プレスリリース
(お知らせ) 畜産の新たな社会的価値を創出する研究開発プラットフォームを設立
- 持続可能な畜産と豊かな消費社会の構築を目指して -
農研機構
国立大学法人 東京農工大学
日本大学 生物資源科学部
信州大学 農学部
キユーピー株式会社
ケンコーマヨネーズ株式会社
ポイント
農研機構は、東京農工大学、日本大学生物資源科学部、信州大学農学部、キユーピー株式会社、ケンコーマヨネーズ株式会社等※と連携し、「畜産の新たな社会的価値の創出研究開発プラットフォーム」を2025年12月より始動しました。本プラットフォームは、畜産物の新たな社会的価値を創出する研究開発を推進し、認知と啓発活動を通じて、持続可能な畜産業と新しい消費者行動の構築を目指します。
概要
畜産由来の食品を購入する際の判断基準には、価格・おいしさ・栄養価などがあります。近年、その基準に新しい視点として、環境への配慮やアニマルウェルフェア1)、農業者福祉2)などが挙げられるようになってきました。しかし、こうした視点は消費者にとって見えにくいことから、新しい食品の価値として認知され、意識的な消費行動につながるまでに浸透するには生産現場の実態を伝えるなどの啓発活動を通した理解の醸成が重要です。
本プラットフォームは、アニマルウェルフェアなどに配慮した新たな飼養管理技術3)の開発・評価、社会科学的評価を用いた食品の価値の創出から消費者への認知・啓発活動に至るまでの包括的・分野横断的なアプローチを行います。多様な機関が協働し、生産から消費までをつなぐことで、畜産物の新たな価値を社会に広め、持続可能な畜産と豊かな消費社会の構築を目指します。
図1. 畜産の新たな社会的価値の創出研究開発プラットフォームの活動目標
※プラットフォーム参画企業 : キユーピー株式会社、ケンコーマヨネーズ株式会社、味の素株式会社ほか
問い合わせ先など
プラットフォームプロデューサー :
農研機構 畜産研究部門 所長石井 和雄
広報担当者 :
農研機構 畜産研究部門 渉外チーム丸尾 幸絵
詳細情報
プラットフォーム設立の社会的背景および意義
多くの機関では、持続的な食料生産システム構築のために研究開発を行い、様々な技術が開発されています。例えば、スマート畜産4)は、農業従事者の減少および高齢化に直面する生産現場の労働環境の改善、労働負荷の低減に貢献しています。気候変動緩和技術5)の1つには、畜産からの温室効果ガスを削減する技術があり、これは環境問題の解決に貢献するものです。また、アニマルウェルフェアに配慮した飼養管理技術は、家畜を取り巻く飼養環境の向上につながります。これらの新しい技術を利用して生産された畜産物は、すでに市場に出回りつつあります。
しかし、アニマルウェルフェアに配慮した環境で生産された卵や畜産物は、人件費や飼育設備の費用が増加するため高価となります。一方で、消費者の食の購買動機はいまだ価格・おいしさ(味)・栄養価(機能性)が高い優先度を占め、それら畜産物の市場におけるシェアは伸び悩んでいます。
生産者は消費者が求めるものを生産します。そこで消費者が価格だけではない「新しい技術の付加価値」に目を向け、購買行動に移すことは、生産現場へ新技術を導入するための後押しにもなります。そのためには、消費者が畜産物の生産現場の実態への理解を深め、その新しい価値を理解するきっかけが必要です。
その一例が、消費者を農場内に招き、生きた家畜を前に学ぶ場を提供する「教育ファーム」6)の取り組みです。ただし、養豚・養鶏の農場の多くは、防疫と衛生管理の観点から、消費者の立ち入りは難しいという現状があります。
そこで、本プラットフォームでは、生産者と消費者の距離をもっと近く、強固にすることを目指します。社会システム・消費者行動7)の社会的変容を目標と定め、生産から消費に至るまでを分野横断的に研究グループと企業が協働し、畜産物の新たな価値を創出します。また教育活動など様々な取り組みを通して、創出された新しい価値の消費者への認知と啓発活動を行います。
プラットフォーム活動内容および体制について
本プラットフォームは、「知」の集積と活用の場産学官連携協議会8)内に設立され、プロデューサー(1名)とコーディネーター(2名)の下に活動します。研究開発グループは大きく2つのグループに分かれています(図2)。
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生産システムグループ
新たな飼養管理技術の開発と導入された技術の多面的評価を行います。3つの研究コンソーシアムで構成されています。
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社会システム構築グループ
新たな食品価値の創出、認知啓発活動および消費システムの構築を行います。2つの研究コンソーシアムで構成されています。
本プラットフォームでは、様々な機関の特徴を生かした活動を行います。
図2. 畜産の新たな社会的価値を創出する研究開発プラットフォーム体制図
用語の解説
- アニマルウェルフェア
- 「動物福祉」といわれる動物の幸せを科学的な視点で考えることで、動物にとって心地よい状態やストレスのより少ない状態をめざした動物の飼い方のことです。しかし、世界の国々や地域、人々の動物に対する考え方や価値観にも違いがあるので、世界的に通用する「動物福祉」の原則を「5つの自由」(①飢え、渇きおよび栄養不良からの自由、②恐怖および苦悩からの自由、③物理的、熱の不快さからの自由、④苦痛、傷害および疾病からの自由、⑤通常の行動様式を発現する自由)として定めています。
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- 農業者福祉
- 農業従事者が心身ともに健康であること。農業者の健康とは、「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と考え、その実現を目指すものです。
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- アニマルウェルフェアに配慮した飼養管理
- 5つの自由に基づいて作られた日本のガイドライン「畜種ごとの飼養管理等に関する技術的な指針」(農林水産省、2023年)に沿った飼育のこと。畜舎の構造や設備の状況ではなく、動物の健康を第一に考えて、日々の観察や丁寧な取り扱いなどの適切な飼育管理を行うこと。
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- スマート畜産
- ICT(情報通信技術)、IoT、AI、ロボットなどの先端技術を畜産業に活用し、生産性向上・省力化・品質改善を図る新しい畜産システムのことです。従来の経験や勘に頼る畜産から、データに基づく科学的な管理へと進化させる取り組みです。
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- 気候変動緩和技術
- 温室効果ガスの排出を減らし気候変動の原因をできるだけ抑えるための技術。畜産生産から排出される温室効果ガスを削減するための技術としては、電気やガソリンなど化石エネルギーの消費量を削減した技術、家畜からの窒素の排出量を抑える特別な飼料もあります。
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- 教育ファーム
- 生産者(農林漁業者)の指導を受けながら、育てるところから食べるところまで一貫した「本物体験」の機会を提供する取り組みです。
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- 消費者行動
- 消費者が製品購入時に行う意思決定のプロセス、購買後の行動など消費に関わる一連の行動および、意思決定過程の総称のこと。人々の消費に影響を与える社会、文化、政治といった事柄も含みます。
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- 「知」の集積と活用の場産学官連携協議会
- 農林水産・食品分野に異分野の知識や技術を導入し、革新的な技術シーズを生み出すとともに、それらの技術シーズを事業化・商品化へと導き、国産農林水産物のバリューチェーンの形成に結びつける新たな産学連携研究の仕組み(知の集積と活用の場)の構築に取り組んでいる団体です。
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