年間800億円と言われていますa,b)
  2. 乾乳期における乳房炎の新規感染を予防するために、従来から液体状の乳頭保護資材が使われていますが、前処理作業や付着後の乾燥に時間を要すること、数日で脱落してしまうことが課題でした。
  3. そこで、農研機構と株式会社トクヤマは共同研究を行い、乳頭に貼り付けやすく、剥がれにくいシール式の外部乳頭保護資材を開発しました。
  4. 本外部乳頭保護資材は、乳頭へ貼付けてから最大2週間程度使用できるという特長があります。
  5. 本外部乳頭保護資材は、本年11月から販売を開始する予定です。

関連情報

予算:運営費交付金
特許:特許第6189574号

開発の社会的背景と経緯

日本国内における乳牛の乳房炎による経済損失額は、年間800億円と言われていますa,b)。この額には、生乳出荷量の減少や乳質低下による販売損失に加えて、診療費や淘汰、治療中の飼料費、薬代、乳の廃棄などの損失も含まれます。病名別の死廃事故別頭数からみると、乳牛の雌等の死廃事故頭数約14.9万頭のうち、乳房炎(甚急性乳房炎、急性乳房炎、慢性乳房炎、潜在性乳房炎等合計)を原因とするものは年間約1万頭に及びますc)。乳房炎の発症を防止するために、乾乳期の乳牛の乳頭を衛生的な環境に保つ乳頭保護資材の開発が求められていました。農研機構と民間企業がこれまでに共同開発した泌乳期の乳頭保護資材は、乾乳期に使用することは可能でしたが、前処理作業を必要とする、液体で保存する必要があり管理が難しい、乾燥に時間を要する、数日で脱落してしまう等の課題がありました。
そこで、農研機構と株式会社トクヤマは共同研究を行い、乳頭に貼り付けやすく、剥がれにくいシール式の外部乳頭保護資材を開発しました。

外部乳頭保護資材の特長

  1. 今回開発した外部乳頭保護資材は、透明保護フィルム、基材フィルム、粘着層、離型紙の4層から構成されます(図1)。
  2. 基材フィルムの素材はウレタン系樹脂で、非常に柔らかく高強度であり、乳頭形状に合わせて貼り付けできることから剥がれにくく、乳頭をしっかり保護できます(写真1)。
  3. シール式なので、乳頭に簡単に装着できます。
  4. 本外部乳頭保護資材を乳牛の乳頭に装着し、乳頭口が保護される率を調べた結果、装着7日目は100%、14日目は75%の割合で乳頭口が保護されました(図2)。
  5. 乳頭および乳頭口を物理的に保護することで、乳房への細菌等の侵入を防ぐことが期待できます。

今後の予定・期待

  1. 本外部乳頭保護資材は、本年11月に「外部乳頭シール」として国内販売を開始します。
  2. 本外部乳頭保護資材は搾乳牛の乾乳期の使用を前提としていますが、育成牛における乳器の損傷(ケガや虫さされ)の予防や、乾乳期の乳房炎治療後の保護資材としての活用も期待されます。

用語の解説

1)乾乳
妊娠末期の2ヶ月間に搾乳をせずに、次の泌乳に備えて乳腺細胞の再増殖や母体への養分の蓄積を図ること。通常は泌乳量が自然に低下し無理なく乾乳ができるが、泌乳能力の向上により泌乳量の低下がみられない場合がある。この場合には強制的に乾乳させる必要があるd)

2)乳房炎
乳房内に侵入した微生物の感染によって起こる乳管や乳腺組織の炎症。罹患すると乳汁の合成機能が阻害され、異常乳を分泌したり、生乳の体細胞数が増加したりする。臨床型乳房炎と潜在性乳房炎に大別されるe,f)

参考資料等

a) 生産病の今日的課題、日本獣医師会会誌61、論説、165
b) 乳房炎の防除、Dairy Japan、139
c) 平成27年度農業災害補償制度家畜共済統計表、農林水産省
d) 畜産大事典、養賢堂、729
e) 最新農業技術事典、農研機構編著、農文協、1158-1159
f) 乳牛の病気119番、Dairy Japan、48-50

参考図

図1 開発した外部乳頭保護資材
図1 開発した外部乳頭保護資材

写真1 開発した外部乳頭保護資材を乳頭に貼り付けた様子
写真1 開発した外部乳頭保護資材を乳頭に貼り付けた様子

図2 開発した外部乳頭保護資材により乳頭口が保護された率(%)
図2 開発した外部乳頭保護資材により乳頭口が保護された率(%)
供試頭数:8頭(32乳頭)、乾乳牛を用いての試験
(なお、従来の液体タイプの保護資材は通常数日で脱落)